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第2部

第50話

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 心に迷いがなく、あるがままの状況を敏感に察知した亮介は、丸太小屋で予期せぬ出来事が起きようとしている空気を読んで、ハイロをふり向いた。


「……悪い予感がする。僕の勘違いかもしれないけど、みんな、今すぐミュオンさんのところへもどろう!」


 亮介のことばを受け、キールとノネコも辺りを気にしたが、とくに警戒するような異常を見つけることはできなかった。ハイロも、眉をひそめている。 


(さっきから、耳鳴りがする。ミュオンさんが、僕を呼んでる……?)


 キーンと、高い金属音に内耳を刺激され、亮介は留守番中のふたりが心配になった。ただでさえ、ミュオンから遠く離れすぎている。ハイロは耳をそばだて、亮介の不安材料をさぐった。よもや、同族の大熊クマに生活空間を踏み荒らされるとは、考えもしないハイロだが、いったん帰宅することに同意した。

「なんだよ、精霊を探さないのか?」

 と、不満そうに言うキールに、亮介が「ごめんね」と素直にあやまった。

「帰りながらでも、見つかるかもしれないよ。来たときより、われわれは清浄な存在だからね。もしかしたら、向こうから興味をもって、近づいてくるかもしれない」

 ノネコがそう付け加えると、キールは渋々と歩きだす。8歳児の杞憂きゆうに終われば、それに越したことはない。だが、亮介一行は自然と速足はやあしになり、最短距離で帰路につく。しかし、いくらも進まないうちに、バサッバサッと、上空から羽音が聞こえてきた。

 
「わっ、大きな鳥!」


 開翼時は43センチほどある大鳥オオトリシギは、ハイロの姿を目にして下降してくると、近くの木の枝にとまった。


「大鳥か」


 シギは猛禽類につき、ハイロは亮介の正面に立ち、キールやノネコにも後方へ下がるよう目配めくばせした。シギの基本食性は肉食のため、小動物も餌食えじきとなる。キールは威勢を張って「シャーッ」と牙を剥くが、ノネコは静かに身を引き、ハイロに対処を任せた。シギは、ハイロが先祖がえりして人型になった経緯を知る、数少ない理解者である(協力者ではない)。

 シギは目を細くして、おいしそう、、、、、な幼児体型の亮介を見つめると、「キシシッ」と笑った。

「こうして、じかに話すのは初めてかのう。わしは、渡り鳥のシギと申す。人間の子よ、おぬしは何故なにゆえ、この森にあらわれたのじゃ」

 その答えをいちばん知りたいのは、亮介自身である。シギの問いに返すことばを選べず悩んでしまうと、ハイロが横から口をはさんだ。


「大鳥、用があるなら手短に言え。おれたちは、先を急ぐ必要がある」


「キーシッシッ、そうあせるでない。わしとて、偶然だったのじゃ。片目の不自由な灰色大熊ハイイロオオクマが、若いキツネをしたがえて、丸太小屋へ向かっていくようすを見かけたまで」

 
 シギの科白せりふにキールが「なに!?」と、即座に反応を示した。野生の大熊とキツネは、どちらも肉食獣である。万が一襲われた場合、眠りにつくミュオンとコリスでは、まともに張り合えるとは思えなかった。


(やっぱりそうだ。胸騒ぎの原因は、ふたりに危険が迫ってるからなんだ!!)

 
 亮介はシギに礼を述べて走りだした。キールとノネコは、先頭を競うかのように駆けていく。ハイロは疾走せず、亮介が迷子にならないよう歩幅を調整した。


(どうしよう、あのふたりになにかあったら、ぜんぶ僕のせいだ!)  

 
 責任を感じて気持ちが先走り、足がもつれた亮介は、派手に転倒した。すぐさま顔をあげたが、突如として視界にもやがひろがり、歩調を合わせていたはずのハイロさえ、見失ってしまった。


★つづく
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