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スーツの下の化けの皮
第19話
しおりを挟む梅雨の季節になり、うっとうしい雨が降っている。黒傘をさして歩く幸田は、駅舎につくと、携帯電話のメールを確認した。隣町に建つ造形大学に通う姫季と交際をはじめてから、2週間が経過しているが、彼は、提出課題の制作が忙しいらしく、1日1回だけ、メールで挨拶ていどの文章を送信してくる。
「……きょうは、まだのようだな」
朝と昼に連絡はなく、仕事帰りの時間になってもメールは届かない。幸田は閉じた傘を再びひらき、姫季のマンションへ向かった。インターホンを鳴らしても返事がないため、合鍵を使って玄関にはいる。
「姫季くん」
念のため名前を呼んでも、室内は暗く、人の動く気配はない。手探りで照明のスイッチを押すと、以前にも増して散らかった室内が明るくなった。
「こんなに物を床に落として、足の裏を怪我しないもんかね」
脱いだスーツの上着と、書類かばんをいっしょにカウチソファへおくと、ネクタイも解いた。Yシャツの袖をまくり、雑誌や小物をテーブルのうえにまとめる。キッチンの冷蔵庫を開けると、ペットボトルの飲料水が備蓄してあるため、1本だけ抜き取った。キャップを外して飲んでいると、ガタンッと、別室で物音がした。
「姫季くん、いるのか?」
幸田は寝室の前に立ち、ドアを軽くノックしたが、反応はない。
「……はいるよ」
ガチャッと、ドアノブひねって内側へ押すと、パイプ式の折りたたみベッドで眠る姫季を発見した。床に、液晶パネルの目覚まし時計が転がっている。疲れているのか、熟睡しているようだった。幸田は足音に注意しながら近づくと、目覚まし時計を拾い、サイドテーブルへおいた。まさか熱でもあるのかと思い、学生の額へ指を添えたが、その心配はなさそうだ。
「……あれ? ……幸田さんがいる」
「すまない、起こしたか?」
「ん、平気……。自然に目が覚めた……」
「ずっと寝ていたのか」
「……うん」
「大学は?」
「きょうは、休講……」
上体を起こして欠伸をする姫季は、幸田が持ち歩いていたペットボトルを奪い取り、ひと口飲んだ。間接キスでは満足できず、首をのばしてくる。幸田は一瞬、変な顔をしたが、姫季の求めに応じるかたちで、口づけた。
「……もしかして、仕事帰りにわざわざ寄ってくれた?」
「メールがなくて、少し気になったからね。だいぶ、疲れているようだが」
「……ごめん、すっかり寝過ごした」
✰つづく
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