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宴の終わり ④

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 カタリナは真司と文香、そして糸と毛布でぐるぐる巻きにされた牡丹を家に送り届けてから義姉である桜花と合流すべく向かっていたのだが、途中に自分たちの拠点がある事に気づいて一応装備を整えることにした。

「格闘大会でしたからナイフの一本も持ってなかったですからね。ええと、銃はどうしましょう……まあ、ちょっと驚かせるために対物ライフルでも持っていきましょうか」

 元々武器満載で行動するのがカタリナの信条だが、本人の言う通り格闘大会だったので身軽だった。
 別に戦いに行くわけではないので護身用程度でもいいはずなのに、これから要塞でも落としに行くかのような重火器と斬馬刀と呼ばれる長さの刀を手際よく身に着けていく。

「~ン~ンン~」

 機嫌良く鼻歌を歌いながら予備の弾倉やナイフを太もものホルスターに括り付けたり、背中のバックパックへ爆弾を雑に放り入れた。
 
「さて……行きますか。御姉様が縄で縛られてあんなことやこんなことになっている現場に颯爽と駆け付けておいしくいただきます作戦の始まりです」

 いかにも頭の悪そうな作戦だが、いたって本人は真面目である。
 元々人類の最終兵器と称えられていた頃の面影はみじんも無い、すっかり俗世に染まった駄メイドさんだった。

「うん?」

 魔族になって強化されているカタリナの耳は聴き慣れているが聞こえるはずのない音を拾う。
 それは軍人時代に慣れ親しんだ移動手段、航空機のガスタービンの音だった。

「お姉さまがEIMSで飛んでるんでしょうか?」

 その割には音の数と種類が合わない、桜花の飛行形態は10個のブースターでそれぞれが独立して出力を変えて飛ぶため甲高い音と低い音が混じる独特な音色を奏でる。
 しかし、今聞こえているのは双発のタービン音。一般的な戦闘機などに採用されてる方だった気がした。

「まさか飛行機が現存している? そんな馬鹿な……」

 装備品の箱の中を漁り、カタリナが双眼鏡を手に取って窓から外を探す。
 音も小さいので大分遠いだろうと見当をつけてウェイランドの城壁の向こうを中心に見ていく……すると微かに雲の中で動くものを見つけた。

「アレのようですが……ずいぶんと小さい気がしますね。もしかしたら御姉様がEIMSを自立行動させているのでしょうか???」

 普段はアルミのアタッシュケースに擬態させているEIMSだが、義姉の意志一つ、発想一つでかなりの自由度を誇る。小型の飛行機位なら容易に創造出来てしまうのもありそうな話だった。
 しかし、そうだったとしてもカタリナの中に残る疑問が解けず。窓を開けて拠点にしている協会の屋根に上り、背中に背負った対物ライフルを構えてそのスコープを除く。
 双眼鏡よりも倍率が良く、暗視機能付きでもあるので先ほどよりはっきりと大きくその飛行機の影が見えた。

「……少々寒いですが仕方ないですね。さて、あれはいったい何なのかと……ん?」

 それは本当に偶然だった。
 大きな蜘蛛に乗った長い髪の少女が背の高い誰かに殴られ、蜘蛛を何かで切り伏せる瞬間を目撃する。

「!?」

 思いもかけない光景に、反射的に対物ライフルのボルトを操作して初弾を装填。迷わず発砲した。
 カタリナに直撃させるつもりはない、彼女を助けるためだし少しでも弾丸が逸れれば民家にダメージを与える事もあって外壁に向かっての水平射撃。

 消音器を着けていない大口径の銃は爆音を轟かせ、音速の数倍にも達する初速と威力を一直線に示す。二人からは数メートル離れているが12.7ミリの弾丸はそれでも相手に気づかれない事は無い。
 カタリナの目論見通り少女から誰かは驚いたようで距離を取る。
 その隙にカタリナは銃を窓から部屋へ放り込み、屋根を疾走した。本来であれば精密射撃用のライフルを粗雑に扱うのはご法度だがそんな場合ではない。

「飛行機は見失いましたか……」

 今の間に文字通り雲隠れした飛行機は諦めて、現場へ急行するカタリナ。
 その速度は地面を走るよりも早く、軽い足音を残し建物の屋根や看板を足場にしてまっすぐ向かう。みるみる間に距離が詰まってくが相手も立ち直って、少女を抱えた後何かを足場にしている屋根に叩きつけた。

 それはおそらく煙幕だったのだろう、濛々と白煙があたりに広がり視界を奪う。

「判断が……早い!」

 カタリナが歯がしみするほどの決断だった。呆れるほどあっさりと気配が遠ざかる。
 周辺の住人が何事かと窓を開けて顔を出すが、催涙の類でもあったのだろう。例外なく咳き込んで慌てて首を引っ込める者が続出した。

「用意もいい……これはしてやられたか?」

 いったん足を止め、カタリナがポケットからハンカチを取り出し口と鼻を守る。
 風向きも相手に味方したのか、刺激臭が微かにカタリナの鼻を刺した。

「…………(追うのは下策か、御姉様と合流するしかない)」

 見た光景を整理するに、カタリナの中では昼に会った弥生だろうと見当をつけていた。
 蜘蛛に乗る少女がそんなにポンポンいてはたまらないし、気がつけば北門の方から火の手が上がっていて見覚えのある義姉の姿と金髪の少女が城壁を超えていく。

「そういえば蜘蛛は……」

 風に流され白煙が散ると、丁度弥生達の居た辺りに蜘蛛の足と思われるものが数本落ちており本体はどこかに消えていた。
 そしてもう一つ、弥生の着けていたギルド証のピンバッジが夜空に浮かぶ突きを照り返して寂し気に光っている。

「失策でしたね……当てればよかった」

 カタリナはそれを拾い、一度拠点へ引き返す。
 携帯に便利なショットガンを引っ張り出して桜花と合流するためだ。しかし、カタリナが北門にたどり着き。火災の為封鎖されているのに舌打ちをした時。

 戦場で聴き慣れた爆発音が大気を揺らす。

 そう、すべては後手に回っていた。
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