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第十三話
しおりを挟む結婚から一年。
出会いと別れを経験した一年が経ったある日。
公爵家に一通の手紙が届いた。
「来週両親が来ることになった。不本意だが、両親が滞在中は仲がいいように振舞うぞ」
何か月ぶりかで顔を合わせたにもかかわらず、言いたいことだけ言うやいなやさっさと立ち去るレオナルド。
もうレオナルドに対して欠片の期待も抱いていないカティアは、彼の傲慢さに可笑しくなる。
――まるで私が彼を慕っているかのような言い草。
レオナルドという夫がいるおかげであの家を出ることができたカティア。
レオナルドが夫だからこそこの家に住むことができるカティア。
カティアにとって、レオナルドとはただそれだけの存在。
それ以下でも、それ以上でもないそんな存在だ。
だが、だからこそ夫婦仲がいいふりをすることはカティアにとっても利がある話だ。
――ここを追い出されるわけにはいかない。愛されなくてもいい。受け入れてもらえなくてもいい。でも、離婚だけはダメだ。
カティアの居場所はここしかないのだから。
というわけで前公爵夫妻の訪問に備え、レオナルドの部屋から一番離れた部屋を使っていたカティアは急遽レオナルドの隣室を使うこととなった――前公爵夫妻が帰るまでの間だが。
レオナルドの隣室と言っても、二つの部屋は夫婦用の続き部屋となっており、レオナルドの両親が二人の仲を疑うことはないだろう。
さすがに数日とはいえ同室で過ごすのはレオナルドももちろんだが、カティアも内心酷く嫌だった。
自分を嫌っている人と一日中一緒にいたいとは思えない。
昔のカティアだったら、多分嫌だと思うこともなかっただろう。
だが、マリアやセバス達の優しさに包まれた今のカティアは昔とは違う。
自分の感情を持つことができるようになり、自分の思いに素直になった。
「カティア様、お綺麗ですよ」
レオナルドの両親がやって来る当日。
普段は地味なワンピース姿のカティアだが、今日は落ち着いたドレスを身に着け、少しだけ化粧もした。
まともに結婚式もしていないカティアは前公爵夫妻に会ったことがなく、少しでも彼らに嫌われたくないという一心で、マリアに何度も変ではないか確認してしまう。
そのたびに不安がるカティアを呆れることなくなだめてくれるマリアは本当によくできたメイドだ。
そうこうする内に馬車が止まる音が聞こえ、カティアは慌てて出迎えに向かった。
「お久しぶりです、母上、父上」
「初めまして、ローベン様、ミンティア様。カティアです」
気軽に言葉を交わすレオナルドの一歩後ろから遠慮がちに挨拶をするカティア。
そんなカティアに向けて、レオナルドの両親であるローベンとミンティアは親し気な笑みを浮かべる。
「初めまして、カティアさん。そんなにかしこまらないで気軽にお義父さんお義母さんと呼んでちょうだい」
「レオナルド、よかったな。こんなに美人で気立てのよさそうな女性を妻にできて」
こちらの緊張をほぐそうとしてくれるのはありがたいが、ローベンの言葉は胸に痛い。
カティアの存在がレオナルドにとって邪魔であることは、この屋敷の人間にとっては周知の事実だ。
当たり障りなく答えるレオナルドの陰で、カティアはこれかローベンとミンティアをだます罪悪感と、上手くだませずにレオナルドの癇に障ってしまわないようにしなければという緊張で身を強張らせた。
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