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乱戦注意、特に荷物がある時は
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「くそ、重い……捨てて良いか!?」
器用に弥生を背負いながらもショットガンを振り回すキズナが愚痴をこぼす。
たまったものではないのは弥生だ。とはいえ反論する元気も無い、車や船、飛行機に至るまで酔う事のない弥生の三半規管もキズナの運動能力の前に根を上げていたのだ。
「キズナ姉! あとちょっとだけ待って! 前の木偶人形薙ぎ払うから!!」
「真司! なるべく早くこちらに加勢を!! こののっぺらぼうの女性! 強いんですよ!! くぬっ!!」
なんでこうなったかと言うとキズナが弥生を背負い、監禁されていた所から通路に出た瞬間。
のっぺらぼうの女性が猛然と襲い掛かってきたのだ。両腕から長剣ほどの長さの刃物を生やしてキズナと弥生を狙うのだが……いち早く反応したオルトリンデが手斧で応戦する。
しかし、どういう訳か紅い半透明の刃も彼女の刃物の前では斬れずに食い込むだけ。即座に逃げた先の広い部屋にあの通せんぼで右往左往していたディーヴァが降りてきていた……。
そこから先は真司が本当に奮戦した。
のっぺらぼうの相手をオルトリンデに任せ、数種類の攻撃魔法を連続かつ同時に放ち各個撃破の速度を上げて体制を整える時間を稼いだのだ。
「弥生、良いか。真司と入れ替わりで俺も前に出る。真司たちと俺の間から絶対出るなよ!!」
「うい……だい、おえ……ジョウブ。動き、たくて、もうごけ……ない」
「吐くなよ!? 良いか!! 絶対あたしの背中で吐かないでよ!?」
「地が出てる……キズナ、ふら……ぐ?」
「フラグじゃねぇよ!? そりゃ地も出るわ!! 背中で虹ができるかどうかなんだぞ!?」
何気に背中も気にしながらショットガンの弾を流れるような動作で装弾しつつ、近づいて来たディーヴァを蹴り倒す器用な立ち回りを披露するキズナだが。別な意味での疲労は隠しきれない。
「キズナ姉!! いったん途切れる! スイッチのカウント!!」
「おう!! 3、2,1! スイッチ!!」
ちょうどキズナと弥生を中心にして十メートルほどの円が出来上がった瞬間、真司はオルトリンデの方へ、キズナは真司と入れ違いに前線を陣取る。
弥生をぽいっと捨てて身軽になったキズナが腰に差した刀を空いた手で抜き放った。
「良し! 来い木偶ども!! 蹴散らしてやんぜ!!」
反対に落とされた弥生はお尻をしこたま打って涙目であるが、頓着してる暇はない。
斬って、撃って、真司の魔法より速くディーヴァを駆逐する。
「オル姉!! 一瞬防いで距離を!!」
「分かりましたっ! 業火よ、爆ぜよ!!」
魔力も碌に込めてないが軽い爆発でオルトリンデはのっぺらぼうとの距離を開けた。
そこに間髪入れずに真司が氷の矢をできる限りの数を生み出して一斉に放つ。オルトリンデの背丈とのっぺらぼうの背丈の差を考えて、のっぺらぼうの頭部を中心に狙った氷の散弾銃だ。
狙いは正確で放射状に広がる氷の矢が殺到する。
「うあっ……」
ずっと小さな魔法とは言え連続で起動し続けてきた真司の魔力が若干枯渇気味となり、真司の視界がぐらりと揺らぐ。
しかし、今は気を失ったり手を休めている場合ではない。
「こなくそっ!!」
真司は気力を振り絞って一度分だけ追加の炎の矢を生み出し、追加の一閃を放つ。が、悪手だった。
それに気づいたオルトリンデが真司に抱き着く形で背後へ飛びのく。
「オル姉!?」
「伏せて!!」
――バジュウウゥ!!
氷の矢が着弾した所に高温の炎の矢を当てれば、氷が蒸発し熱で暖められた熱湯の霧が立ち込める。
熟練の魔法士ならば近距離の乱戦では最も避けるべき魔法の相性、組み合わせだが。思考力が鈍った上に経験が元々少ない真司では思いつかなかった。
「あうっ!!」
あまりに近距離で広がった高温の水蒸気にオルトリンデの足が呑み込まれ皮膚が焼ける嫌な音がする。その音に真司は気づき、遅ればせながら自分の失敗を悟った。
「ご、ごめ……オル」
「しっ、見てなさい。これが貴方の目指すところですよ……氷菓に彩られし妖精よ、わが身、我が声に応え飾り立てろ!! 極寒の楽園!!」
その真司の失敗を先達であるオルトリンデは逆手に取り、霧をそのまま一気に凍らせる。
瞬く間に気体から固体へと凝固させられた霧はのっぺらぼうを飲み込んで……
「これで動けたら……大したもんです」
歴戦の戦闘者であるオルトリンデが放つ魔法は真司とは比べ物にならないほど早く練りこまれた魔力も相まって、本来の詠唱から可能な限り縮められていても威力は絶大だ。
「ごめん、オル姉」
「ふふん、上手いこと封じ込めたのです。よくやりました真司、でも回復魔法はお願いできます? 火傷の痕が残ったら困りますので」
「うん! 今治すよ」
杖を鳴らし、オルトリンデの右足を急いで治す真司。
それを見ながらほほ笑んでお礼を言うオルトリンデ、後進のミスをチャンスに変える彼女のおかげで真司のメンタルも守れた。
「さて、どうでしょうかね? 凍っていればそのまま砕きたい所……」
すぐに張り付くような痛みが消えると、オルトリンデが氷の結晶で視界が悪くなったのっぺらぼうの元へ警戒しながら近づく。
「うん?」
いない、タイミングとしてはバッチリだった魔法の波状攻撃。
少なくとも手傷は免れないはず、そう思ってオルトリンデが周りを見渡すと……
「これは……」
刃を生やした人の右腕が落ちていた。
オルトリンデの背筋に走る悪寒、そもそもこいつが居た場所は『弥生』の閉じ込められていた部屋。
「姉ちゃん!!」
真司が弥生の無事を確認しようと振り向いた先に居たのは、右腕を捨てて。左腕の刃で弥生の心臓を狙う火傷と凍傷に晒された……のっぺらぼうだった。
器用に弥生を背負いながらもショットガンを振り回すキズナが愚痴をこぼす。
たまったものではないのは弥生だ。とはいえ反論する元気も無い、車や船、飛行機に至るまで酔う事のない弥生の三半規管もキズナの運動能力の前に根を上げていたのだ。
「キズナ姉! あとちょっとだけ待って! 前の木偶人形薙ぎ払うから!!」
「真司! なるべく早くこちらに加勢を!! こののっぺらぼうの女性! 強いんですよ!! くぬっ!!」
なんでこうなったかと言うとキズナが弥生を背負い、監禁されていた所から通路に出た瞬間。
のっぺらぼうの女性が猛然と襲い掛かってきたのだ。両腕から長剣ほどの長さの刃物を生やしてキズナと弥生を狙うのだが……いち早く反応したオルトリンデが手斧で応戦する。
しかし、どういう訳か紅い半透明の刃も彼女の刃物の前では斬れずに食い込むだけ。即座に逃げた先の広い部屋にあの通せんぼで右往左往していたディーヴァが降りてきていた……。
そこから先は真司が本当に奮戦した。
のっぺらぼうの相手をオルトリンデに任せ、数種類の攻撃魔法を連続かつ同時に放ち各個撃破の速度を上げて体制を整える時間を稼いだのだ。
「弥生、良いか。真司と入れ替わりで俺も前に出る。真司たちと俺の間から絶対出るなよ!!」
「うい……だい、おえ……ジョウブ。動き、たくて、もうごけ……ない」
「吐くなよ!? 良いか!! 絶対あたしの背中で吐かないでよ!?」
「地が出てる……キズナ、ふら……ぐ?」
「フラグじゃねぇよ!? そりゃ地も出るわ!! 背中で虹ができるかどうかなんだぞ!?」
何気に背中も気にしながらショットガンの弾を流れるような動作で装弾しつつ、近づいて来たディーヴァを蹴り倒す器用な立ち回りを披露するキズナだが。別な意味での疲労は隠しきれない。
「キズナ姉!! いったん途切れる! スイッチのカウント!!」
「おう!! 3、2,1! スイッチ!!」
ちょうどキズナと弥生を中心にして十メートルほどの円が出来上がった瞬間、真司はオルトリンデの方へ、キズナは真司と入れ違いに前線を陣取る。
弥生をぽいっと捨てて身軽になったキズナが腰に差した刀を空いた手で抜き放った。
「良し! 来い木偶ども!! 蹴散らしてやんぜ!!」
反対に落とされた弥生はお尻をしこたま打って涙目であるが、頓着してる暇はない。
斬って、撃って、真司の魔法より速くディーヴァを駆逐する。
「オル姉!! 一瞬防いで距離を!!」
「分かりましたっ! 業火よ、爆ぜよ!!」
魔力も碌に込めてないが軽い爆発でオルトリンデはのっぺらぼうとの距離を開けた。
そこに間髪入れずに真司が氷の矢をできる限りの数を生み出して一斉に放つ。オルトリンデの背丈とのっぺらぼうの背丈の差を考えて、のっぺらぼうの頭部を中心に狙った氷の散弾銃だ。
狙いは正確で放射状に広がる氷の矢が殺到する。
「うあっ……」
ずっと小さな魔法とは言え連続で起動し続けてきた真司の魔力が若干枯渇気味となり、真司の視界がぐらりと揺らぐ。
しかし、今は気を失ったり手を休めている場合ではない。
「こなくそっ!!」
真司は気力を振り絞って一度分だけ追加の炎の矢を生み出し、追加の一閃を放つ。が、悪手だった。
それに気づいたオルトリンデが真司に抱き着く形で背後へ飛びのく。
「オル姉!?」
「伏せて!!」
――バジュウウゥ!!
氷の矢が着弾した所に高温の炎の矢を当てれば、氷が蒸発し熱で暖められた熱湯の霧が立ち込める。
熟練の魔法士ならば近距離の乱戦では最も避けるべき魔法の相性、組み合わせだが。思考力が鈍った上に経験が元々少ない真司では思いつかなかった。
「あうっ!!」
あまりに近距離で広がった高温の水蒸気にオルトリンデの足が呑み込まれ皮膚が焼ける嫌な音がする。その音に真司は気づき、遅ればせながら自分の失敗を悟った。
「ご、ごめ……オル」
「しっ、見てなさい。これが貴方の目指すところですよ……氷菓に彩られし妖精よ、わが身、我が声に応え飾り立てろ!! 極寒の楽園!!」
その真司の失敗を先達であるオルトリンデは逆手に取り、霧をそのまま一気に凍らせる。
瞬く間に気体から固体へと凝固させられた霧はのっぺらぼうを飲み込んで……
「これで動けたら……大したもんです」
歴戦の戦闘者であるオルトリンデが放つ魔法は真司とは比べ物にならないほど早く練りこまれた魔力も相まって、本来の詠唱から可能な限り縮められていても威力は絶大だ。
「ごめん、オル姉」
「ふふん、上手いこと封じ込めたのです。よくやりました真司、でも回復魔法はお願いできます? 火傷の痕が残ったら困りますので」
「うん! 今治すよ」
杖を鳴らし、オルトリンデの右足を急いで治す真司。
それを見ながらほほ笑んでお礼を言うオルトリンデ、後進のミスをチャンスに変える彼女のおかげで真司のメンタルも守れた。
「さて、どうでしょうかね? 凍っていればそのまま砕きたい所……」
すぐに張り付くような痛みが消えると、オルトリンデが氷の結晶で視界が悪くなったのっぺらぼうの元へ警戒しながら近づく。
「うん?」
いない、タイミングとしてはバッチリだった魔法の波状攻撃。
少なくとも手傷は免れないはず、そう思ってオルトリンデが周りを見渡すと……
「これは……」
刃を生やした人の右腕が落ちていた。
オルトリンデの背筋に走る悪寒、そもそもこいつが居た場所は『弥生』の閉じ込められていた部屋。
「姉ちゃん!!」
真司が弥生の無事を確認しようと振り向いた先に居たのは、右腕を捨てて。左腕の刃で弥生の心臓を狙う火傷と凍傷に晒された……のっぺらぼうだった。
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