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第6部

第91話

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※性表現あり


 自己充足を大きな善と考えたとき、快の目的は、健康を楽しむためである。精霊の成り立ちは自然の力であり、調和と秩序を乱す者は、許さない傾向にあった。厳密な支配者が君臨しない自然界において、人為をこえて存在する精霊と半獣属は、他者のために目ざめた慈悲により、与えられた環境で相互依存関係が形成され、生の本質を理解していく。生の営みとは、各個が他者と外的に同化することで、全体が円環をなしていくことである。

 利害を超えたつながりは、深い思いにしたがって生きることで、見出だせる。

 人間の力を超えた大自然の摂理は、りと在らゆるものを造化させ、概念と命題をつくりあげた。過去の思想に惑わされる必要はないが、偏見や先入観に惑わされた感覚は、誤りである。自然がつくった理性的でもっともすぐれた作品は、人間さえ模倣する。人類の種に属す生物は、精神の純化が求められた。


「……精霊や半獣は、人間に似せて造られた特権的存在ということか」

『どうでしょうね。精霊われわれは自然の力で生みだされた創造物です。地の獣族である大熊あなたのように、将来の繁栄が約束されているわけではありません』

「なぜそう思う。おまえは、おれを受けれたくないのか」

『ええ、そうですとも。否定はしませんよ。……確かに、あなたの存在は他の半獣属より目を引きつけますが、それは遠い記憶に導かれた感情です。かつて、灰色大熊ハイイロオオクマと愛しあった精霊とわたしは、別人格ですからね。……それなのに、あなたの子を産むことが、なすべき行為だなんて、これではまるで、わたしが無価値みたいではありませんか』

「自分自身を守りたければ、利害打算や義務感を排除しろ。おれがおまえの生を支える存在になる」

『かんたんに言わないでください』

「そっちこそ、かたくなに考えすぎだ。少しくらい、おれのことばを信じろよ」

 
 おもむろに顔を近づけてくるハイロの接吻を、まぶたを閉じて受けとめるミュオンは、全身がふるえた。人型のハイロに抱きしめられる感触は、ふしぎと心地よく、投げやりな気持ち(自己犠牲の精神)にとらわれてしまう。精霊の手足から余計な力が抜け落ちると、ハイロはミュオンを裸身にし、自分も衣服を脱いだ。

 半獣属ハイロ精霊ミュオンによる性交渉は月夜の晩に隠し部屋で実行されたが、ふたりの信頼関係はあいまいのままだった。


★つづく
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