最後の贈り物

レモン🍋

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後半

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 穏やかに愛情を育み、時を重ねるごとにもっともっとお互いを好きになった私たち。

 就職してもその関係は変わらず、むしろ会える時間が減った分、絆はより強まった。




 社会人1年目。


 慣れない仕事で疲弊し、家に帰ると倒れこむように眠りに落ちる私。

 あの時の私に余裕なんてなくて、それでもあなたの前では弱音も不安も吐き出せた。
 あなたは柔らかに私を包み込み、ただ黙って話を聞いてくれた。


 ねえ。
 夜寝る前の30分間の電話が、明日も頑張ろうという気力を与えてくれたんだよ。




 社会人2年目。

 確かこの年だったよね、一緒に暮らし始めたのは。

 二人の家なのに、私は結構こだわりが強かったよね。
 でもあなたは文句も言わずに私の好きなようにさせてくれた。

 おかげでとっても素敵な家に巡り合えて、それからの生活がより一層楽しくなったんだ。

 素敵な私たちの城。
 一緒に食べる夕食。
 くっつきあって眠る夜。


 私は料理が苦手だったけど、あなたに美味しいって言ってほしくて頑張って覚えたんだよ。


 成功したらこれ以上ないほどおいしそうに食べてくれたあなた。
 失敗しても残さず完食してくれたあなた。



 食卓に座るたび、あなたの笑顔が瞼の裏に浮かぶの。

 ――もう、あなたは私の料理を食べてくれないのにね。





*~*~*~*~*~*~*~*~*





 社会人3年目、25歳。
 付き合って6年目の夏、あなたは夜景がきれいなレストランでプロポーズしてくれて、私は涙をこらえることができなかった。

 シャンデリアの光を反射してキラキラ輝く指輪を差し出し、緊張をにじませたあなたの顔は、残念ながら涙でぼやけて見えた。


「愛しています。桜がこの先安心できる場所になるし、幸せにするから。だから、結婚してください」


 恥ずかしがりやな私たち。
 大勢の前でプロポーズなんて、きっとあなたは恥ずかしかったよね。


 私のために最高のシチュエーションを考え、それを実行してくれたあなた。

 あの日、あの時の私は誰よりも幸せだったと断言できるよ。




 たとえ未来が分かっていたとしても。
 幸せの分だけ辛くなるって分かっていたとしても。


 私はあなたと結婚しない未来は選べなかったと思う。

 あなたと以外結婚なんてしたくないし、
 あなたが私以外の誰かと結婚するなんて耐えられないから。



 きっと、この先もあなた以上に愛せる人に出会えないだろうな。





*~*~*~*~*~*~*~*~*





 9月。
 私たちは入籍した。




 結婚式は翌年の春。
 二人が出会った4月にしようと決め、明るい未来へ向かって準備したね。

 準備は大変だったけど、あなたは真剣に向き合ってくれた。
 式場の人に素敵な旦那様ですねって言われて、鼻が高かったと同時にちょっぴり嫉妬した。
――あなたの魅力は私だけが知っていればいいのに。



 どんなドレスを着ても褒めてくれたあなた。
 嬉しかったけど、なかなか決まらなくて大変だったね。


 あの頃の私たちは明るい未来が来ると信じて疑わなかった。

 あなたと離れなければならない日が来るなんて想像もしてなかった。



 あれはいつだっけ。
 いつか話した来世の話。


 あなたは言ったよね。
「来世でも、俺は桜と結ばれる。俺は執念深いから、たとえ死んでも桜を放してやれない」

 ねえ、それってホント?
 だとしたらすごく嬉しいな。

 あなたが私を見つけてくれなくても。
 私があなたを見つけるよ。



 だから。
 ちょっとだけ待っていて。





*~*~*~*~*~*~*~*~*





 3月。
 結婚式を翌月に控えたある日の午後。

 あなたは私をおいて天国へ旅立った。





 その日は青空が広がる気持ちのいい日で。
 私たちは手を繋いで散歩に出かけた。



 降り注ぐ柔らかな日差しに春の予感を感じた。

 不穏な予感なんて何も感じなくて。

 私たちはただいつものように笑い合っていた。




 信号に差し掛かった時。
 横から甲高い音が聞こえて振り返ると、猛スピードの車が私たちの方へ突っ込んでくる光景がはっきりと見えた。


 逃げなきゃいけないと分かっているのに、身体が硬直して動かなかった。



 一瞬のうちにすべてが終わっていた。



 手を振りほどき、私を力いっぱい押しのけたあなた。
 あなたに迫る車。
 そして、泣きたくなるほど優しい笑顔。



 それらを認識した次の瞬間には、もうあなたは目の前から消えていた。




 ねえ。
 どうして私を守ったの。

 私を守らなければ、あなたは逃げられたのに。



 ねえ、どうして死んじゃったの。
 あなたの居ない世界はこんなにも暗いのに。



 ねえ、どうして私に贈り物を残していったの。
 あなたが残してくれた宝物をおいては逝けないよ。





*~*~*~*~*~*~*~*~*




 あの後。

 私が呆然とへたり込んでいる間に救急車が私とあなたを病院へ運んだ。

 そして、私はあなたの死を伝えられたの。


 心が麻痺して、悲しいのに涙が出なかった。

 でも、一つはっきりしていたのは、あなたの居ない世界で生きていけるほど私は強くないということ。



 きっとあなたもそれが分かってたんだよね。
 だから私に贈り物をくれた。



 私たちの愛の結晶。
 二人の子供を。



 子供の存在を知らなかったなら、きっと私は迷わずあなたの後を追った。
 でも、この子の存在を知った今、この子を置いて逝くことは私にはできない。






 ねえ、春夫君。

 あなたが生きていれば、今日は私たちの最高の日になるはずだったのにね。

 ねえ、春夫君。

 結婚式、挙げたかったね。

 ねえ、春夫君。

 綺麗に着飾った私をあなたに見てほしかったな。

 ねえ、春夫君。

 一緒に子育てしたかったね。

 ねえ、春夫君。

 私の夢、覚えてくれているかな。
 年取ってしわくちゃのおばあちゃんになったら、一緒に縁側で日向ぼっこしたいな。

 簡単なようでいて、難しいこの願い。


 今世は無理だけど。


 ――来世で叶えてくれるかな。



 待っていて。
 年取ってしわくちゃのおばあちゃんになって、子供や孫といっしょに縁側で日向ぼっこしてからあなたに会いに行くから。




 大好きだよ、春夫君。






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