異世界で８歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ？

第３部

第59話

　夢と現実の境界があいまいな日常を、リヒトを通じて疑似体験した亮介は、肉食獣に噛みつかれた人間が、治癒いやしの力をもつ水の精霊と出逢い、やがてふたりのあいだに子どもが生まれたと、見たままを話した。


「ふむ、それは実に興味深いね。半獣属の始祖は、人間でまちがいないだろう。灰色大熊のハイロさんが、生き証人だ。気になるのは、ミュオンさんのほうだね。彼の姿は雄性だけど、リョウスケくんの言うとおり身ごもることが可能ならば、少し厄介やっかいだな」


　ノネコは深刻な顔に変わり、それを見たキールは、「なにが厄介なんだ？」と聞き返した。いくらハイロが救出に向かったとはいえ、万が一、血迷った大熊が無理やりミュオンと交尾した場合、精霊は半獣属の子を妊娠するおそれがあった。数秒ほど遅れてハッとしたキールは、「くそっ」と舌打ちをした。亮介とコリスは窓を見つめ、収穫できそうな夏野菜に目を留めた。ハイロがつくった畑には、トマトやレタス、きゅうりやナスが豊作である。照りかえしの陽をあびて、緑の葉がキラキラ光っていた。


　幼さゆえの制限を受ける亮介は、今こそ自分の正体を告げる機会ではないかと決意した。　

「みんな、聞いて。僕は、こちら側の住人じゃないんだ」

「そりゃ、当然だろ。おまえは人間だからな。ほんとうは、森林域で、こうものんびり暮らせるもンか」

　キールのツッコミはもっともだが、亮介は「そうじゃなくて」とつづけた。


「僕はね、斗馬とうま亮介りょうすけは、この森で目を覚ます前まで、高校生だったんだ」

「ほえ？　こうこうせいって、どんな食べもの？　おいしそうな響き～」

　聞き慣れない単語に反応したコリスは、なぜか口にはいるものを想像している。亮介は思わず、くすッと笑い、実年齢が16歳であることを打ち明けた。

「おいらとリョースケが同じ歳とし？　どう見ても、おまえは幼子だぜ！」

「キールくんは16歳なんだ。ぼくは18歳だから、こっちがおとなだね～」　　　

「う、うるさい、黙ってろ！」

　ついでに、キールとコリスの年齢も判明した。沈黙を保つノネコは20歳である。

「僕だって、どうして急に若返ったのかさっぱりだよ。ハイロさんは、ミュオンさんの霊力を吸収して人型になったけど、僕は最初から８歳だった。……それに、みんなと出逢ったことは、偶然なのかな？　僕にはまだ、逢わなきゃいけないひとが、この森のどこかにいるような気がする」


★つづく