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第6部
第95話
しおりを挟むすべての生命体は、ひとつも欠け損じなく、完全なさまで誕生するわけではない。生まれつき障害をもつ者や、あとから身体の一部を損傷し、これまでどおりの生活が困難な状況に陥ってしまう可能性もある。
軽度の不感症をもつコリスは、野生の本能こそあるが、発情期がめぐってきても、雌との交尾は気がすすまなかった。性的な刺激に反応しても、行動にでることはいちどもなく、同族のあいだでは臆病者と陰口をささやかれていた。
「なにそれ、ひどい話。そんなの、気にすることないよ。みんな、いつ、どんな病気に罹るかわからないし、ずっと五体満足でいられるとはかぎらないもの」
亮介は語気を強めたが、肩に乗っているコリスは、「へへっ」と小さく笑った。
「ありがとう、リョースケくん。ぼくね、丸太小屋の暮らしが好きになったよ。あそこにいるみんなのことも大好き。ぼくは力もないし、からだも小さいし、居ても役に立たないと思うけど、追いださないでくれると、うれしいなぁ」
「追いだすなんて、あり得ないから安心して。それに、コリスくんにできることは、たくさんあるよ。僕の話し相手とか、煙突掃除とか、ごはんの味見とか」
「わっ、いいね! ごはんの味見係!」
食べものの話題におよぶと、コリスの目はキラキラ輝いた。亮介は思わず、くすッと笑い、閉鎖林の出口を目ざした。わざわざ自分から外的な欠点を白状するほど、コリスは亮介を信頼していた。存在感のあるハイロや、水の精霊ではなく、丸太小屋の主人は誰なのか、コリスなりに見極めた結果である。どこからどう見ても弱小生物にすぎない仔栗鼠を、亮介は笑顔で迎えいれてくれた。居場所を見つけたコリスは、身のうえ話を主人に聞かせることで、隠しごとはなにもないとあきらかにしてみせ、生まれてはじめて、清々しい気分になった。
小さな動物をいたわってくれるほど、自然環境は甘くない。なんの誓約もなしに屋根の下で暮らせるコリスには、夢のような展開だった。
『まるで子どもだな』
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「ほえ、なにも言わないよ~?」
「そう? 今、声が聞こえたような……」
人間よりも多くの音を聞きとれる半獣属だが、その声は亮介の耳にだけ響いてきた。まさに、探していた地の精霊の声だった。
『なぜ、人間の子が精霊の加護を受けているのだ。おまえの真なる姿を、あばいてやろう。クククッ』
★つづく
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