愛 玩 人 体

愛 玩 人 体〔91〕

［Date.13］ユンク、♂、自称16歳、愛玩人体♯02（試作品２号セカンドプロトタイプ）、身長160㎝

［Date.14］ロイド▪Ａアイン▪ヴィリディス、♂（心は♀）、28歳、学術講師、身長173㎝

　　　　　※　※　※　※　※

　レインの挙式が間近まじかに迫せまり、エイジは、なんとか外部と直接連絡コンタクトを図はかった。望まない結婚をするレインの声が、どうしても聞きたいと思った。エイジが唯一できることは、背中を押すことだけである。
　早速、研究室の主あるじが不在の隙すきを狙い、受話器を手に取った。レインの兄で、医局オゼの開発室に勤務するレオンならば、話を聞いてくれるかも知れない。以前、本人のデスク直通の内線番号を報しらされており、後あとから役に立っている。
（バージルが倒れた時も、レオンはすぐ来てくれたしな……）

　エイジは、今回も自分の助けになることを期待して呼び出した。
「もしもし、レオン？　オレだけど」
　回線に応じたレオンは『用件は？』と短く訊たずねる。
「レインさんのことで、相談があるンだ」
　エイジがそう前置きすると、『あっそう』と云って通話を切られた。受話器からツー、ツー、ツーと機械音が流れるのを、エイジは呆然と聞く。
「なッ、なんだよ、レオンのヤツ！　まだ何も云ってねぇのに切りやがって!!」
　再び呼び出すと、今度はレオンのほうから先に喋しゃべった。
『忙しいからあとにしろ』
　と、わずか数秒で回線を切る。エイジは一瞬ムッとしたが、レオンは（おそらく）勤務時間中につき、相手の都合を考える必要があった。
「……あとって、いつだよ」
　エイジは受話器を戻し、小さくため息を吐いた。とりあえず、今は連絡を待つしかない。さいわい、相手は驚異的な実力を保持するハッカーだ。向こうからなんらかの動きがあるまで、下手な真似をしないほうが無難である。

　昼過ぎになり、研究室に姿を現したバージルは、愛玩人体用の服を着て待機するエイジに今夜の客について説明した。
「キミには、40代の男性ふたりを同時に相手にしてもらうことになった」
　簡単に云う。エイジは顔をしかめた。
「なんで同時なンだよ。少し時間をズラらせばいいだけだろ」
「そうではない。あえて同時に性行為プレイしろと云っている」
　医師は表情ひとつ変えずに告げるため、反論したくなるのは当然の結果だった。エイジは気密容器カプセルの蓋を、バンッと叩き、不機嫌を態度で示した。少年がふたりの男から陵辱的な扱いを受けることは目に見えていたが、それでもバージルは知らん顔をする。悲しいという気持ちより、腹が立ってしかたがない。
「バージル！　オレは……ッ」
　そんなのは嫌だと叫んだところで、現実は変わらない。エイジは愛玩人体である。望みどおりに運ぶ事柄など、殆ほとんどない。いつだって、現状を身に受けるしかない弱者だった。
（……バージルは、オレのことなんかどうでもいいのかよ。そんなに研究のほうが大事かよ）


+　continue　+