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第6部
第93話
しおりを挟むしばらく平和な日常がつづいた亮介は、黒蛇や大神との遭遇、ハイロを憎む大熊の存在を忘れたわけではないが、〈ジェミャ〉という地の精霊が出現した場所へ、コリスと向かっていた。
「閉鎖林の地形は、よくわかっていないしぃ、危険がいっぱいだと思うけどな~」
「でも、ハイロさんもノネコさんも無事に帰ってきたし、僕だって、精霊についてもっと調べたいんだ」
ミュオンのそばを離れず過ごすハイロに代わり、ノネコは家事を担当し、キールは、丸太小屋の警備や畑仕事を引き受けた。それぞれ協力して生活を送るなか、亮介は自己浄化を有効利用するため、精霊探しに再挑戦した。
「ぼくらふたりだけで奥地まで行って、だいじょうぶかなぁ。あっ、見えてきたよ。あそこの大きな葉っぱをつけた木が入口だったかな……」
亮介の肩に乗って背伸びをするコリスは、昼間でもうす暗い場所を指さした。
(わ、確かにちょっと不気味だ……。おばけ屋敷みたい……)
常緑樹が朽ちかけ、地面に枯れ葉が散らばっている。どこからともなく湿った風が吹き、シャツの裾がハタハタと音を立てて揺れた。亮介は、丸太小屋の納戸で見つけた弓矢を手にしている。使い方を練習したわけではないが、念のため持ち歩いた。
(森の動物たちを傷つけるなんて、絶対にしたくないけど、護身用の武器はあったほうがいいよね)
自給自足の生活につき、食糧は豊富とはいえないが、食べるものに困るほど、生産性は悪くない。肉類による栄養補給は、ハイロの非常食(干し肉)を分けてもらっていた。
「リョースケくん、見て見て。あそこ、地面が割れてるよ」
「ホントだ。この辺りで、ハイロさんとノネコさんは、ジェミャを見たのかな」
まるで紙切れを指で裂いたかのように、一筋の線が地面に走っている。亮介は足もとに気をつけながら、亀裂の底をのぞきこんだ。2メートルほどの深さまで確認できたが、それ以上は暗すぎて見えなかった。亮介もコリスも、うっかり落ちてしまわないよう、注意が必要な深さである。
「リョースケくん、ぼく、なんだかこわくなってきた~」
「だ、だいじょうぶだよ。僕らの目的は、ミュオンさんについて、詳しく話を聞きたいだけだもの」
少なくとも、情報提供による交換条件をハイロへ持ちだしたジェミャは、水の精霊について、なにかを知っている。閉鎖林まで足を運んだ亮介にも、それなりの考えがあった。
★つづく
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