如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)

文字の大きさ
上 下
13 / 76
1章

クラス中から注目を浴びてきょどる僕、そしてファンサが過ぎるクラス一の美少女

しおりを挟む


「あのさ、ちょっといい?」

 突然の声に驚きながらも振り返ってみると、そこにいたのは一人の女子生徒だった。

 確か、クラスメイトの女の子なんだけど……話したことも無いので、名前は分からない。つまり、知らない人だ。

 彼女は艶のある綺麗に染め上げられた金髪を腰辺りまで伸ばしており、前髪をヘアピンで留めているのが特徴的だった。見た目で判断するなら、ギャル風な容姿をしている女の子である。

 しかし、その整った顔立ちは美人と言っても差し支えないほどで、スタイルの良さも相まって非常に目を引くものがある。

 まさに言葉通りの美少女であり、誰もが一度は見惚れてしまうであろう容姿の持ち主であった。

 ……しかし、このクラスには誰よりも美少女な如月さんがいる。彼女の可愛さは群を抜いていると言っても過言ではない。

 そんな如月さんと比べたら、目の前の彼女はクラスで二番目に美少女だという評価になるだろう。

 残念だけれども、その評価が覆ることは無いと思う。そんなレベルの違いなのだ。

 僕はそんなことを考えながら、目の前で話し掛けてきた少女に目を向ける。

 何の用なのだろうかと思っていると、その少女は僕のことを興味深げに観察した後、小さく息を吐いてから口を開いた。

「ねぇ、立花くんって……如月さんと付き合ってるんだよね?」

「……はい?」

 いきなりそんなことを言われたものだから、一瞬何を言われているのか理解出来なかった。

 あれ? どういうこと? 何で彼女が僕と如月さんが付き合っているなんて知っているんだろう?

 僕がそんな風に疑問に思っていると、いつまで経っても質問に答えない僕を不審に思ったのか、少女が訝しげな表情を浮かべながら再び声を掛けてきた。

「ね、ね、どうなの? 本当に付き合ってんの?」

「……えっと」

 どう答えたものかと考えていると、彼女は僕の様子を観察するようにジッと見つめながら答えを待っている様子だった。なので、僕も彼女と同じように相手の様子を窺いながら慎重に言葉を選ぼうとする。

 そもそもの話として、どうして僕と如月さんが交際していることが、目の前の彼女……名前が分からないから、モブ子さんとでも呼ぼうかな。モブ子さんが知っているというのか。

 僕らの関係を知っているのは、昨日に如月さんへ告白をしてきた男子生徒ぐらいじゃないか? 彼の目の前で如月さんが付き合っているとカミングアウトしたのだから、まず間違いないと思うのだけれど。

 いや待てよ? もしかしたら、あの場を偶然にも見かけた誰かが言いふらしてしまった可能性もあるんじゃないだろうか? そう考えると辻褄が合う気がするし、むしろそう考える方が自然かもしれないね。

 それなら納得出来るし、説明がつくというものだ。だから、今日はやけに周りから見られていたんだ……って、でも、あれ? 言いふらされたにしては、拡散される速度が速すぎる気がするんだけど……だって、昨日の今日だよ? 何で?

 ……まあ、いいか。とりあえず今は置いておこう。それよりも重要なことがあるからね。まずはそっちを片付けよう。というわけで、モブ子さんの質問に答えることにする僕。

「その、付き合っていますけど……それがどうかしましたか?」

「ふーん、やっぱりそうなんだ」

 僕の返答を聞いた瞬間、つまらなさそうに呟く彼女。そして、続けてこんな質問をしてきた。

「ねぇ、それってさ、いつから?」

「え、えーっと、つい最近……です」

「へー、じゃあまだ短いんだ」

「は、はい」

 まさかこんなに食いついてくるとは思わなかった僕は戸惑いながらも頷く。一体何が聞きたいのだろう?

「ちなみにどっちから告ったわけ?」

「……それは、その……ちょっと」

 その質問に対して、僕は言葉を濁すようにしてそう言った。この質問を正直に答えるならば、如月さんから告白してきましたというのが正解になるわけだが、それを言うわけにはいかないだろう。

 人付き合いの嫌いな彼女が僕に告白してきただなんて、現実味が無いにもほどがあるしね。もし僕が逆の立場だったら、絶対に信じない自信がある。そんなわけで、僕は適当に誤魔化すことにしたのである。

「そっかー、そうなんだ。へぇ、なるほどねー」

 すると、彼女は何故かニヤリと笑みを浮かべた。そして僕から視線を切ると、教室全体をグルリと見回してからこんなことを言ったのだ。

「みんなー、やっぱり付き合ってるみたいだよー!」

 その声に反応するようにざわめき出す教室内。そして僕に集まってくる視線の雨。このクラスにいる全員……今はいない如月さん以外の視線が僕に突き刺さった。

 そんな中、僕は必死に平静を装っていたものの、内心ではかなり焦ってしまっていた。こんな注目を浴びる経験なんて、今までしたことが無かった。どうしよう、どうすればいいんだろうか……!?

 そんな風に考えを巡らせていると、目の前のモブ子さん以外にも僕の傍に人が集まってくる。それも男子女子関係なく、興味のある目をした人たちが僕を取り囲んできたのだ。そして皆一様に同じようなことを聞いてくるのだった。

「なぁ、どうやって付き合うことになったんだよ!?」とか「いつ頃から好きだったの?」だとか「きっかけは何だったの?」などと言った内容ばかりである。今までまともに話したことの無い人たちばかりなのに、まるで旧知の友人のように親しげに話し掛けてくるものだから、僕は対応に困ってしまうのだった。

 だけど、一つだけ言えることがあるとすれば―――僕は今、かつて無いほどの大ピンチを迎えているということだ。

 ど、どうしたらいいんだろう……? 四方八方から飛んでくる質問の数々に、僕はただただ戸惑うばかりだった。助けを求めて周囲を見回してみても、誰一人として助けてくれそうな人は見当たらない。それどころか、この状況を楽しんでいるような節さえあるように見える。

 そんな時―――不意に教室の扉が開かれて、一人の女子生徒が入ってきた。扉の開いた音に反応してか、僕に集まっていた視線が今度はそちらに集中するようになる。

 そして教室に入ってきた人物を見て、僕は思わず安堵の溜息を漏らした。何故ならその人物こそが、僕にとって唯一の味方であると確信していたからだ。

「……」

 クラスの異様な空気を察知してか、教室の中を無言で見回す彼女―――如月さんはつまらなそうな表情を浮かべていた。そんな如月さんを見たクラスのみんなは僕に向けていた視線と同じく、彼女にも興味津々といった様子で視線を向け始める。

 しかし彼女はそんな視線を気にすることなく堂々と歩いていき、やがて自分の席に腰掛ける。そしていそいそと持っていた鞄の中から文庫本を取り出すと、それに目を通し始めたのだった。その姿は相変わらずクールなものだった。

 そんな彼女の姿を見た僕は、少しだけホッとしていた。良かった……いつも通りだ。どうやら彼女は今の状況をあまり気にしていないらしい。

 僕がそんなことを思っていると、如月さんは読んでいた文庫本を閉じ、机の上に置いた。それから僕の方へ視線を向けてきたのだった。

「……」

 無言でジッと僕を見つめる彼女。どうしたものかと言葉に悩む僕。すると、如月さんはおもむろに右手を挙げると僕に向けて―――

「おはよ」

 そう言いながらなんと、無表情のまま手をゆっくりと振ってきたのだった。は????????? る?????????

 あまりの衝撃的な光景に激しく動揺してか、フリーズしてしまう僕。そんな僕を余所に、クラス内のボルテージが最高潮に達する。主に男子生徒を中心に歓声が上がったり、女子生徒が黄色い声を上げたり、中には口笛を吹いたりする者まで現れる始末である。

 そんな騒がしい状況の中、僕は呆然としたまま動けないままでいる。いや、これは仕方ないと思うんだよね? だっていきなりあんな事をされたら誰だってこうなるでしょ?

 いや、本当にびっくりしたよ! というか何なんだよあの仕草は!? 可愛すぎかよ!! ああもうっ、めちゃくちゃ可愛いんだけど!!! もう優勝でしょ!!!!

 そうして心の中でテンションを爆上げしていると、またも扉が開く音が聞こえてきた。そこから現れたのは、我らがクラスの担任である釜谷先生だった。黒光りするマッシブな肉体を持ち、スキンヘッドという強面かつ屈強な容姿をしている男性教諭である。

 そんな彼はクラスの喧騒を聞き、そして眺め回しながら口を開く。

「あんたたち、うっさいわよ! 騒がし過ぎて、廊下にまで聞こえているじゃないのよ!!」

 その甲高い声と同時に静まり返る教室内。静かになったことを釜谷先生が確認すると、教壇の前に立って手を叩いた。

「ほら、ホームルーム始めるわよ! 早く席に戻りなさい!」

 その掛け声とともに生徒たちは自分の席へと戻っていく。僕の周りに出来ていた人垣もまた崩れていき、ようやく解放された僕はホッと胸を撫で下ろした。

 そして視線を如月さんに向けてみると、彼女はもうこちらを見てはいなかった。また視線を文庫本に戻していた。釜谷先生がいるというのに、マイペース過ぎるよね。そんな彼女の様子に苦笑しつつ、僕も自分の席で大人しくしているのであった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣
恋愛
社会人の鳳健吾(おおとりけんご)と高校生の鮫島凛香(さめじまりんか)はアパートのお隣同士だった。 兄貴気質であるケンゴはシングルマザーで常に働きに出ているリンカの母親に代わってよく彼女の面倒を見ていた。 リンカが中学生になった頃、ケンゴは海外に転勤してしまい、三年の月日が流れる。 三年ぶりに日本のアパートに戻って来たケンゴに対してリンカは、 「なんだ。帰ってきたんだ」 と、嫌悪な様子で接するのだった。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?

すず。
恋愛
体調を崩してしまった私 社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね) 診察室にいた医師は2つ年上の 幼馴染だった!? 診察室に居た医師(鈴音と幼馴染) 内科医 28歳 桐生慶太(けいた) ※お話に出てくるものは全て空想です 現実世界とは何も関係ないです ※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます

クラスの双子と家族になりました。~俺のタメにハーレム作るとか言ってるんだがどうすればいい?~

いーじーしっくす
恋愛
ハーレムなんて物語の中の事。自分なんかには関係ないと思っていた──。 橋本悠聖は普通のちょっとポジティブな陰キャ。彼女は欲しいけど自ら動くことはなかった。だがある日、一人の美少女からの告白で今まで自分が想定した人生とは大きくかわっていく事になった。 悠聖に告白してきた美少女である【中村雪花】。彼女がした告白は嘘のもので、父親の再婚を止めるために付き合っているフリをしているだけの約束…の、はずだった。だが、だんだん彼に心惹かれて付き合ってるフリだけじゃ我慢できなくなっていく。 互いに近づく二人の心の距離。更には過去に接点のあった雪花の双子の姉である【中村紗雪】の急接近。冷たかったハズの実の妹の【奈々】の危険な誘惑。幼い頃に結婚の約束をした従姉妹でもある【睦月】も強引に迫り、デパートで助けた銀髪の少女【エレナ】までもが好意を示し始める。 そんな彼女達の歪んだ共通点はただ1つ。 手段を問わず彼を幸せにすること。 その為だけに彼女達は周りの事など気にせずに自分の全てをかけてぶつかっていく! 選べなければ全員受け入れちゃえばいいじゃない! 真のハーレムストーリー開幕! この作品はカクヨム等でも公開しております。

処理中です...