異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬

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幕開け

第9話

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 こうして、亮介の新たな協力者(見張り役)となったイタチ科のキールは、期待以上の働きをみせた。

 
 庭の囲いは、大熊ハイロがひとりで仕上げに取りかかっている。黙々と集中して作業をつづける姿は、あらゆる意味で模範的だ。ミュオンは少し休むといって、木陰にしゃがみこんでいる。亮介はというと、ニッシュの樹皮をバサッと地面にひろげ、あれこれ悩んでいた。

「えっと、これをこう切って……、このあたりを折り返せば、ぎりぎり長さはりるかなぁ……」

「やいやい、リョースケ。こんなもの、最初はスパッと縦に切っちまえばいいのさ。見てな!」

 そばにいて、ぶつぶつ言いながら考えこむ亮介がれったく感じたキール(短気)は、「こうしてやらァ!」といって、鋭い爪をふりあげると、ビリリッと、一気に樹皮を切り裂いた。

「オラッ、どうだ!」

 と、ムダに気合が入っている。

「す、すごい。ちゃんとまっすぐ切れてる……!」

(一瞬、失敗したらどうするの~ってあせったけど、結果オーライだった……)

 キールは「フフンッ」と鼻息をもらし、「で、次はどうするよ」とく。

「そ、それじゃあ、こことここを切って、正方形の布を4枚と、長方形の布を2枚、つくってもらえる?」

「それくらい、お安い御用だぜ!」

(おやすいごよう……。キールって、そのうち「てやんでぇ、馬鹿野郎バーロー」とか言いだしそうだなぁ。そういうの、なんていったっけ……。いぶし銀……?)

 木陰で休むミュオンの位置から、亮介とキールは仲良く、じゃれあっているように見えた。


『……ふふふ、リョウスケくんったら、はしゃぐ姿も天使そのものですねぇ。ニッシュの樹皮は貴重きちょうですが、もっと多めに持ってくればよかったですかねぇ。……ふうっ』

 
 ミュオンは深いため息を吐き、まぶたを閉じた。さわさわと吹く春風が、心地よい季節である。いつのまにか、接近を許した大熊の気配けはいにハッと目をます。

「だいじょうぶか」

『……なんです、いきなり。だいじょうぶにまっているでしょう。あなたこそ、不用意に近づかないでください。わたしは水の精霊です。半獣属より、ずっとなが時空ときを越えてきた種族ですよ。たやすくは消滅しません』

「そうは、見えないが……」

 ハイロは、髪を短くした理由をたずねたが、ミュオンの返答は得られなかった。精霊は分化した瞬間より、なにも食べずに生命活動が可能で、成長に必要な養分は自己の体内領域で生成することができる。人間とも半獣属とも異なる性質をもっていたが、生殖による種の維持はできず、神秘的であると同時に、脆弱ぜいじゃくな存在でもあった。精霊の多くは環境に支配されていたが、超自然的なことわりから解放されたとき、生物の肉体に宿やどることもできる……らしい(未確認)。
 
 大熊のハイロは肉食動物の部類だが、ふだんは植物や昆虫、どんぐりなどを食べている。ハイロが携帯食としている干し肉は、たおれていた半獣属の鹿を見つけ、とむらいのことばを述べたのち、丁寧に加工したものである。

 
 ハイロは、精霊と直接ことばを交わすのは、ミュオンが初めてだった。
 
「無茶をするのは勝手だが、リョウスケが心配するぞ」

『そのようなこと、あなたに言われたくありません』

「どういう意味だ」

『さあ、知りません。自分の頭で考えてください』

 ミュオンの態度は冷ややかで、まともに会話が成立しない。ハイロは眉をひそめたが、夕方までには囲いを完成させると、余った材木を片付けた。亮介とキールの関係は、短時間でずいぶん打ち解けていた。
 

★つづく
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