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最終決戦 ④ さあ、覚悟しなさい

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 引き金を引いた瞬間に機体が轟音と共にひっくり返る。
 何が起きたのか、アークは分からなかった。

 ぎしゃあああぁあぁ!!

 機体の外から響き渡る凄まじい雄たけび、それは機体の中にまで震えをもたらす程に怖気をまき散らしている。

「なっ、あ!?」

 機体のセンサーには何の反応も無かった。
 しかし、現実は……青白い表皮を持つ巨大な蜘蛛に組み付かれてニルヴァーナが丸かじりされている。

 銃を撃った瞬間、必殺だったはずの弾丸が逸れて桜花のそばで爆ぜたかと思えばメインカメラいっぱいに映る蜘蛛の顔。その蜘蛛が猛然と咢を広げて麩菓子でも食べるかのように、たやすく装甲をかみ砕いていくのだ。

「なんだこいつ!」

 さすがにアークもこれには驚き、急いで引きはがそうと腕を操作する。

 ――がきん! 

 しかし全くその表皮には全く傷がつかない、そもそも掴めなかった。

「仲間の傷、その落とし前……つけさせてもらう」

 響き渡る地鳴りのような野太い声がアークの鼓膜を叩く。

「しゃべった!?」

 混乱しつつもアークはとっさにエンジンをいくつかまとめて自爆させて離れようとするが、爆音と業火に包まれてもジェノサイドの勢いは止まらない。
 むしろ心地いいかのようにその八本の脚を使いニルヴァーナの四肢を無造作に引きちぎり始めた。

「不味い身体だなぁ! 中の臓腑はもっとマシか?」

 ぐしゃり、ばきりと噛み砕いては引き裂き、吐き捨てる。
 なおかつ……アークの視界には異様な現象が映り込んだ。

「火が……凍る!?」

 そう、たった今ジェノサイドを飲み込んだ炎がそのまま時が止まったかのように虚空に凍り付く。
 物理的にもあり得ないその状況はアークの混乱を加速させる。

「冷たいのが好みか? そら、冬に戻してやろう」

 ――ミシリ

 噛まれた場所、ジェノサイドが引き裂いた場所から霜が降りてきた。
 徐々にそれは広がり真っ白に染まっていく。

「ありえない……ありえない!!」

 次々とモニターに表示される低温障害のエラー、機械である以上逃れられない熱による機械トラブル。
 本来であれば極低温や高温になる宇宙空間で運用されるニルヴァーナの対策は万全で、すぐに各部の排熱などを循環させる事で凍結等を防ぐのだが……その処理が全く追いつかない。

「ジェノサイド……なのか? お主」

 呆けたように膝をついた洞爺がつぶやく。
 まず見た目が白い、大きさもどう見ても体長20メートルを超えて……何ならレンよりも大きい。
 しかも、なぜか文香がその背で目を回してぶら下がっている。

「遅参した……良く持たせてくれた」

 アークに対しての声とは打って変わって静かな声色……そしてジェノサイドが良くやる前足をふりふりと揺らすしぐさに……洞爺の中で確信へと変わった。

「いや、助かった……が」

 なんでそんなラスボスみたいな格好に?
 疑問が口を突いて出てきそうだが、それどころではない。
 今のうちに全員の無事を確認しようと洞爺は足に力を込める。

 ――かくん

 限界まで酷使した足は一歩も動かず、動くこともままならない。
 そんな洞爺に背後から肩を貸したのは……

「いやぁ、油断大敵だねぇ……」

 褐色の肌、金髪のエキドナだった。
 今の今まで連続したハッキングとクラッキングに対抗していて動くことすらままならなかったが……ジェノサイドのおかげでそれが途切れる。

 同じようにカタリナが再生が終わったのかほとんど半裸になりながらも立ち上がってきた。

「油断はしておりませんでしたが……思いのほか早くアークの本気が引き出せましたね」

 ふう、とため息をつきながら桜花の様子を確認するカタリナ。
 どうやらEIMSが稼働しているらしく、ほんのりと身体の傷が光っていた。

「御姉様、起きてくださいませ……」

 ぺしぺしとほほを軽く叩くと桜花が唸り声をあげる。

「全身、痛い……」
「でしょうね……そっちはどうです?」

 吹っ飛ばされて横転しているアルマジロの隣で仲良く倒れている焔と氷雨に視線を向ける。

「生きてる、特に氷雨は頑丈だから……焔の方が心配かな?」

 遠目からスキャンした程度だが、氷雨は肩を脱臼、焔も打撲程度だろう。
 エキドナの見立てでは真司が軽く回復魔法をかけるだけで目が覚めると思っていた。

「あたしの心配、誰もしないの?」

 もぞり、とアルマジロの向こうにはフィヨルギュンも億劫そうに身を起こす。
 どうやら全員何とか生きている。

「すまん、気が回らん程にやられた」

 正直にそう答える洞爺にフィヨルギュンも肩をすくめながら同意する。
 何せ本気になったアークの至近距離でのレーザーカノンを真っ向から障壁だけで受けきったのだ。
 想定以上の攻撃に一瞬で全魔力を持って行かれたフィヨルギュンだが、それが無かったら全滅もあり得る。

「仕方ないわよね。指輪も壊れちゃったわ……」

 ぽろりと砕けて落ちた指輪を見送り、ばりむしゃとニルヴァーナを捕食するジェノサイドを見上げながら手を振るフィヨルギュン。
 間違いなくMVPは彼女だろう。

「お疲れの所悪いんだけど、僕の両親治してあげれる?」

 少しは魔力も戻ったであろうと見立てて、エキドナが申し訳なさそうにフィヨルギュンに頼む。
 
「大丈夫、それくらいなら魔力も残ってる……と言うか。真司はどうしたの?」
「今絶賛失業中さ……魔法使えなくなっちゃって」
「……大丈夫なのそれ」

 詳しく聞きたいが、まずは治療とフィヨルギュンは倒れたままの二人に回復魔法をかけた。
 数秒もしない内に淡い緑色の光に包まれ、うめき声をあげながら目を覚ます。

「く、は……全身いてぇ」
「さっさと立ちぃや……みっともない」

 すぐに氷雨も焔も意識を取り戻して周りを見渡し……

「「怪獣大決戦?」」

 ジェノサイドと取っ組み合いに移行したニルヴァーナを見てそう感想を述べた。

「似たようなもんじゃ。散々じゃのう……刀も失ってしもうた」

 鞘に納められている妻の愛刀も、先ほどの無茶な斬撃でおそらく使い物にならないだろうと洞爺は思っていた。
 事実、抜き放たれた刀身はボロボロに刃こぼれしてひびが入っている。

「これで、第二段階まで済んだのかしらね」

 もはやこちらを気にする余裕が無いのだろう。
 喚きたてるニルヴァーナを一心不乱に破壊し続けるジェノサイドを視界に収めながら、桜花は端末を手に取った。


 
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