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番外編

Kissing Under Mistletoe - 3 ☆

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 どこもかしこもが愛しい……。力なく夫の胸に体重を預けるオフェーリアを抱きながら、ゴードンは彼女の存在を確認するようにあちこちをなで、口づけた。
 なんという女性だ。
 お湯に濡れて肩や背中や胸に張りつく長い金髪は、さながら芸術品のような美しさだった。
 絶頂の余韻にうっすらと開かれた唇。
 荒い呼吸を繰り返すたびに上下する乳房。
 愛撫のあいだに口にした言葉はすべて心からのものだった。オフェーリアはゴードンの天使であり、女神であり、神から授けられた大切な宝物だった。

 ──なんと陳腐な表現。しかし、他に表現のしようがない。

「大丈夫かい?」
「ん……ぁ……、は、い……」
「君はずいぶんヤドリギにこだわっていたから……つい、いたずらを思いついてしまった」
 とろんと半分閉じられた瞳は、なにかの幻想を追うように宙をさまよった後、ゆっくりとゴードンを見上げる。
 ああ、くそ、血が逆流する。
 こうして愛撫で絶頂に導いてしまっただけでも、彼女の体に負担をかけたかもしれないのに、これ以上彼女に無理を強いるわけにはいかなかった。ゴードンの男性自身は別の意見を持っているらしく、無駄に雄々しく上に向けて反り返っていたが……鉄の意志を持って煩悩を制御しなくては。
 そう、鉄の意志だ。
 このさい、男根そのものが鉄の硬さを誇っていることは、無視しなければならない。

「今度は本当に背中を流してあげよう。髪を横にどけて」

 夫にうながされて、オフェーリアはのろのろとした動きで言われたとおりに髪をまとめると、右の肩にかけて前へ流した。
 普段は秋の麦穂のように鮮やかな金髪が、湿り気を帯びて銅のような鈍い輝きを放っている。
 首や肩の柔肌に散らした情念の証が、いくつも赤く浮かんでいた。なんとそそられる姿か……。

 持てるすべての自制心をかき集め、深く息を吸ったゴードンは浴槽のそばに用意されていた石鹸に手を伸ばした。
 四角い塊をお湯にひたし、柔らかくなったところでゆっくりとオフェーリアの背に滑らせていく。彼女の若い肌は、触れるものすべてに吸いつくようなみずみずしさで、ゴードンの自称『鉄の意志』を打ち砕こうとしていた。

 オフェーリアのすべてが愛しかった。
 ──だからこそ、がっついてはいけない。地下牢でのあの呪わしい行為から、これがはじめての交わりになる。いたずらに強引に抱くような真似はしたくなかった。
 彼女の体を気遣い、その純粋さを尊重して、温かい部屋の白く清潔なシーツの上でもどかしほどにゆっくりと抱くつもりだった。
 そうだろう?

「気持ちいい……です」
 まぶたを伏せ、うっとりとした口調でオフェーリアがつぶやく。
「それはよかった」
 と、ゴードンは固い棒読みで答えた。
 ……固い棒?
 違う! 違う! 違う!
 ゴードンは、どこか別の場所に血が巡っているせいで動こうとしない頭をなんとか駆使して、オフェーリアの魅惑的な肉体ではないどこかへ意識を集中させる努力をはじめた。
 しかし、ゴードンはうなった。
 オフェーリアの尻が、股間が、ゴードンの男性自身に当たっている。彼女は時々無邪気に背中を丸めて、腰をずらした。
 そのたびに肉棒をかする微々たる動きが、脳天を突き抜くような快楽をゴードンに与えた。餌を前に『待て』を強要される犬の姿が脳裏に浮かぶ。もしかしたらゴードンは、その犬のようなあわれな顔をしているのかもしれない。

 くそ! 思い出せ! 鉄だ!
 鉄の硬さだ!

「ちがう……意志だ……。くそ、鉄の意志だ……馬鹿者めが……」
 ゴードンはぼそりと独り言をつぶやいていた。
「鉄、ですか?」
 肩越しに夫を振り返ったオフェーリアが、不思議そうに目をまたたいている。ゴードンはぎりりと歯を食いしばった。
「なんでもない、オフェーリア。鉄の硬度について……考えていた……」
「まぁ……」
「鉄は硬いものだ。そうだろう? そう簡単には曲がらないものだ」
「そ、そうかもしれませんね」
 オフェーリアはとまどいながらそう返し、その後も、鉄の硬度についてぶつぶつと語る夫の独白を辛抱強く聞いていた。

 それでもなんとか、まさに剛鉄の意志を持って、ゴードンは妻の背中を流す作業を成し遂げた。
 息が上がる。動脈が不健康なほど激しく脈打っている。
 自分はもう若くないはずなのに、くそ、どうして股間のあいだの息子はそれに同意しない? ゴードンにはまだ、オフェーリアの髪を洗ってやる仕事が残っている。
 ついでに言えば、そもそも浴槽を用意することにしたのは、ゴードンのものを清潔にする必要があったからで……。

 その場面を想像するだけで、ゴードンはぞくりと身震いした。

「どうしました? どこか……様子がおかしいですよ。湯船に当てられてしまったのかも……」
「違う」ゴードンはかすれた低い声でうなった。「わたしは確かにおかしいかもしれない。ただ、原因は湯船ではない。断じて」
「でも……」
 オフェーリアがくるりと向きを変えた。
 その動きを直に受けた肉棒が、さらに太く、さらに上を向いていきり立った。もしこの、特定の一部が声を持っていたら、屋敷中に響く歓喜の悲鳴を上げていただろう……そんなことを考えつく程度には、ゴードンは理性を失っていた。
 心配そうに眉をひそめたオフェーリアが、ぴたりと胸を張りつけてくる。
「顔色も変です……。もう出ましょう? 長旅でお疲れなのかも……」
「君の髪は……」
「髪なんて後でも洗えます。ね、お湯から出て少し休みましょう。水を飲んだほうがいいのかも」
 オフェーリアは背を伸ばし、立ち上がるために腰を浮かした。
 その……ああ、その……衝撃といったら。
 大海原の地平線から姿を表すポセイドンのように勢いよく湯船から立ち上がったゴードンは、オフェーリアを残して素早く浴槽から足を出した。
 大きく目を見開いたオフェーリアが、そのままタオルで体を拭いていくゴードンの後ろ姿を唖然と眺めている。
 自分の振る舞いが紳士としての礼節を欠いているのは十分承知だった。しかし……他にどうしようもない。

「ゴードン?」
 オフェーリアの不安そうな声が背後から聞こえる。
「なんだい、オフェーリア」
 それだけ答えるのが精一杯だった。
「わたし、なにか……気に触ることをしてしまいましたか?」
「違う。オフェーリア、君は完璧だ。ただ……君があまりに愛らしすぎて、わたしの……息子が……落ち着かないんだ。このままでは浴槽の中で君をむさぼってしまう。それは避けなくては」ゴードンは体を拭く作業に集中することにした。「……君はもう少し湯船を楽しむといい」

 しばらくの沈黙の後、すでにゴードンがタオルを腰に巻いて浴槽から離れようとしていた時、オフェーリアもまたお湯から立ち上がる音がした。
 ゴードンはぎくりと妻を振り返る。
 真剣な青の瞳をきらめかせて、オフェーリアはじっとゴードンを見つめていた。

「オフェーリア、体を冷やしてしまうよ。浴槽の中に戻ってくれ」
「いいえ、旦那さま」オフェーリアの声は毅然としていた。「あなたが出るなら、わたしも出ます。どうしてわたしを避けるんですか?」

 ──くそ! どうして神は男をこんな体に作りたもうた? 天でわたしたちを笑っているのか?

「……野獣のように君を抱くわけにはいかない。君は、この世でもっとも優しい方法で、清潔な寝台の上で、ゆっくりと穏やかに愛される資格がある。そういうふうに君を抱いてあげたい」
 
 オフェーリアの表情が驚きから安心へ変わったのを見て、ゴードンも安堵のため息をついた。しかし、オフェーリアの変化はそこで終わらなかった。
 恥じらいに頬を染めながら、大胆に浴槽から出てくる──。

「オフェーリア」
 ゴードンは警告した。
「じゃあ、抱いてください……そんなふうに……あなたの望むように……」

 濡れたままの裸体で冷たい床を歩こうとするオフェーリアを、ゴードンが静観できるはずがなかった。ゴードンは腰からはらりと落ちるタオルを無視して、オフェーリアを抱きとめた。
 オフェーリアの甘えるような腕が、ゴードンの首の後ろに回される。
 理性はどこか遠いところへ旅立ってしまった。

 口づけはすぐに深まり、お互いをむさぼるような激しいものになっていく。ゴードンはオフェーリアを抱き上げて寝台へ向かった。オフェーリアはゴードンの名前をささやきながらそれに従った。

 体温を分け合うように重なったふたりの体は、すぐに熱を帯びて熱く火照った。
 お互いの肌を確認するように指を滑らせ、その刹那が与える深い幸福に溺れていく。それは単なる肉体の喜びだけではなく、欠けていた心の一部を取り戻すような、魂の修復だった。
「ぁ……ん……っ、熱……っ」
 肉棒の先端が入り口に触れた時、オフェーリアは身を震わせた。
「オフェーリア……嫌かい? 怖いか……?」
 ここで止めるのは苦しかった。
 苦しいなんてものではない……地獄だ。ただ、それがオフェーリアの望みなら、ゴードンは耐えるつもりだった。
 きつく歯を食いしばったその時、しかし、「いいえ」という妻の小さな呟きとともに、彼女の指先がゴードンの肉棒に触れた。
 浮き上がった血管をなでられ、オフェーリアの内部へそっと導かれる。
 心の闇がすべて晴れゆくような鮮烈な快感だった。これがただ体を重ねるだけの行為だとは思えなかった。

 ゆっくり、しかし確実に最奥まで、ゴードンは己の剣をオフェーリの中に沈めた。

「あんん……ン……い、ぁ……ひぁ……」
 あまり長い時間は持ちそうになかったが、多分、オフェーリアの体を思えばそれでよかったのだろう。ゴードンはできるだけ穏やかに抽挿をはじめた。
 愛撫でオフェーリアの乳房を口にふくむと、彼女の膣は苦しいくらいにぎゅっとゴードンのものを締め上げる。

「きて……ゴードン……おねが、い……きて……」
「ああ、イこう。一緒だ。一緒においで……。君を、連れて行ってあげよう……」

 最後が近づくと、優しくも穏やかにもできなかった。
 ゴードンが激しくオフェーリアを突き上げるたび、張りのある豊かな胸があられもなく揺れる。皺ひとつなくまっすぐに整えられていたシーツはすでに乱れきって、オフェーリアの背の下で幾層にも波打っている。

 星がはぜた。
 絶頂の快楽が解放されるのと同時に、ふたりのあいだにくすぶっていた遠慮や違和感が消えていく。
 震える体でオフェーリアを強く抱きかかえたゴードンは、自分はこの女性を永遠に愛するのだと悟った。それはもう不可避で……すでに成立されている未来だった。
 オフェーリアという名の、ゴードンの未来。

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