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第6部
第99話
しおりを挟む『よかろう』
意外にも、あっさり引き受けたジェミャは、亮介の鼻先を指でピンッと弾いた。
「アイタッ!」
『どうせ、そんなことだろうと思っていた。あいつは分化して間もないが、子を産める成体なのはまちがいない。精気のにおいでわかる。水の精霊は、妊娠可能な器官と細胞を隠し持っている。もっとも、その仕組みはわれとて同じ。雌性の状態で子胤を注入されたら、かならず身ごもる。それに……、まあいい』
「やっぱり、そうなんだ。キールやコリスも、ミュオンさんがハイロさんと子づくりしてるのはまちがいないって言うけど、僕は、ふたりの口から夫婦になるって知らされてないから、からだの具合がどうなのか、うまく聞きだせなくて困ってたんだ」
ジェミャはなにかを言いかけてやめたが、亮介は聞き逃してしまった。
『夫婦だと? 笑わせるな。精霊は自然に還るもの。誰であろうと、同じ個体を繋ぎとめておくことは不可能だ』
「どういう意味? 赤ちゃんを産んだら、ミュオンさんは消えちゃうの?」
亮介の不安はハイロにも共通する内容につき、いくらか前のめりに聞き返した。せっかく結ばれても、子づくりだけが目的で、すぐ離れ離れになることが決まっている。それでは、なんのために深く愛しあうのか、切なさしか残らない。
(好きになった相手が精霊だから? ハイロさんは、ミュオンさんが消えると知ってたら、子づくりなんてしなかったんじゃ……)
種族や存在理由が異なる以上、考え方も生き方もちがう。だが、心が通じて惹かれ合う者は、永遠の愛を信じてうたがわない。亮介も、ハイロとミュオンのしあわせを願っていたが、現実は無慈悲だった。
「そ、そんな……、それじゃあ、ふたりは、ずっといっしょにいられないの……?」
精霊だけでなく、半獣や人間にも寿命はある。どれほど別れがたくとも、いつかは去らなければならない。亮介は、ポロポロと涙がこぼれた。
『泣くほどのことか?』
「だって、悲しいから……。せっかく仲よくなれたのに、お別れが近いなんて……」
『精霊は分化すると言ったはずだ。何度でもミュオンは生まれる』
「……そうだけど、ハイロさんが好きになったミュオンさんは、ひとりきりだよ。……見た目が同じでも、今、いっしょにいるミュオンさんは、僕にとっても、ただひとりだけだ」
理屈ではなく、気持ちの問題だ。精霊は永遠の象徴などではない。
★つづく
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