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第5部

第78話

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 広範囲にわたり樹木が密集し、さまざまな生物が共存する森林域(自然界)には、隙間なく立木の枝が蔓延はびこる、閉鎖林と呼ばれる場所がある。太陽光を直接受ける高木の枝葉を、林冠りんかんという。葉量が増加して肥大した幹の辺りは、昼間でも非常に暗い。風化物や枯葉が散らばる土壌は、林冠が光をさえぎっているため、独特な異臭を放っていた。


「今にも大蛇が出てきそうな雰囲気だね」

 不穏な空気を懸念して口走るノネコは、斜に見あげたハイロの表情に、決意の強さを感じた。とはいえ、自己浄化をしたからといって、清廉潔白を証明できるわけではない。だが、灰色大熊がにおわすおごそかな気配は、人型になった今でも損なわれていなかった。時間は要したが、ミュオンが心酔するほど、ハイロは王獣にふさわしい資質を兼ねそろえている。本人は無自覚だが、ノネコは頭が下がる思いだった。


「きみの勇気ある行動力には、いつも感服するよ。リョウスケくんやミュオンさんのためとはいえ、命がけの選択を強いられている」

「おおげさだな」

「謙遜することはない。語部のはしくれとて、わたしにも見る目はある。……きみとミュオンさんは、結ばれるべき存在なんだ」

「気づいていたのか」

「もちろんさ。おめでとう、心から祝福するよ。やっと、想いが通じあえたようだね」

「どうかな。あいつはまだ迷っている」

「そうかい。それは脈ありってことじゃないのかい。拒絶反応を示されるより、ずっと建設的だ」


 最初のうちは、半獣属との性交渉など考えられなかったミュオンだが、身体の内奥がハイロの細胞を求めていることを認め、いやいやながら口説き落とされた。不確かな感情は、ふたりの覚悟と距離感を惑わせる。ハイロは、ミュオンの気持ちを優先し、しばらくようすを見ることにした。


「ミュオンさんは潔癖症というか、妙に乙女おとめな性格だから、少しくらい強引に迫ったほうが、お互いのためかもしれないよ。……きみにも、がまんの限界はあるだろう?」

「おれは待つと決めた」

いな、たとえ無理やりであろうと、きみの役目は、あの精霊、、、、の体内に子胤を注入することだよ。唯一無二のね」


 そうなることが必然であろうと、ミュオンとの恋人関係は始まったばかりである。過去にとらわれすぎて、最終目的をあせってはいけない。ハイロは小さくため息をき、首をふった。


★つづく
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