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第8部
第138話
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※性描写あり。ご注意ください
水の精霊、ミュオン・リヒテル・リノアースは、ずっと昔、獣属の血が混じった人間と肉体関係におよび、この森に異形なる生命を生みだした。しかし、わが子は10年あまりで消息を絶つ。どれほど探しても、わが子は見つからず、気配さえ感じることはなかった(黒蛇に呑まれ仮死状態となる)。
……まさか、あの子が自ら死を選ぶとは思えない。なぜ姿を消したのだ。……わからない。わからない。ただ、はっきりわかることは、精霊の忘れ形見を失うわけにはいかない。最近、妙に鼻が効くようになったからね。かならず、見つけてみせる。
少しずつ獣人化してきた人間は、分化して消えた水の精霊に想いを馳せるいっぽう、ある日を境に姿を見せなくなったリヒトを、懸命に捜索した。しかし、生きているあいだに彼は愛する精霊との再会を果たせず、わが子の発見には至らなかった。
「おい、ミュオン」
『え?』
「おれを拒むな」
丸太小屋でハイロと子づくり中のミュオンは、性行為の最中に意識が飛んだ。なにか大きな引力が発生したかのように、ハイロと抱きあったまま宙にからだが浮き、手足が軽くなったかと思えば、腹底を圧迫される異質な感覚だけが強くなる。そして、ふたたび床に転がる。そのあいだ、遠い過去が脳裏をよぎり、ハイロに腰をふられるとひどく興奮状態となり、声をがまんして身悶えた。
半獣のハイロに股をひろげて見おろされるミュオンは、恥ずかしさよりも不愉快な感情を隠し切れず、思わずムッとした。
『ムッツリも、いいところです。あなたって、昔から図々しい半獣だったのですね……。わたしを組み敷けて、満足ですか……』
「どうした、急に」
『どうもしません。再確認したまでです』
いくら丁寧にやさしい手つきで抱かれようと、最終目的を受け容れたミュオンは、ハイロがズルッと腰を引き抜くと、背筋や喉がふるえた。ミュオンの細い腕や足に自重を被せ、相手の息づかいを感じ取るハイロは、そっと銀色の髪を撫でた。
『ハァ、ハァッ、これで何度目でしょう……。いいかげん、必要ないのでは……?』
「自覚症状のほうは、どうなんだ」
『と、とくになにも……』
ハイロは精霊の雄性器官に指をからめ、いつもと変わらない手触りや反応をたしかめた。ミュオンの下腹部へ念入りに指を這わせるが、妊娠の有無を知る術はない。ただ、ミュオンが無事に身ごもり、安心して出産に挑めるよう、肌に触れる指先に願いを込めた。
『あまり、しつこく触らないでください。その手つきは、なんだかいやらしいです……』
「いやらしい?」
『はい。もう終わったのだから、早くどいて、服を着てください』
悪態づくミュオンだが、ハイロが背を向けると、胸の奥が痛むのを感じた。そばにいるだけで安心する存在でありながら、からだをつなげることでしか払拭できない因果関係は、もどかしくもあり、虚しくもあり、相思相愛と腐れ縁は、判別がむずかしい。
ミュオン、たのむからリヒトの無事を祈ってくれよ。たとえきみが忘れても、かならず思いださせてみせる。この手で、もういちど、きみを抱きたいと思うから……。ミュオン・リヒテル・リノアースよ。わが子ときみに、ふたたびめぐり逢うときまで、この身は眠りにつくとしよう──。
男が息絶えたあと、朽ちてゆくだけの肉体に口をつけた肉食動物たちは、自然界の摂理を逸脱し、人語をあやつる半獣属として進化を遂げていく。森の大地に流れた男の血は、やがて、恋しあうふたりを引き寄せる。
★つづく
水の精霊、ミュオン・リヒテル・リノアースは、ずっと昔、獣属の血が混じった人間と肉体関係におよび、この森に異形なる生命を生みだした。しかし、わが子は10年あまりで消息を絶つ。どれほど探しても、わが子は見つからず、気配さえ感じることはなかった(黒蛇に呑まれ仮死状態となる)。
……まさか、あの子が自ら死を選ぶとは思えない。なぜ姿を消したのだ。……わからない。わからない。ただ、はっきりわかることは、精霊の忘れ形見を失うわけにはいかない。最近、妙に鼻が効くようになったからね。かならず、見つけてみせる。
少しずつ獣人化してきた人間は、分化して消えた水の精霊に想いを馳せるいっぽう、ある日を境に姿を見せなくなったリヒトを、懸命に捜索した。しかし、生きているあいだに彼は愛する精霊との再会を果たせず、わが子の発見には至らなかった。
「おい、ミュオン」
『え?』
「おれを拒むな」
丸太小屋でハイロと子づくり中のミュオンは、性行為の最中に意識が飛んだ。なにか大きな引力が発生したかのように、ハイロと抱きあったまま宙にからだが浮き、手足が軽くなったかと思えば、腹底を圧迫される異質な感覚だけが強くなる。そして、ふたたび床に転がる。そのあいだ、遠い過去が脳裏をよぎり、ハイロに腰をふられるとひどく興奮状態となり、声をがまんして身悶えた。
半獣のハイロに股をひろげて見おろされるミュオンは、恥ずかしさよりも不愉快な感情を隠し切れず、思わずムッとした。
『ムッツリも、いいところです。あなたって、昔から図々しい半獣だったのですね……。わたしを組み敷けて、満足ですか……』
「どうした、急に」
『どうもしません。再確認したまでです』
いくら丁寧にやさしい手つきで抱かれようと、最終目的を受け容れたミュオンは、ハイロがズルッと腰を引き抜くと、背筋や喉がふるえた。ミュオンの細い腕や足に自重を被せ、相手の息づかいを感じ取るハイロは、そっと銀色の髪を撫でた。
『ハァ、ハァッ、これで何度目でしょう……。いいかげん、必要ないのでは……?』
「自覚症状のほうは、どうなんだ」
『と、とくになにも……』
ハイロは精霊の雄性器官に指をからめ、いつもと変わらない手触りや反応をたしかめた。ミュオンの下腹部へ念入りに指を這わせるが、妊娠の有無を知る術はない。ただ、ミュオンが無事に身ごもり、安心して出産に挑めるよう、肌に触れる指先に願いを込めた。
『あまり、しつこく触らないでください。その手つきは、なんだかいやらしいです……』
「いやらしい?」
『はい。もう終わったのだから、早くどいて、服を着てください』
悪態づくミュオンだが、ハイロが背を向けると、胸の奥が痛むのを感じた。そばにいるだけで安心する存在でありながら、からだをつなげることでしか払拭できない因果関係は、もどかしくもあり、虚しくもあり、相思相愛と腐れ縁は、判別がむずかしい。
ミュオン、たのむからリヒトの無事を祈ってくれよ。たとえきみが忘れても、かならず思いださせてみせる。この手で、もういちど、きみを抱きたいと思うから……。ミュオン・リヒテル・リノアースよ。わが子ときみに、ふたたびめぐり逢うときまで、この身は眠りにつくとしよう──。
男が息絶えたあと、朽ちてゆくだけの肉体に口をつけた肉食動物たちは、自然界の摂理を逸脱し、人語をあやつる半獣属として進化を遂げていく。森の大地に流れた男の血は、やがて、恋しあうふたりを引き寄せる。
★つづく
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