君の瞳は月夜に輝く

幕開け

79

ふと、1人足りないことに気付く。

「あれ、リュークさんは?」
「あぁ、リュークならいま仮眠室だ。一晩中つきっきりでいたみたいで、さすがに休ませた。今、メイドが起こしに行っている。」


　一晩中つきっきり…。

　...…あれ、そういえばなんで僕リュークさんがこの家にいること知ってるんだろう…。誘拐されてからずっと気絶してたはずなのに…。


　突然、廊下が騒がしくなり、僕たち一同扉の方に注目する。


「なんだか廊下が騒がしい?」
「なにかあったのかしら?」




　その時　バァン!!　と、勢いよく扉が開く。


　そこに現れたのは…





「り、リュークさん…?」



　起きたてなのか、寝癖がついたままのリュークさんだった…。


　噂をすればなんとやら、ってやつか...?




　僕を見つけたリュークさんは迷わず近付き、そのまま抱きしめた。




　想像もしていなかったことに僕は声にならない声を上げる。


「ちょ、ちょっと!!り、リュークさん!!??」
　強い力で抱きしめられ、僕は手をわたわたさせることしか出来ない。



「………無事で、よかった…。」

　絞り出すようなその声に、リュークさんの体が若干震えていることに気づく。
　それがどれだけ心配をかけたのか僕に教えてくれる。





　僕はリュークさんの腰に手を回す。

「心配をおかけして、すみません…。」

　リュークさんの鼓動が聞こえる...。ちょっと早いかも...。慌ててここまで来た、から...?



　その瞬間、僕達はものすごい勢いで引きはがされる。お兄ちゃんの渋い顔を見て僕は我に返る。

　…なんか、ちょっと気まずいな…。










「ところで犯人は捕まったの?」
「あぁ、安心しろ。あの場にいたやつは全員捕まえた。」お兄ちゃんが僕の肩に手を置きながら言う。
「そっか…。」捕まったのなら一安心、…なのかな?
「ねぇアル、もしかして夏祭り行くこと他の誰かに言った?」お母さんが心配そうな表情を浮かべ聞いてくる。
「なんで?」
「今回は明らかにアルスを狙った犯行だと考えている。あの手際の良さから言って、おそらく誘拐は周到に準備がされて行われたものだろう…。そのためには、アルスが長期間開催される夏祭りの中で最終日にだけ行くことを知る必要がある。どうだ、心当たりはあるか?」


　気絶する直前に聞いた言葉を思い出し、ある人物が思い浮かぶ…。







「……ううん…。心当たりないです…。」


　…けど、あの人じゃない気がする…。うまく、説明はできないのだけれども…。







「そうか…。」みんな、どこか腑に落ちないような顔をしている…。

















「そうだ、来週からの学校なんだけど、王室の騎士団が警護に当たってくれるそうだ。」今度はお父さんが口を開く。
「えぇっ!王室の騎士団!?そんなおおげさな…。」僕への過保護がそんなところまで行っちゃったのか…!?

「ううん、大げさなんかじゃないわ。あのねアル、このペンダントが効力を発揮しなかったということは、犯人はシューベルト家の魔術をしのぐほどの魔力を持っている可能性が高い。もし、突然襲われてしまったら、私たちでも太刀打ちできないかもしれないの。犯人の目的が分からない今、とにかく用心するに越したことはない。そのためなら、アルのためなら使えるものはなんだって使う。それって、おかしいことかな…?」お母さんが少し泣きそうな顔で言う。

　…シューベルトよりも強い魔術…。そんな人たちに狙われてるんだったら、ちょっと…いや結構怖い…。




　……事態は僕が思っているよりも深刻だったのかもしれない…。