162 / 171
最終章
第162話
しおりを挟むジェミャが去り、残されたリヒトは少し困ったような顔をして、亮介を見つめた。
「心配ないからね、リヒト。僕らは家族なんだ。ジェミャさんは飛んでいっちゃったし、きょうから小屋でいっしょに暮らそうよ。遠慮はいらないよ」
亮介は両腕をパッとひろげ、笑顔で歓迎した。あとから近寄ってきたコリスも、事情を察して「よろしくね~」と尻尾をふる。ハイロは、空を浮くミュオンに「降りてこいよ」と声をかけ、新居に案内した。
「こっちが僕で、向こうがハイロさんの部屋になってるんだ。リヒトは、僕といっしょの部屋でいい?」
間取りを説明する亮介に、ミュオンは顔をしかめ、『このわたしに、半獣属と同じ部屋を使えと?』と返す。夫婦なのだから自然だと思いこむ亮介は、「ご、ごめんなさい」と、即座に詫びた。ハイロは、リヒトのために寝台をつくる仕事ができ、庭にでて作業を始めた。亮介は窓から見えるハイロの背中に目をとめ、ミュオンの説得に挑む。
「あ、あのね、ミュオンさん。ハイロさんのこと、嫌わないであげてね。ふたりが仲よくしてくれると、僕は安心するし、リヒトもよろこぶと思うんだ!」
無理やり会話にリヒトを参加させ、「ほら、お母さんが帰ってきたよ」と、3人の距離を近づけようとしたが、リヒトはプイッと顔を背け、ノネコの定位置であるソファへ腰かけた。ミュオンも視線を逸らし、室内に微妙な空気が流れる。
(……うっ、気まずくなっちゃった? 僕の説明が下手すぎるのかなぁ)
亮介が当惑の表情を浮かべると、森の記憶を語り継ぐノネコは、リヒトに向けて語りだす。
「こうして、きみと直接に話をするのは初めてだね。改めて、わたしは過去の番人、野猫の末裔さ。以後よろしくたのむね、リヒトくん」
気さくに話すノネコは、尻尾を軽くふってみせ、相手の緊張感を解いた。
「ねえ、ミュオンさん。せっかくだし、僕らもノネコさんの話を聞こうよ」
亮介は床にすわりこんだが、ミュオンは窓ぎわへ移動して腕組みをした。ガラスの向こう側で、ハイロが木材を組み立てている。わが子よりも灰色大熊のようすを気にするあたり、ミュオンの心は揺らいでいるのかもしれない。
(なんか、さっきからハイロさんばっか見ているような……。もしかして、少しは意識してるってこと……?)
わずかな関心であっても、ないよりは全然マシである。亮介はソファのほうへ向きなおり、ノネコの話に耳をかたむけた。意外なことに、リヒトは真剣な顔つきになっている。
(しゃべれなくても、リヒトなりに、なにかを感じ取っているはずだよね。急がなくても平気かな。やっと、これでみんなそろったんだもの。……僕たちは、仲よくスローライフを送るんだ!)
できれば、この場にキールやジェミャもいてほしいと思う亮介だが、ミュオンとハイロの再会を素直によろこび、リヒトと共に暮らしてゆく未来を想像して、にっこり笑った。
「ずっとずっと昔、森を訪れた人間は野生動物に襲われて怪我をしたあと、水の精霊と出逢い、それはそれは熱い恋をした。やがて、両者のあいだに赤子が誕生し、希望の光と名付けられる。……残念なことに、水の精霊は育児に参加せず、分化のために姿を消したけれど、父親は愛情深くわが子を育てた」
ノネコが語り継ぐ内容はすでに知り得た情報につき、ときおり小さくうなずきつつ耳をかたむける亮介は、夢の国の主人公を演じているような錯覚にとらわれた。リヒトは、過去の産物ではなく、ミュオンとハイロが生みだした愛の象徴である。そして、唯一、大神族を従わせることができる、ふしぎな能力をもつ少年なのだ。
★つづく
2
お気に入りに追加
340
あなたにおすすめの小説
やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜
ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。
短編用に登場人物紹介を追加します。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あらすじ
前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。
20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。
そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。
普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。
そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか??
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。
前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。
文章能力が低いので読みにくかったらすみません。
※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました!
本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?
秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。
蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。
絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された
「僕と手を組まない?」
その手をとったことがすべての始まり。
気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。
王子×大学生
―――――――――
※男性も妊娠できる世界となっています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる