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第6部

第92話

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 生殖行為の有無は、においでわかる。夏の終わりごろから、ハイロはミュオンと子づくりをはじめた。隠し部屋で肉体を重ねるふたりは、いつにもまして口数が少なくなってゆくが、丸太小屋の雰囲気は和やかだった。


「なあ、精霊と交尾するのって、やばいくらい気持ちいいって話だよな。おっさんのやつ、ミュオンの妊娠がはっきりするまで何度も抱いてるみたいだし、ちょいとけるぜ。おいらも人型になれたら、これでもかってくらい、ミュオンをあえがせてやるのに……」

「ちょっと、キール。いやらしい発言やめてよ。赤ちゃんができるまで、静かに見まもるって決めたでしょ」

「ハイロさんとぉ、あのきれいな精霊さんが交尾したあとってぇ、いいにおいがしてくるんだよね~。ぼくもぉ、ムラムラするよ~」

「おやおや、半獣属ふたりとも、リョウスケくんの前で不粋ぶすいな言動は感心しませんね」

 隠し部屋のある天井を見あげて鼻の下をのばすキールとコリスに、亮介とノネコが口をはさむ。人間の亮介にはわからないが、ハイロとミュオンが性交渉をすると、室内に独特なかおり、、、がひろがるらしい。だが、隠し部屋からは物音ひとつせず、精霊の水氣は空間を遮断しゃだんする効果があるのかもしれない。いわゆる、ふたりだけの世界(密室)で、濃厚な関係を築いていると思われた。


(……直接、僕たちには言わないけれど、ハイロさんとミュオンさんは、ほんとうに抱きあってるんだよね。半獣と精霊の夫婦だなんて、やっぱりすごいなぁ。ふたりが結ばれてうれしいのに、なんで僕の胸はモヤモヤするンだろう。……変なの)


 精霊の受胎は、本人の自覚症状をもって確定する。また、妊娠期間は個体差があり、初産ういざんとなるミュオンの場合、どのようなかたちで進行するのか、未知の部分が多かった。とはいえ、三交もすれば妊娠は可能であり、ミュオンの体調の変化が認められないうちは、ハイロとの性交回数が増えるばかりであった。


「……まだなのか」

『あなたこそ、早くわたしに子胤を授けてください』

「そうしているつもりだが、なにも感じないのか」


 ミュオンの体内へ性器を挿入する側のハイロとしては、十分なほど子胤を流し込んできたが、受け身の妊娠が発覚しないかぎり抱きあう必要があった。しかし、ひと月が経過してもミュオンにきざしはなく、互いに不測の事態を認めざるをえない。


★つづく
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