上 下
64 / 171
第4部

第64 話

しおりを挟む

 生まれつき身体に不具合のある大熊クマは、水の精霊ミュオンの真の姿や正体をあやしく思ういっぽう、うるわしい顔だちや、しなやかな白い手足を見た瞬間、虫酸むしずが走った。その場で、噛みつきたいほど不快な気分にとらわれたが、いつ同居人がもどってくるかわからないため、精霊らしき人間をかつぎだした。

 最初のうちは無抵抗でようすをみていたミュオンは、水氣を感じるところへ差しかかると、持てる力をふりしぼり、思いきりクマの背中を蹴りつけた。半獣の巨体がよろめいた隙に全速力で走り、川辺に到着すると迷うことなく飛びこんだ。水中に潜られた時点で、クマやキツネはにおい、、、を当てに動けず、川辺とは反対の山間やまあいを探しまわっていた。

 感覚において、ハイロはにおい、、、とは関係なく、ミュオンの気配を追うことができた。ハイロの体内にはミュオンの精気が流れこんでいるため、細胞が過大にはたらき、見えない案内人に導かれるかのように、川辺までたどり着いた。


「……ミュオン、いるのか?」


 気配は感じるものの、姿を目視できないハイロは、無意識に眉をひそめた。ミュオンの飛びこんだ水源は、亮介たちがみそぎをした川の支川しせんにつき、流域内に身をひそめているはずだ。


「いるなら、出てこいよ」


 どこへなりとも顔を向けて呼びかけるハイロは、川の流れに目を留めた。急流ではあるが、人型の状態ならば、潜水は可能である。何度か精霊の名前を呼び、向こうからの浮上を待ったが、いっこうにあらわれないため、小さくため息を吐いた。


「来なければ、こっちから行くぞ。……いいんだな?」


 ミュオンの気配は微弱だが近くに感じるハイロは、大きく息を吸いこむと、川底へからだを沈めた。水深は2メートルほどだが、流れが複雑でややにごっており、油断すると淵に引きずり込まれそうになった。ゆっくり下流へ進み、うす暗い視界に目を凝らすうち、薄くて透明な膜に蔽われたミュオンが、水底に横たわっていた。なぜか裸身はだかである。肩をつかもうとして腕をのばすと、スウッと、すり抜けてしまった。いったん息継ぎが必要になり、水面へ顔をだすと、風の吹き抜ける音が、シギの啼き声のように聞こえた。だが、樹木の枝に渡り鳥の姿はない。ふたたび潜水しようと息を吸いこんだハイロは、耳の奥に強い刺激を受けた。


★つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

処理中です...