月冴ゆる離宮

み馬

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小話

クオンムスカ

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 とある日──。


「クオン、わたしの長所を云ってみてくれないか」

「は? なんだって?」

「長所だ、ちょうしょ。ひとつくらいスパッと云えぬのか?」

「短所なら即答できるが」

「な、なんだと!?」

「そうやって、すぐに腹を立てるところとか。まあ、仔犬こいぬがキャンキャン吠えてるみたいで、かわいくも見えるがな」

「きさま! ふざけるなよ!」

「事実と感想を述べたまでだ」

「クオン!!」

「あと、おっぱいが小さめなところとか、かわいいと思うぜ」

「だ、黙らぬかーっ!!」


 離宮に家具を運ぶ作業を指揮するクオンに、退屈なアセビが声をかけると、そんな痴話喧嘩ちわげんかが発生した。あとからヒルダとシルキが大きな衣装棚をふたり掛かりで持ちあげてくると、「ちょっとクオンさん、そんなところで寵主ハイムさまとイチャつかないでくださいよ」と、呆れた。ヒルダは「ぷくくっ」と息を吐き、大声で笑いたいのをがまんしている。寵主と医官の交流は、皇帝よりも身近に観察(目撃)できるため、大王殿ではちょっとした流言うわさが広まっていた。

 寵主と医官は密かに愛し合っており、皇帝をめぐる三角関係が、女官のあいだで持ち切りらしい。むろん、当の本人たちは知らぬふりをして、いちいち騒ぎ立てるまでもなかった。

(……おのれ、クオンめ! つまらぬ男だな。少しくらい寵主を喜ばせてもバチは当たらぬというのに、女心おんなごころがわからぬやつだ……。言葉選びが下手くそだから、ルリギクに愛想をつかされたのではないか……!? 義兄弟きょうだいそろって腑抜ふぬけとは、どちらも損な性格をしておるわ)

 正殿で「ゴホッ」と小さく咳をしたリヤンは、離宮の方角へ視線を向け、かすかに眉をひそめた。

「陛下、体調が悪いのですか?」

 護衛剣士のオルランが真面目な顔でたずねると、リヤンは口の端を浮かせて笑った。

いな、リュンヌの声が聞こえたような気がしたまでだ」

「寵主さまならば、離宮への引っ越しの最中かと。あの御方が、姫君のまとめ役を引き受けたそうですね。気になるようでしたら、ようすを見に行かれますか?」

「その必要はない」

 軽く頭をさげたオルランは、以後、沈黙を保った。玉座で嘆願書たんがんしょに目を通すリヤンの表情は、少しだけやわらいだ。


✓つづく
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