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ウェイランド防衛戦! ⑦

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「うおあっ!?」

 凄まじい轟音と共に、目の前の多脚戦車が頭のてっぺんから何かに刺し貫かれた。
 アルベルトを逃がすべく、決死の突貫を果たした隊長が認識できたのはそれだけ。次の瞬間には多脚戦車の衝撃波で運がいいのか悪いのか、アルベルト国王の真ん前に無様に転がされる。

「すげえ……さすが禁忌武装!!」

 一部始終を見守っていた他の騎士から声援と感嘆の声が隊長に届くが……本人は知っていた。

「違う! この剣じゃない!!」

 ――高高度からのピンポイント狙撃……上空9000m以上から? 爆撃機でも居るの? この空

 剣から今度は周りの全員が聞こえるように声が発せられる。

「うあっ!? 頭に直接響く!! 何だこの声!!」
「きん……き、ぶそうだ」

 何度か聞いた声に、意識がもうろうとしつつあるアルベルトが応える。

 ――ごめん、まだ眠くて……治すね

「治す?」

 その言葉に疑問符を浮かべる隊長が握りしめていた剣がふわりと浮かび、盾の上に寝かされているアルベルトの上まで来ると……

 ――じゃあ、ぶすっと

 ぶすっ!!

 アルベルトのお腹を真っ白な剣が貫いた。

「「「へいかぁぁぁ!?」」」

 目をまん丸くして周りの騎士が絶叫する。
 ちょうどそのころカタリナもとい、ラストが超絶技巧で多脚戦車を射抜いたのにだーれもみてやしない。

「お、おれ……酒場の、つけ、が」

 死亡フラグっす陛下。

「ちょ! これ大丈夫じゃないですよね!? 初戦死者が隊長の謀反で陛下とか弥生監理官補佐が頭抱えますよ!?」
「俺じゃねぇぇ!! な? な!?」

 自分の相棒の不死族の女性に必死で潔白を訴えるが、なんとも言えない表情で目を逸らされた。

「まて、血が……」

 止血していた若い騎士の手元を見ていた他の騎士が気づく、しずくとなって垂れていたアルベルトの血が止まったのだ。

「死……死ん……」

 とうとうアルベルトがご臨終かと若い騎士がわなわなと震える中、アルベルトの言葉は続く。

「とうとう金貨10枚分まで溜まったんだ。誰か俺の代わりに酒場のマスターに返済を……」

 青白かったアルベルトの顔色がどんどん良くなっていき、同時に発せられる言葉も流暢だ。

「陛下?」
「ついでにメイド長に黙ってその酒場の看板娘のミクちゃんと一晩楽しんだんだ、もう一度だけ……」
「なあ、俺が改めて刺していいか?」

 そのミクさん、さっき決死でアルベルトの退路を作ろうと突貫した隊長の娘です。
 衛兵さんこいつです。

「良いと思います」
 
 若い騎士はそのミクさんに惚れてます。

「言ってる場合か!! 陛下!! わかりますか!!」
「ああ、すまない副隊長。俺はもう……」
「重いんでさっさと立ってください陛下」
「立つって、俺。腹を引き裂かれ……」

 アルベルトが目線を自分の腹部に向けると……しっかりと根元どころか貫通している剣とご対面。

「…………しんだぁぁぁぁ!! これ俺死んだぁぁ!!」

 ――治った。

 ずぶしゅ!

「ぎゃああああああああ!!」

 ――うるさい。

「……元気っすね」
「どうなってんだ?」

 そんな呆然とする騎士さんたちの周りでは、獅子奮迅の活躍で次々と北門へ退避する同僚たちが何やってんだこいつらと呆れた顔で通り過ぎていく。

「お前ら!! さっさと退避だ!! またあのでかいのが来たら今度こそ終わりだぞ!!」

 さすがに見咎めたバステト団長が声をかけて、ようやく動き出す。

「何だこの剣、本当に禁忌武装なのか?」

 さっきまで肉ごと引きちぎられたお腹が綺麗に元通りになっている。
 アルベルトもその痛みと、致命傷でうなされてたが……現実はきれいさっぱり。唯一びりびりになった服だけがその痕跡を残していた。

「陛下! 早く戻ってください!! 身体……なんだ無事じゃないですか」

 バステト団長もアルベルトが怪我をしたと聞いていたが、ピンピンしているのを見てなんだ誤認か……と。周りの騎士たちをカバーしながら自身も北門に向かい始める。

「も、戻るぞ。第三フェーズだ」

 何とか状況を再認識した隊長が再びディーヴァを蹴散らしつつ戻っていく。

 その背中を見送りつつ、ラストは縦横無尽にディーヴァを殴り、撃ち貫き、騎士たちの退路を維持していた。

「何をやってるんでしょうか……あの方たち」

 最初に狙撃した多脚戦車の近くにいた騎士たちがいつまで経っても逃げようとしない。
 追い立てるようにバステトが怒鳴りつけてようやく避難を始めていた。まあ、アルベルトの復活があったからなのだがそんなことを知る由もなかった。

「接敵から一時間、第三フェーズですね……これを打ち尽くしたら私も一度戻りましょう」

 時折ディーヴァごと襲い掛かってくる多脚戦車を狙撃砲で無造作に破壊する。幸いにも乱戦状態の中で中型戦車も光学兵器を使うつもりはないらしく、両側に装備された鈍器のマニュピレーターでラストを殴り殺そうとしてくるが、ひらりひらりと身軽にかわす。

「しかし、魔力武装はどうなってるんですかね? なんか前に使った時はもっと派手でしたが」

 騎士たちの退路も確保できたし、そもそもディーヴァ程度なら後れを取る事も無いだろうと敵のヘイトを集め続けるラストはいまだに余裕があった。そんな彼女は開戦からアルベルトに使わせた剣の調子がなんかおかしい事に気づいていた。

「まあ良いです。しかし、撤退の手際も見事……やはりこの国の兵士は質が良い」

 なんだかんだと退路ができるや否や、文字通り脱兎の勢いで城壁の中へ移動し始める騎士達。
 
「おや?」

 そんな騎士達とは逆の方向、黒いディーヴァの頭に埋もれながらちらほらと見え隠れする青みがかった黒髪とぼさぼさ頭の黒髪。

「あんな所まで突っ込んでいた方……いましたでしょうか? まあ、助けますけど」

 このままでは逃げ遅れて北門を封鎖してしまう、それまでに撤退できなかった場合は見捨てると宣言しているだけに騎士たちは必死なのだ。
 できるだけそういう事態は避けたいと指揮官である弥生が言ってたので、ラストは残り2発となった狙撃砲を迷わず彼らの逃げ道を作るため放つ。

 轟音と破壊音に合わせるかのように数十体のディーヴァがぬいぐるみの様に宙を舞った。
 そして残弾の尽きた狙撃砲を鈍器にしてラストは彼らの場所まで道を開く。

 ラストがその場所まで飛び込み、確認した先に居たのは。

「たすけてくださぁい!」
「巻き込まれちゃったんだよね……あっはっは」
「そろそろ偽装魔法が解けるぅ……」
「まあ僕は見た目リスだから襲われないけど」

 着物を着た鬼塚雪菜と、作務衣姿のぬらり、そして目を回しながらも認識障害の魔法を維持する金髪の幼女アリス、青いリスの見た目をしたクロノスがへたり込んでいたのであった。

「……夜音様のお知り合いですか?」

 その特徴的な3人と1匹にラストは口調を戻し問いかける。

「はい!! このあたりに座敷童は居ませんか!?」

 涙目の雪菜が両手を組んで必死でアピールする。

「……今から籠城しますのでこちらへどうぞ。うかうかしてると死んでしまいます」

 あっという間にラストめがけて殺到する新たなディーヴァを、彼女は殴り飛ばして手招きする。
 なんか違ったが、知り合いならば見捨てるのはちょっと忍びない。そんな程度だったのだが……。

「と、止めちゃえばいいんですか?」
「そうしたいので立てこもるんです。お早く」

 このままではどんどん集まってくる。ラストは多少急ぎながら急かす。
 
「じゃあ止めます!」
「だからそれは……」

 ――ギィン!!

「へ?」

 雪菜が宣言した瞬間、ラストたちを囲って居たディーヴァが凍った。
 
「あの門で良いのかな? 行くよ、アリスちゃん、女将さん」

 ひょい、とぬらりがさも当然と雪菜とアリスを抱えて北門へ走り出す。
 
「え? な……待ちなさい! まだ敵が!!」
「えい! えい!」

 慌てて後を追うラストの前で抱えられた雪菜が可愛く手を振ると、それに合わせてディーヴァが瞬間的に凍り付く。
 それに他のディーヴァが触れると粉々になる。
 それが意味するところは……

「し、芯まで凍ってる。だと?」

 そう、完全に凍り付いたのだ。

「あんま、気にしない方が良いよ? あの二人、訳が分からないから」

 呆れたような口調で青いリスは当たり前の様にラストの服に潜り込む。
 
「……後で話を聞きます」

 そうして何とかウェイランドの防衛戦は無事に第一フェーズを終えたのだった。
 まさかの北門補強を氷で施すというおまけ付きで。
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