上 下
245 / 255

最終決戦 ⑧ 最終フェーズ!

しおりを挟む
 ばたばたと退避しようとしてたらなんだか敵ではなさそうな雰囲気を察して、焔たちも戻ってきた。相変わらずジェノサイドがラスボスで今から討伐イベント、と言った絵面なのだが本当のラスボスであるアークは氷漬けにされて処分待ちだった。

「なんかもう……アークが可哀そうになってきたね」

 魔法でテーブルセットを作り上げ、のんびりと紅茶の用意を始めた零士が呆れたように人数分のカップにお湯を入れて温める。
 
「そもそもコレは貴殿の世界の住人なのだろう? なぜここに?」

 のんびりとと言うか、凍らせ続けるためにここに留まるしかないジェノサイドが零士の話し相手となってるのだが、ふと気が付いた事を口にした。

「さあ? 娘と一戦やらかしたときに事故でこっちに飛ばされたそうだけど……時空間の歪みが出るほど出力の高い魔法なんてよっぽどの事が無い限りありえないんだけどね。そもそも魔法ってその目的を達成するために『加工』した魔力な訳で……無理やり放出した魔法力が空間を壊したとかかな?」
「そういえば……昔、アークが初めてウェイランドに現れる前に光の柱が立った気が」

 まだジェノサイドが弥生と会う前、それこそ弥生達がウェイランドに来た辺りにそんな事があった気がする。
 あの時は確か国中の魔法士やクロウ宰相が大騒ぎしてた。
 後にオルトリンデが国外に謝罪文を送っていた気がする。

「まあ、そんな偶発的に壊しちゃうとどこに飛ぶかわからない事が多いから……娘が、桜花が生きていてくれて本当にうれしいよ」
「す、すまぬ……そんな感動的な再会を……」

 はい、石ころの様にぶん投げました。
 そんな負い目から頭が上がらないジェノサイドさんでした。

「ああ、いや……止めを刺したのはうちの妻だから……気にしなくていいよ。僕も迂闊だった……」

 軽く手を上げて頭を下げるジェノサイドを制止する零士、その隣にはぐでーっとなってお腹を押さえる桜花とカタリナが青い顔をしながら蹲っている。

「カタリナ……角返して……吐きそう」
「嫌でございます……やっと少し気分が良くなってきましたので」

 しばらく回復には時間がかかりそうだ……。

「とりあえずアークの処遇なんだけど君らのリーダー待ちかな……掃討も終わるし」
「いや、もう着いているのだが……準備中だ」
「準備中?」
「ああ、正直そこまでするのかと我も呆れているのだが……」

 何かしら考えがあっての事だと思うのだが、今回ばかりは弥生が念には念を押してと執念すら感じさせる。

「まあ、アークについては徹底的にやっておかないと安心できないからね……」

 地下に目を向けたジェノサイドに合点がいったのか、零士が補足した。
 何せ潰しても潰しても気が付くとパワーアップして復活する。
 しかもそのパワーアップの材料に人間を使うのだから始末に負えない。

「今度こそ滅ぼすらしい、出来るのか?」
「可能だよ、アークのスペアだって有限だし……本体とリンクしてない以上このまま劣化していくしかないさ」
「ふむ……次元の渦とやらが開いたらそこに捨てると言っていたが……」
「ん? 次元の渦が開く?」

 ジェノサイドの何気ない言葉に零士が食いつく、何か変だろうかと首を傾げるジェノサイドに零士は応える。
 
「邪魔になりそうだから押さえてるけど……使いたいなら綺麗に開けようか? このまま放置すると周りに被害が出ちゃうから」

 どうやら零士はもう一つの次元の穴も掌握しているらしい……

「もうすぐ主も準備を終えてこちらに出てくる、現状維持を頼む」

 あうあう、と何か言いかけるが結局ジェノサイドは弥生にぶん投げる事にした。
 ずいぶんと神がかった強さを得ていても、上には上がいるというのを思い知らされる。

「いいよ、さて……紅茶の準備も出来たし。皆で一服でもしようか?」

 ちょうどそのころ、レヴィヤタンの6人が散開して支援を始めたので北門付近の騎士団たちの戦闘も半分くらいは国内の掃討戦に割り振られていた。
 大型兵器もほぼ制圧が完了して、レンが種類別に積み上げ始めている。
 
「そうするか……」

 戻ってきたアルマジロから焔や氷雨が降りてきて何やら口論していた。

「だからアルマジロの爆薬を全部設置してだなぁ!」
「吹っ飛ばしたらまた再生するやん!!」

 どうやらアークの抹消計画でもめているらしい……。

「おぬしら……もう決着がついたようなもんなんじゃからおとなしくせんか?」

 呆れたように洞爺が後部座席のドアを開けて愚痴をこぼす。
 
「にゃっはっは、みんな殺意高めだね」
「いい加減こんな騒ぎは終わらせたいって事よね……ジェミニ無事かしら?」

 その開いたドアから褐色肌の美人姉妹と言われても通じそうなエキドナとフィヨルギュンも降りてきて、ジェノサイドの方へ歩いてきた。
 
「そういえばあやつどこにおる? アークに吹っ飛ばされておったが」
「我が糸で保護して城壁内に投げておいた……目を回してはいるだろうが無事だろう」
「そうか、なら安心じゃ」

 そして……

 ――ぼこり!
 ――がさごそがさごそ!

 ジェノサイド一行の少し離れた場所の地面が隆起して、何やら這い出してくる気配がする。
 徐々にその盛り上がりから鋼鉄の指が見え隠れして人一人が通れる程度の穴が開く。

「お、来たか……」

 焔がつけたばかりの煙草を携帯灰皿にぽい、と入れてふたを閉める。

「ぷはっ!! あ、やっほう皆。無事?」

 頭に土を乗っけて弥生が首を出す。
 もぞもぞと這い出して来るが、いかんせん鈍くさい……しばらくするとキズナが下からお尻を押したのかずぽん! と出てきた。

「酷い! もうちょっと加減してよキズナ!」
「俺じゃねぇよ。真司だ」
「姉ちゃん邪魔なんだもん」
 
 弥生の抗議の声に親友と弟の苦情が返される。
 じゃあなんで一番最初に出したんだと周りの全員が思う……。

 そんな弥生も周りの状況を確認して、服に着いた土を手で払った。
 いよいよこの戦いの終わりを締めるために……。

「よう、嬢ちゃん……大体は聞いてたが。本当にやるんだな?」

 アルマジロの無線機でこれからの事を打合せした焔が確認する。

「はい、なんかもういい方向で予定外ばかりだし……そろそろ眠くなってきましたので」

 弥生の言う通り、東の空が明るくなってきた。
 長い夜が明けようとしている。

「ここで決着をつけます」

 地下で何回も狂った計画案も最後の修正が終わった。

「これより最終フェーズをやるよ!」

 弥生の右手が天高く掲げられ、その手に収まる最後の信号弾を込めた銃の引き金がひかれる。

 ――ぽんっ!!

 小気味いい音共に、空に高く打ち上げられた信号弾は真っ白な光をまき散らし……秘書部の集合を知らせた。
 それは同時にこの戦いに身を投じた者へ終わりが近い事を意味している。
 
「お仕置きタイムです!」

 弥生の声は高らかに響いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

処理中です...