愛 玩 人 体

愛 玩 人 体〔135〕

　以前、要人Ｂから預かったマイクロチップには、３枚の家屋かおくの画像が保存されていた。（愛玩人体〔32〕参照）その内のひとつは、現在は解体され撤去されたエイジ、、、の生家だった。レインは、少年の暮らしていた家の場所を本人の口から確認済みである。もとより、両親の稼ぎは少なく、生活に余裕はなかったらしい。エイジが出ていって間もなく引っ越していた。ふたつ目は中小企業の町に今も建つ保育施設で、幼いエイジも２年ほど通かよっていたが、施設側の経営難により、所有権は売却されている。外観がリフォームしてあるため、当時の画像から現在地を捜し当てるのは至難の業だった。最後の１枚は、三船がエアルの協力を経てたどり着いた“まつろうもの”たちの根城ねじろである。マイクロチップの型番は古く、バージルは開発室のマレオンの力を貸りなければデータの解析は不可能だった。電子技工に特化したレオン、、、は、あえて旧式のカメラで撮影されている点を疑問視したが、愛玩人体エイジに対する関心は高くなかった。

　医局オゼに買収されたエイジは、ラベリングという特殊な医療技法により、記憶を封じられている。つまり、物的な証拠がないかぎり、過去を探ることはできない。要人Ｂなりの茶番とも思える産物に、エイジよりも三船がふり回される結果となる。最終的に“まつろうもの”と接触させることが目的だとすれば、三船こそが、エイジに続き“第二の実験台”だといえる。愛玩人体計画に巻き込むため、要人Ｂが仕組んだ罠にかかった三船は、今、ユンクの管理者として苦悩していた。強大な権力を前に、バージルも三船も、内密に異を唱えるばかりであった。ちなみに、マレインに気をつけろという忠告は、要人Ｂ自身がメドウス家の動向を警戒しての判断である。実際、レインはエイジと親密に関わったことで、意志の強さを手に入れた。実兄あにのレオンは、当初からレインの秘めた才能を認めている。医局長の座にふさわしい人物だと見込んだからこそ、長男の権利である家督を放棄した。人は、どんな状況においても、成長する心を持っている。対外的なことに関して困難に見舞われた時、挫折ざせつしてしまう者は多いが、至らなかった点を見直し、新しい目標に向かう姿勢が、なにより重要なのだ。

　バージルと三船が互いの愛玩人体について語り、メドウス家でレインの次期当主会議が催される頃、地下の研究室で目が覚めたエイジは、医師の名を呼んだ。

「バージル」

　いつものように、気密容器カプセルの底で眠っていたエイジは、下腹部の違和感に気づいて、ぎょっとなる。
「こ、これって、またかよ!?」
　下肢から伸びる透明な管くだがある。泌尿器官へ挿入されているため、自分の手で取り除くには、ためらいが生しょうじた。（愛玩人体〔02〕参照）

「おいっ、バージル!!　いないのか!?」

　しかも、なぜか気密容器の蓋が施錠ロックされている。思わずバンッと、強くガラス面を叩いたエイジは、初期の記憶が頭を過よぎり、ゾッとした。現在、汚染水を飲んで体調を崩したエイジは、バージルの適切な処置により、気密容器の底に閉じ込められていた。いくら健康管理のためとはいえ、みじめな姿で放置されるエイジは、精神的に落ち込んだ。

（……なんだろう、この感じ。久しぶりかもしれない。……すっげぇ不愉快だ）

　エイジは、やるせない気持ちに苛さいなまれたが、バージルの帰りを待つしかなかった。


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