78 / 171
第5部
第78話
しおりを挟む広範囲にわたり樹木が密集し、さまざまな生物が共存する森林域(自然界)には、隙間なく立木の枝が蔓延る、閉鎖林と呼ばれる場所がある。太陽光を直接受ける高木の枝葉を、林冠という。葉量が増加して肥大した幹の辺りは、昼間でも非常に暗い。風化物や枯葉が散らばる土壌は、林冠が光をさえぎっているため、独特な異臭を放っていた。
「今にも大蛇が出てきそうな雰囲気だね」
不穏な空気を懸念して口走るノネコは、斜に見あげたハイロの表情に、決意の強さを感じた。とはいえ、自己浄化をしたからといって、清廉潔白を証明できるわけではない。だが、灰色大熊がにおわす厳かな気配は、人型になった今でも損なわれていなかった。時間は要したが、ミュオンが心酔するほど、ハイロは王獣にふさわしい資質を兼ねそろえている。本人は無自覚だが、ノネコは頭が下がる思いだった。
「きみの勇気ある行動力には、いつも感服するよ。リョウスケくんやミュオンさんのためとはいえ、命がけの選択を強いられている」
「おおげさだな」
「謙遜することはない。語部の端くれとて、わたしにも見る目はある。……きみとミュオンさんは、結ばれるべき存在なんだ」
「気づいていたのか」
「もちろんさ。おめでとう、心から祝福するよ。やっと、想いが通じあえたようだね」
「どうかな。あいつはまだ迷っている」
「そうかい。それは脈ありってことじゃないのかい。拒絶反応を示されるより、ずっと建設的だ」
最初のうちは、半獣属との性交渉など考えられなかったミュオンだが、身体の内奥がハイロの細胞を求めていることを認め、いやいやながら口説き落とされた。不確かな感情は、ふたりの覚悟と距離感を惑わせる。ハイロは、ミュオンの気持ちを優先し、しばらくようすを見ることにした。
「ミュオンさんは潔癖症というか、妙に乙女な性格だから、少しくらい強引に迫ったほうが、お互いのためかもしれないよ。……きみにも、がまんの限界はあるだろう?」
「おれは待つと決めた」
「否、たとえ無理やりであろうと、きみの役目は、あの精霊の体内に子胤を注入することだよ。唯一無二のね」
そうなることが必然であろうと、ミュオンとの恋人関係は始まったばかりである。過去にとらわれすぎて、最終目的を焦ってはいけない。ハイロは小さくため息を吐き、首をふった。
★つづく
3
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
【完結】真面目系眼鏡女子は、軽薄騎士の求愛から逃げ出したい。
たまこ
恋愛
真面目が信条の眼鏡女子カレンは、昔からちょっかいを掛けてくる、軽薄な近衛騎士ウィリアムの事が大嫌い。いつも令嬢に囲まれているウィリアムを苦々しく思っていたのに、ウィリアムと一夜を共にしてしまい、嫌々ながら婚約を結ぶことに•••。
ウィリアムが仕える王太子や、カレンの友人である公爵令嬢を巻き込みながら、何故か求愛してくるウィリアムと、ウィリアムの真意が分からないカレン。追いかけっこラブストーリー!
悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜
ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……?
※残酷な描写あり
⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。
ムーンライトノベルズ からの転載です。
【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない
かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が
シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。
女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。
設定ゆるいです。
出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。
ちょいR18には※を付けます。
本番R18には☆つけます。
※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。
苦手な方はお戻りください。
基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。
堕ちる君に愛を注ぐ~洗脳・歪んだ愛のカタチ~
Yura
BL
君の全てを愛しているから、君の全てを支配したい。
じっくりゆっくり堕ちていこうね。
ずっと見てるし、君の傍にいるから…。
愛してるよ。
攻めが受けを監禁する短編集です。(全部を通すと長編になる可能性もあります)
※どちらの【プロローグ】も1人用朗読劇の台本としても読める仕様となっております。
※4話目の【主様の喜ばせ方】からはR18となっております。
伏線回収とか少しありますが、気になるタイトルからお読み頂いても分かるようになっております。
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
酔って幼馴染とやっちゃいました。すごく気持ち良かったのでそのままなし崩しで付き合います。…ヤンデレ?なにそれ?
下菊みこと
恋愛
酔って幼馴染とやっちゃいました。気付いたら幼馴染の家にいて、気付いたら幼馴染に流されていて、朝起きたら…昨日の気持ち良さが!忘れられない!
…え?手錠?監禁?ジョークだよね?
んん?幼馴染がヤンデレ?なにそれ?まさかー。
小説家になろう様、ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる