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第2部
第48話
しおりを挟む亮介たちが川の上流へ到着したとき、丸太小屋で眠りつづけるミュオンは、少しだけ意識が回復した。とは言っても、手足は微動だにせず、まぶたも、わずかしかひらけなかった。本人としては、ベッドごと水面に浮かんでいるような、フラフラとした不安定な感覚だった(背中の羽はない)。
ちょうど枕もとに飛び乗ったコリスは、「わっ!?」と声をあげた。
「きれいなひと~。目が覚めたんだね。こんにちは~。ぼくは、コリスだよ。よろしくねぇ」
ミュオンは咽喉がふるえ、うまく返事ができなかった。指先も麻痺していたが、体調が悪いわけではない。現在のミュオンは、自らのために生成された霊力を吸収した亮介やハイロがそばにいることで、精神は安定し、活力も円滑に循環する仕組みになっている。しかし、コリス以外は外出中につき、ふたりの気配を感じ取れないミュオンは、互いの距離が遠いことを理解できた。ミュオンが表情を硬張らせると、コリスはニコッと笑いかけた。
「こわがらなくていいよ。ぼくは、リョースケくんにお留守番をたのまれて、ここにいるんだ」
水の精霊と仔栗鼠は初対面につき、自己紹介が必要だった。コリスに敵意はなく、ミュオンの顔の横で、もさもさと尻尾の毛づくろいをはじめた。その姿は無条件で愛らしく、ミュオンは穏やかな気持ちになった。
『……コ……リス……よ。わたしは……ミュオン……リヒテル……リノアース……、水の精霊です……』
「ほえ? 精霊?」
ミュオンの正体を知らずにいたコリスは、見た目の判断で人間だと思いこんでいた。突然の告白にキョトンとして、毛づくろいの手をとめる。弱々しい状態のミュオンと、戦闘に不向きな小さなコリスしかいないときにかぎって、クマとキツネが丸太小屋を目ざし、森を移動していた。
「兄者、いよいよ連中と対面する気になったんで? ……でも、このにおい、少し前に嗅いだやつらと、ちがうような? 頭数も足りないようですぜ」
丸太小屋への奇襲は、ハイロへの宣戦布告も兼ねている。相手が少人数ならば、好都合だった。
「大熊め。人間と馴れあうとは恥をしれ」
肉食獣は自分に厳しく生きるべきだと考えるクマは、人間や小動物と暮らすハイロに同族嫌悪した。気配が二手にわかれた今こそ、残されたほうへ猛獣の恐ろしさを見せつけ、追いはらう好機である。ミュオンとコリスの身に、不穏な空気が迫っていた。
★つづく
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