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さて、ネタ晴らししますか!

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「え!? 私……誘拐されてるんですか!?」

 騎士たちが一生懸命に犯人たちを追っている頃、初日に訪れたエルフの親方が居る工房ではケイン、文香、キズナ、親方がのんびりとお茶をしていた。
 エルフの親方は趣味で陶芸もやっていると聞いて最後に記念品を作ろうとみんなで陶芸をしていたのだ。

「うん、ケインさんが来ると決まった時にすでに誘拐計画があったみたいで。便乗させてもらっちゃいました」
「……ほえぇ」

 驚いたらいいのか呆れるべきなのか怒るべきなのか笑うべきなのか……わからなくてケインから間抜けな声しか零れなかった。

「俺と文香が最終日の護衛なのは万が一鉢合わせた時の不測の事態に備えてって訳だ」
「キズナさんはともかく、文香ちゃんも?」
「ああ、人の姿でこの国最強なのが文香だ……」
「文香強いんだよー!」

 ……今更ではあるが、この国最強の子がお見合い相手って良いのだろうかとケインは思う。
 しかし、良い意味であけっぴろげなこの国の事だからそれもありなのだろう。

「早ければ夕方までにつかまるんじゃないかなーと」
「町の人たちは大丈夫なんですか?」

 もし、自分を誘拐する気の犯罪者が自分を誘拐できない事で暴れたりしたら……とケインが心配しているのだが、弥生は微笑んで答える。

「予定外の事態が起きそうな場合は監視者が処理しますから大丈夫ですよ」
「か、監視者?」
「ええ、具体的には数キロ先からでも瞬時に制圧できる道具を持った人たちが……それぞれに対して二人づつ張り付いてますから」
「……その人たちよりも?」

 自然とケインの視線は文香に向く。

「文香が強い、数キロどころか直線状に出てきたらアウトだからな。髪の毛チリチリにされるぜ」

 工房のナイフを指先でくるくるとまわしながらキズナが事実を伝えた。
 文香の問答無用砲、無制限でぶっ放すと最低でも上空10キロから50キロの成層圏まで余裕で届くのが桜花により確認される。
 本当に移動砲台と言うのにふさわしい。

「私、とんでもない人とお見合いする事になってたんですね……あ、あはは」
「そういう訳で俺らはゆっくり遊んでおこうぜ。ベクタと糸子のねーちゃんは真司から事情を聴いて迎賓館でのんびりしてるだろうからさ」

 ちょうどそのころ、誘拐犯の片割れが民間人に危害を加えようとして銀髪のメイド魔族さんにゴム弾で黙らされていたりする。

「そうだったんですか。もしかして私たちの滞在期間を延ばすために?」
「ええ、ほら。誘拐計画があったんで保護しましたーって名目なら仕方がないじゃないですか。糸子さんからも滞在延長のお願いが来てましたから」

 本来であれば日程は最優先で守られるが、不測の事態で保護するという名目ならばその限りではなかった。

「エルフの国には飛竜便で事情を伝えてある。問題ねぇ」

 このナイフ良いな、俺も買う。
 と親方に注文をするキズナがぼけーっと伝える。

「ありがとうございます。それにしてもウェイランドはすごいですね……騎士の皆さんも連携取れてますし」
「ああ、あれは演習なので」
「演習?」
「せっかくなので不定期で行っている実戦演習をやってます」
「……実際の誘拐事件ですよね」

 ここ数日で弥生の秘書官としての手腕や思い切りの良さはケインも知っているが……まさか実際の事件を演習として利用する彼女の頭の中はどうなっているのだろう。
 
「この国に入る時からずーっと見張って泳がせてますから安心してください」

 もしかして不動の監理官、オルトリンデよりやばい人なんじゃないかとケインが今更ながらに慄く。

「ところで、ケイン王子の代わりに籠には誰が入ってんだ?」

 ふと、思い出したかのようにキズナが弥生に尋ねる。

「夜音ちゃん」
「……アイツ最近見ないと思ったら」
「監視から人質役まで、悪戯し放題だから進んで行っちゃったよ」
「自由過ぎる……」

 あなた方の方がよっぽど自由ですが! そう言いたくなったのをケインは堪える。
 
「ねえ、おねーちゃん……お外で雨降ってる」

 こっくりこっくりと舟をこぐ文香が眠そうな声で窓の外を見ると、確かに窓には水滴がぽつぽつとできていた。

「あらら……お昼は楓さんのご飯なんだけど」

 洞爺の新居でもある神楽家でお昼ご飯を食べる予定だったが、窓から覗く空は黒い雲が迫っていて遠くの方では景色が霞んでいた。
 
「良ければ傘を貸しますけど?」

 それまでのんびりと弥生達を見守り紅茶を楽しんでいた親方が笑顔で提案する。
 
「うーん、どうしようかな?」
「文香が寝ちまいそうだし……もう少しここに居ようぜ。連絡は……俺の蜘蛛に任せるか」

 そう言ってキズナが右手の指を自分の耳に近づけると、ぴょん、と髪の毛の中で休んでいた蜘蛛が一匹飛び乗る。
 他の蜘蛛たちと違ってなんだかしゃん! とした動作が特徴のキズナのペット。

「爺さん達の所に行って昼飯はこっちで食べる。と伝えてくれ」

 こくん、と一度頷いて蜘蛛はちょこまかと素早い動作で屋根の隙間から出ていく。

「キズナの蜘蛛さん、しゃべれるの?」
「いや、文字を書けるように教えた……物覚え良いぞこいつら」
「白もそういえば頭良いですよね」

 すっかり仲良くなったお世話係の蜘蛛を思い出してケインも笑う。

「糸子さんの蜘蛛、人にも慣れてますから仲良くしてあげてくださいね」
「はい!」

 そうしている内に、文香もウトウトしながら弥生の膝によじ登り抱っこの姿勢で寝息を立て始める。

「さて、何を食うかな……王子さまはなんか食えないのあるか?」
「好き嫌いは無いのでなんでも。この国のご飯おいしいですから楽しみです」
「そりゃあ結構、弥生は?」
「片手で食べられるものー」
「親方は?」
「私も弥生さんと同じもので良いかな。雨が降るなら午後は君らが作ったお皿を乾燥室に移さないといけないから」

 実にのんびりとした時間が過ぎていくのであった。
 犯人たちは必死で逃げていたが……因果応報、弥生達は我関せずと国賓を楽しませることに大成功である。
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