63 / 66
小話
クオンムスカ
しおりを挟むとある日──。
「クオン、わたしの長所を云ってみてくれないか」
「は? なんだって?」
「長所だ、ちょうしょ。ひとつくらいスパッと云えぬのか?」
「短所なら即答できるが」
「な、なんだと!?」
「そうやって、すぐに腹を立てるところとか。まあ、仔犬がキャンキャン吠えてるみたいで、かわいくも見えるがな」
「きさま! ふざけるなよ!」
「事実と感想を述べたまでだ」
「クオン!!」
「あと、おっぱいが小さめなところとか、かわいいと思うぜ」
「だ、黙らぬかーっ!!」
離宮に家具を運ぶ作業を指揮するクオンに、退屈なアセビが声をかけると、そんな痴話喧嘩が発生した。あとからヒルダとシルキが大きな衣装棚をふたり掛かりで持ちあげてくると、「ちょっとクオンさん、そんなところで寵主さまとイチャつかないでくださいよ」と、呆れた。ヒルダは「ぷくくっ」と息を吐き、大声で笑いたいのをがまんしている。寵主と医官の交流は、皇帝よりも身近に観察(目撃)できるため、大王殿ではちょっとした流言が広まっていた。
寵主と医官は密かに愛し合っており、皇帝をめぐる三角関係が、女官のあいだで持ち切りらしい。むろん、当の本人たちは知らぬふりをして、いちいち騒ぎ立てるまでもなかった。
(……おのれ、クオンめ! つまらぬ男だな。少しくらい寵主を喜ばせてもバチは当たらぬというのに、女心がわからぬやつだ……。言葉選びが下手くそだから、ルリギクに愛想をつかされたのではないか……!? 義兄弟そろって腑抜けとは、どちらも損な性格をしておるわ)
正殿で「ゴホッ」と小さく咳をしたリヤンは、離宮の方角へ視線を向け、微かに眉をひそめた。
「陛下、体調が悪いのですか?」
護衛剣士のオルランが真面目な顔で訊ねると、リヤンは口の端を浮かせて笑った。
「否、リュンヌの声が聞こえたような気がしたまでだ」
「寵主さまならば、離宮への引っ越しの最中かと。あの御方が、姫君のまとめ役を引き受けたそうですね。気になるようでしたら、ようすを見に行かれますか?」
「その必要はない」
軽く頭をさげたオルランは、以後、沈黙を保った。玉座で嘆願書に目を通すリヤンの表情は、少しだけ和らいだ。
✓つづく
1
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
一宿一飯の恩義
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
妹のアイミが、一人暮らしの兄の家に泊まりに来た。コンサートで近くを訪れたため、ホテル代わりに利用しようということだった。
兄は条件を付けて、アイミを泊めることにした。
その夜、条件であることを理由に、兄はアイミを抱く。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる