3 / 30
第二話
しおりを挟むカティアが公爵家へと嫁いで1か月が経った。
この1か月、カティアは数えるほどしかレオナルドの顔を見ておらず、それすら部屋の窓から遠目に見つめるだけ。
夫婦となったのにも関わらず、二人の仲は進展するどころか冷え切っていた。
「……はぁ」
誰もいない部屋で一人ため息をこぼすカティアは、今日もただぼんやりと窓の外を眺める。
誰もかれもがカティアに冷たく、冷めた食事をする以外はずっと部屋にこもり、ただひたすら身を縮める日々。
嫌われている自分。
嫌われる理由が分からず、かといって尋ねる勇気もない。
頼れる人は誰もおらず、実家にいた頃より断然ましだと己を鼓舞するのももう限界で。
孤独な日々は、着実に、そして確実にカティアの心を蝕んでいた。
一日中ぼんやりとしていたカティアだったが、気づけば窓から差し込むのは明るい日の光ではなく、薄暗い影になっていて。
窓にははっきりと己の姿が映り、夜のとばりが下りていたことを知る。
「ご飯……食べなくちゃ」
正直とっくの昔に食欲は無くなり、ただ機械的に味のしないモノを飲み込むだけとなっていたが、それでも心配をかけないようにと食事をすることは止めない。
――誰も、心配なんかしないだろうけど……。
自嘲の笑みと共に浮かんだ考えを、頭を振ることで振り払う。
重い腰を上げ、カティアは一人食卓へ向かった。
驚いたことに、食卓にはレオナルドがいて既に食事を始めていた。
目が合い、足がすくむ。
お互いが、お互いと会わないように気を付けていたはずなのに。
テーブルに近づくことができず、かといって引き返すこともできないカティアはただ立ち尽くすことしかできない。
そんな彼女にかけられたのは、
「いつまで突っ立ている。はやく席につけ」
という冷たい言葉。
――なぜ、私の食事の時間に彼がいるのだろう。
結婚から1か月。
カティアはこの日初めてレオナルドと食事を共にした。
レオナルドがいるからだろう。
この家に来て初めての豪華な食事は、しかしカティアの味覚には響かなかった。
緊張で呼吸が浅くなる。
マナーが分からないカティアはさりげなくレオナルドの真似をし、手が震えて食器が音を立てないようにグッと力をこめる。
「食事もまともにできないのか。まったく、おまえはとことん疫病神だな」
チラチラと向けられる視線に気づかないはずもなく、ぎこちなく食事をするカティアに呆れと侮蔑の視線を送るレオナルド。
恥ずかしさと、それだけでない、胸を突くような感情が沸き起こり、カティアは声もなく俯いた。
「1か月後、国王主催の夜会が開かれる。パートナーとしておまえも参加しろ」
告げられた言葉にカティアは呆然とする。
「夜会……」
今まで夜会どころかお茶会にさえ出たことのないカティア。
マナーを学ぶ機会も与えられなかった彼女は、嘲笑の的になる未来を想像し、身を震わせる。
「お前にまともな振る舞いができるとは思っていない。教師を付けるから、せめて恥をかかせないようにしてくれよ」
馬鹿にされ、蔑まれ。
けれど反論する術はない。
今のカティアには胸を張れるだけの知識も、教養も、何もないのだから。
そんなこと、カティア自身が一番分かっている。
悔しいほど、よく分かっている。
「わかりました。ありがとうございます」
頭をあげた時には、既にレオナルドはいなかった。
12
お気に入りに追加
607
あなたにおすすめの小説
【完結】最後に笑えりゃ勝ちなのよ ~9年で7度の地獄を乗り越えた27歳の北新地ラウンジママの物語~
M‐赤井翼
現代文学
今回の赤井作品は、「普通の小説」です。
超人的に強い「女子レスラー」や「合気道の達人」や「元CAT」は出てきません。
正義感が異常に強い「正義の味方」も「魔界のキャラ」で出ません。
「幽霊」も「宇宙人」も「ビリケンさん」も「つちのこ」も出てきません(笑)。
「運」の浮き沈みの激しい女の子が主人公です。
良い時は「良い」のですが、悪い時はそりゃもう「地獄」です。
主人公「(通称)秋田ちゃん」は、両親の死後「伯父による性的虐待」、上京後「メイド喫茶での冤罪・賠償」、「AV嬢時代の大切な上司の不慮の死と解雇」、自殺をしに行ったバリ島では「仕込み冤罪」に遭い「終身刑」の憂き目に!
何とか帰国できて、大阪ミナミのキャバ嬢時代には「投資ソフト詐欺」に遭い今度は「遠洋はえ縄マグロ漁船」へ。
帰国後、ラウンジホステスとしてやり直すも「罹病」しその間に預貯金全額「後輩同僚に持ち逃げ」され破産の危機に!
ようやく独立して店を開いたところ2020年の「コロコロ」による「長期営業自粛」と7度の地獄を乗り越えて、「日本一福利厚生のいいラウンジ」の27歳の若き「ママ」として頑張り続ける話です。
「悪い奴」はいっぱい出てきますけど、主人公の「秋田ちゃん」は「成敗」も「復讐」もしません。
ただ自分の「運命」を受け入れて、ひたすら頑張り、信頼できる仲間とともにみんなを助けるため奮闘します。
途中、読んでて辛くなる人が出るかもしれないんで、先に言っておきます。
ラストは「ハッピーエンド」です!
ラストは「ハッピーエンド」です!
大切なことなので2回書きました。
主人公のモデルが実在する「セミドキュメンタリー小説」です。
赤井初の「普通の小説」ですので、できたら読んでやってみてください!(。-人-。)
お願いしま~す!
(⋈◍>◡<◍)。✧♡
縦ロール悪女は黒髪ボブ令嬢になって愛される
瀬名 翠
恋愛
そこにいるだけで『悪女』と怖がられる公爵令嬢・エルフリーデ。
とある夜会で、婚約者たちが自分の容姿をバカにしているのを聞く。悲しみのあまり逃げたバルコニーで、「君は肩上くらいの髪の長さが似合うと思っていたんだ」と言ってくる不思議な青年と出会った。しかし、風が吹いた拍子にバルコニーから落ちてしまう。
死を覚悟したが、次に目が覚めるとその夜会の朝に戻っていた。彼女は思いきって髪を切ると、とんでもない美女になってしまう。
そんなエルフリーデが、いろんな人から愛されるようになるお話。
縦ロールをやめたら愛されました。
えんどう
恋愛
縦ロールは令嬢の命!!と頑なにその髪型を守ってきた公爵令嬢のシャルロット。
「お前を愛することはない。これは政略結婚だ、余計なものを求めてくれるな」
──そう言っていた婚約者が結婚して縦ロールをやめた途端に急に甘ったるい視線を向けて愛を囁くようになったのは何故?
これは私の友人がゴスロリやめて清楚系に走った途端にモテ始めた話に基づくような基づかないような。
追記:3.21
忙しさに落ち着きが見えそうなのでゆっくり更新再開します。需要があるかわかりませんが1人でも続きを待ってくれる人がいらっしゃるかもしれないので…。
今日で都合の良い嫁は辞めます!後は家族で仲良くしてください!
ユウ
恋愛
三年前、夫の願いにより義両親との同居を求められた私はは悩みながらも同意した。
苦労すると周りから止められながらも受け入れたけれど、待っていたのは我慢を強いられる日々だった。
それでもなんとななれ始めたのだが、
目下の悩みは子供がなかなか授からない事だった。
そんなある日、義姉が里帰りをするようになり、生活は一変した。
義姉は子供を私に預け、育児を丸投げをするようになった。
仕事と家事と育児すべてをこなすのが困難になった夫に助けを求めるも。
「子供一人ぐらい楽勝だろ」
夫はリサに残酷な事を言葉を投げ。
「家族なんだから助けてあげないと」
「家族なんだから助けあうべきだ」
夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。
「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」
「あの子は大変なんだ」
「母親ならできて当然よ」
シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。
その末に。
「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」
この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。
条件付きチート『吸収』でのんびり冒険者ライフ!
ヒビキ タクト
ファンタジー
旧題:異世界転生 ~条件付きスキル・スキル吸収を駆使し、冒険者から成り上がれ~
平凡な人生にガンと宣告された男が異世界に転生する。異世界神により特典(条件付きスキルと便利なスキル)をもらい異世界アダムスに転生し、子爵家の三男が冒険者となり成り上がるお話。 スキルや魔法を駆使し、奴隷や従魔と一緒に楽しく過ごしていく。そこには困難も…。 従魔ハクのモフモフは見所。週に4~5話は更新していきたいと思いますので、是非楽しく読んでいただければ幸いです♪ 異世界小説を沢山読んできた中で自分だったらこうしたいと言う作品にしております。
お飾りの私を愛することのなかった貴方と、不器用な貴方を見ることのなかった私
歌川ピロシキ
ファンタジー
ディスコミュニケーションが生み出す悲劇に閉じ込められた、あわれな三つの魂の物語。
----------------------
わたくしはお飾りの妻、名ばかりの侯爵夫人でした。
思いもかけない求婚のお申し出に、あの女嫌いの「氷の貴公子」エルネスト・タシトゥルヌ様のお心を射止めたのだと有頂天になったのはつかの間。旦那様には他に愛する方がいらっしゃったのでございます。
それでもわたくしどもは表向き理想の夫婦として社交界に君臨しておりました。旦那様にとって唯一無二のあのお方が、わたくしを庇って生命を落とされた、あの日までは。
---------------
ビッチ×クズ×ヤンデレ製造機
それぞれに弱くて脆い心、ドロドロした醜い欲をかかえたままの三人が懸命に生きながらすれ違い、運命に流される様をご照覧あれ。
---------------
四宮迅さん(https://twitter.com/4nomiyajin)に表紙イラストを描いていただきました。
実物はA4サイズの大作で、透明感のある絶妙な色遣いといい繊細なタッチといい、見れば見るほどうっとりしてしまうほど美麗ですがサイズの制約があるのでこちらが限界です( ノД`)
-----------
読んでくださってありがとうございます<(_ _)>
別作品のネタを考えていて唐突に思い付きました。わりとありがちな何番煎じかのテンプレです。児童に対する性虐待や性暴力の表現が一部にあります。露骨な性表現はありませんが、苦手な方はご自衛ください<(_ _)>
以前アルファポリスに掲載していた別名の作品を構成を見直し、大幅に改稿したらほとんど別作品になりました。微妙にBL要素があります。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。
ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。
実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる