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ミィツケタァァ
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「ねえあんた、どうやって再生したの?」
キズナ達三人が洞窟へと侵入してしばらくたった頃、エキドナを追い回すのに疲れた桜花はアークの尋問を行っていた。せっかく真司が良い感じに拘束してくれたので顔の部分だけ解凍する。案の定、顔だけ溶かしてもふてぶてしいアークはニヤニヤしながら桜花へ答えた。
「いやぁ……君のお父様の角を使って再生したんだ。さすが死んでも遺された魔力量は膨大だね! せっかくだから有効活用しているよ。お母様の角もセットなら僕の角をあげても良いくらいだ。あ! ごめんごめん! 君の命を護るために死んじゃったんだっけ? 残念だなぁ! 魔王の血統途絶えちゃった! あははははははっ!」
まともに答える気が無いのはわかり切っていた桜花とカタリナ。その周囲の温度が数度下がったかのような錯覚を近くに居た牡丹が感じ取り、少し離れたところに避難する。
「口のきき方に気をつけなさいよ? 今あんたの角……誰が持ってると思ってる?」
機嫌は急降下だが、アークの挑発など付き合うだけ無駄だ。
桜花は初手から本題に入る。アークの角は彼の再生力の源でそれがない以上、かなりのダメージを負ったはずのアークがたった数年でピンピンしているのはおかしかった。
「……ちっ、道理で見つからないもんだ。良いよ答えようじゃないか。今回は15年もかかったよ、君の父親、間宮零士の時より損傷が激しかったからね。すっかり痛みや餓え、渇きに慣れたよ……英雄である僕じゃなきゃこの苦しみは乗り越えられなかっただろうね」
「…………あんたが英雄かどうかは知ったこっちゃないわ」
至極どうでもいいアークの愚痴には耳を貸さず、桜花はある事柄に注目する。
「……(15年? こいつ私たちより前の時間軸に飛ばされている?)」
「君らは……見た目変わんないか。あの忌々しい人間兵器も君の角で魔族化してるんだもんなぁ」
「どこに飛ばされてた?」
「相変わらず人の話を聞かない女だね。宮城だよ……ちょうど君らに吹き飛ばされた場所と同じだったね。とはいえ投げ出された先が海だったから深海に沈んで治しては壊れての繰り返しさ……絶対にお前らを同じ目に合わせるつもりだけどね」
「他にここの時代に飛んできた奴は?」
「居ないよ。僕一人さ……両手両足がそろってやっと泳いで陸地に着いたと思ったら北海道に流されてたんだから困った困った」
アークをにらむ桜花だがその言葉に嘘はなさそうなのだ。
普段ならまともに答えてこないアークの話も、このことだけは偽っていない。
ぶっちゃけ今までの経緯に関してはアークからしても嘘を言ってもしょうがないから、それだけの事なのだが信用してもらえないのは過去の経緯と普段の行いのせいだろう。
「まあ良いわ。あれだけやって殺せなかったとか悪夢だからいっそ定期的に粉々にして深海に沈めるか……」
「ずいぶん物騒な事を本人目の前にして言うなよクソガキ!! あ、いけないいけない……英雄らしくないよね激昂なんて」
「良いんじゃない? 弥生が確保出来たらお前は文香ちゃんに消し飛ばしてもらうんだから」
「……アレは何だい? 魔族の角じゃないのに魔族以上の戦闘適正じゃないか」
「さあね、私もわからないけど面倒事が減って助かったわ。で、次の質問。元の時代に戻るつもり?」
そこが桜花の本題だった。
せっかく死ぬ思いをしてアークを葬ったはずなのに生きていて、自分の知らぬところで元の時代に戻って世界大戦をやり直されてはたまったものではない。偶然の産物であの時代を救えたのだ、同じように当時の自分たちができるかどうかは分からなかったが試す気はなかった。
「もちろんさ! あの時代は最高じゃないか!! すべてが僕の味方で君らが断罪される側だ!! 好きなように玩具を改造して遊べるなんて懐かしいよね!! ああ! せっかくパンデモニウム級が見つかったんだ!! 諦められるわけないだろう!?」
「……は?」
「あ……」
明らかにアークの表情が曇る。黙っておけばいいのにわざわざ敵である桜花にばらしてしまった。
桜花は悩む、この適当さに紛れて目立たないが非常に狡猾なアークが本当にうっかりで口にしたのか……それともこの情報をもとに自分たちを誘導しようというのか。
はっきりとした確証も無いまま嘘をついても相手に悟られるだけだと、桜花も心当たりがある北の海に沈んでいるディーヴァの巣をダシにしてアークに吹っ掛ける。
「北の海溝に沈んでるやつの事かしら? 残念ながら補足済みよ」
「ちっ……抜け目がないね。その通り、あのパンデモニウム級の魔力炉なら同じ規模とは言わなくても元居た場所と時間ぐらいには戻れるさ」
「あんな深い所にある奴なんて使えるかどうかもわからないもの……ああ、あんた潜れるものね。何回死ぬかわからないけど」
「君らさえいなけりゃ気長にやっても良いんだけどね。そうも言ってられなくなった」
「余裕じゃない。逃げられないくせに」
「ふふ、そうだね」
おかしい……桜花の疑問と不安がどんどんふくらむ。
なぜこんなに悠長なのだ? アークは出会い頭に文香に痛い目に合わされた割には自分が逃げられることを前提にして話をしている。
「ま、こうして僕に対しての対策を入念に調べ上げた君らの行動は間違ってないよ。実際首から下はとっくに壊死しているしこのまま捕まえると良い」
「……そうね。幸い文香のおかげで前にやられた頭蓋骨にあらかじめ刻んである魔法陣も壊せたからね」
「良く覚えてたじゃないか……絶対応えないとわかってて聞くんだけどさ?」
「角は封印処理してあるから探せないわよ」
「………………ちっ」
これで会話は終わりだとばかりにアークはそっぽを向いて舌打ちをする。
しかし、それを見てとりあえずカタリナと話そうと席を外した桜花の背を見て……アークはほくそ笑む。
「みぃつけた……代りの角」
そのつぶやきは誰にも聞き取られずに虚空に消えた。
キズナ達三人が洞窟へと侵入してしばらくたった頃、エキドナを追い回すのに疲れた桜花はアークの尋問を行っていた。せっかく真司が良い感じに拘束してくれたので顔の部分だけ解凍する。案の定、顔だけ溶かしてもふてぶてしいアークはニヤニヤしながら桜花へ答えた。
「いやぁ……君のお父様の角を使って再生したんだ。さすが死んでも遺された魔力量は膨大だね! せっかくだから有効活用しているよ。お母様の角もセットなら僕の角をあげても良いくらいだ。あ! ごめんごめん! 君の命を護るために死んじゃったんだっけ? 残念だなぁ! 魔王の血統途絶えちゃった! あははははははっ!」
まともに答える気が無いのはわかり切っていた桜花とカタリナ。その周囲の温度が数度下がったかのような錯覚を近くに居た牡丹が感じ取り、少し離れたところに避難する。
「口のきき方に気をつけなさいよ? 今あんたの角……誰が持ってると思ってる?」
機嫌は急降下だが、アークの挑発など付き合うだけ無駄だ。
桜花は初手から本題に入る。アークの角は彼の再生力の源でそれがない以上、かなりのダメージを負ったはずのアークがたった数年でピンピンしているのはおかしかった。
「……ちっ、道理で見つからないもんだ。良いよ答えようじゃないか。今回は15年もかかったよ、君の父親、間宮零士の時より損傷が激しかったからね。すっかり痛みや餓え、渇きに慣れたよ……英雄である僕じゃなきゃこの苦しみは乗り越えられなかっただろうね」
「…………あんたが英雄かどうかは知ったこっちゃないわ」
至極どうでもいいアークの愚痴には耳を貸さず、桜花はある事柄に注目する。
「……(15年? こいつ私たちより前の時間軸に飛ばされている?)」
「君らは……見た目変わんないか。あの忌々しい人間兵器も君の角で魔族化してるんだもんなぁ」
「どこに飛ばされてた?」
「相変わらず人の話を聞かない女だね。宮城だよ……ちょうど君らに吹き飛ばされた場所と同じだったね。とはいえ投げ出された先が海だったから深海に沈んで治しては壊れての繰り返しさ……絶対にお前らを同じ目に合わせるつもりだけどね」
「他にここの時代に飛んできた奴は?」
「居ないよ。僕一人さ……両手両足がそろってやっと泳いで陸地に着いたと思ったら北海道に流されてたんだから困った困った」
アークをにらむ桜花だがその言葉に嘘はなさそうなのだ。
普段ならまともに答えてこないアークの話も、このことだけは偽っていない。
ぶっちゃけ今までの経緯に関してはアークからしても嘘を言ってもしょうがないから、それだけの事なのだが信用してもらえないのは過去の経緯と普段の行いのせいだろう。
「まあ良いわ。あれだけやって殺せなかったとか悪夢だからいっそ定期的に粉々にして深海に沈めるか……」
「ずいぶん物騒な事を本人目の前にして言うなよクソガキ!! あ、いけないいけない……英雄らしくないよね激昂なんて」
「良いんじゃない? 弥生が確保出来たらお前は文香ちゃんに消し飛ばしてもらうんだから」
「……アレは何だい? 魔族の角じゃないのに魔族以上の戦闘適正じゃないか」
「さあね、私もわからないけど面倒事が減って助かったわ。で、次の質問。元の時代に戻るつもり?」
そこが桜花の本題だった。
せっかく死ぬ思いをしてアークを葬ったはずなのに生きていて、自分の知らぬところで元の時代に戻って世界大戦をやり直されてはたまったものではない。偶然の産物であの時代を救えたのだ、同じように当時の自分たちができるかどうかは分からなかったが試す気はなかった。
「もちろんさ! あの時代は最高じゃないか!! すべてが僕の味方で君らが断罪される側だ!! 好きなように玩具を改造して遊べるなんて懐かしいよね!! ああ! せっかくパンデモニウム級が見つかったんだ!! 諦められるわけないだろう!?」
「……は?」
「あ……」
明らかにアークの表情が曇る。黙っておけばいいのにわざわざ敵である桜花にばらしてしまった。
桜花は悩む、この適当さに紛れて目立たないが非常に狡猾なアークが本当にうっかりで口にしたのか……それともこの情報をもとに自分たちを誘導しようというのか。
はっきりとした確証も無いまま嘘をついても相手に悟られるだけだと、桜花も心当たりがある北の海に沈んでいるディーヴァの巣をダシにしてアークに吹っ掛ける。
「北の海溝に沈んでるやつの事かしら? 残念ながら補足済みよ」
「ちっ……抜け目がないね。その通り、あのパンデモニウム級の魔力炉なら同じ規模とは言わなくても元居た場所と時間ぐらいには戻れるさ」
「あんな深い所にある奴なんて使えるかどうかもわからないもの……ああ、あんた潜れるものね。何回死ぬかわからないけど」
「君らさえいなけりゃ気長にやっても良いんだけどね。そうも言ってられなくなった」
「余裕じゃない。逃げられないくせに」
「ふふ、そうだね」
おかしい……桜花の疑問と不安がどんどんふくらむ。
なぜこんなに悠長なのだ? アークは出会い頭に文香に痛い目に合わされた割には自分が逃げられることを前提にして話をしている。
「ま、こうして僕に対しての対策を入念に調べ上げた君らの行動は間違ってないよ。実際首から下はとっくに壊死しているしこのまま捕まえると良い」
「……そうね。幸い文香のおかげで前にやられた頭蓋骨にあらかじめ刻んである魔法陣も壊せたからね」
「良く覚えてたじゃないか……絶対応えないとわかってて聞くんだけどさ?」
「角は封印処理してあるから探せないわよ」
「………………ちっ」
これで会話は終わりだとばかりにアークはそっぽを向いて舌打ちをする。
しかし、それを見てとりあえずカタリナと話そうと席を外した桜花の背を見て……アークはほくそ笑む。
「みぃつけた……代りの角」
そのつぶやきは誰にも聞き取られずに虚空に消えた。
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