異世界で８歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ？

第６部

第116話

　──沈黙は神秘、覚醒は栄光。


　山野さんやを悠々と飛行する鴫シギは、森の未来を何気なにげなく歌う。はるかな大地にやってきた人間は、種族をこえて、かしこくも手をとり、幸福の花を咲かせるのか、と。それも、すべては過去の産物である。亮介は今、新しい時代を生きている。

「久しいのう。地の精霊よ」

　上空で待ち受けていたジェミャに、鴫は「キシシッ」と、うれしそうに笑った。

『老獣にしては、お盛んだな。まだ、繁殖のため、この森に飛んでくるとは、たいした玉タマだ』

「キーシッシッ。わしは生きることに貪欲だからのう。それに、人間の肉は栄養価が高いと聞く。ようやく、向こうからやってきたのだ。せめてひとくち、味わってみたいのう」

『きさま、あの人間を狙っているのか。ただのガキだぞ』

「見た目はの。味はおとな、、、である。あれが森にあらわれたとき、本来の姿ではなくなっておるのだ。しかしながら、実際がどうであれ、うまそう、、、、でならん」

　キツネや大熊クマほどではないが、大鳥オオトリにとって亮介は、捕食対象である。自然領域における人間の立場は、断じて、強者などではない。たとえ亮介に非がなくても、半獣属とは相容あいいれない存在だった。境界を越えてハイロやキールといっしょに暮らせる状況は、ミュオンによって構築された環境であり、亮介の力だけでは不可能だった。

「地の精霊よ」

　大鳥の鴫は、いつもの調子を抑えて語りだす。

「考えたことがあるか。未来ではなく、この森の終焉を。かたちあるものは、かならず滅びる。いま、こうしている間に、誰にも気づかれないうちに、ゆるゆると少しずつ、世界は毀こわれているのだ。……しかしながら、われわれは子孫繁栄のため、血を絶やさぬよう、命の種をつなげてゆく。だが、新しく生まれてくる子らに、豊かな大地は残されているのだろうか。己の血と肉をわけた子に、幸福の花を育てる術すべがあるのだろうか」

　自然界は霊気に満ち、たえず信号を周りへ送りつづけている。さまざまな情報は鋭敏な感覚と心によって解読することができたが、精霊に囲まれて過ごす半獣属の多くは、信号を受け取ることはなかった。ごく稀まれに、惑わされて斃たおれるものがいるため、精霊とは関わらないほうがいいという考えが定着した。

『大望を遂げたくとも、途遠みちとおしってね』


★つづく