上 下
144 / 255

本祭! 格闘大会!! ⑧ 何となくいい人?

しおりを挟む
「ここじゃなんだから……静かに話ができる所に案内してくれないかな? 先に言っとくけど、暴れるつもりは……あー、大会で真っ当には暴れるかぁ」

 飄々とした様子で桜花は弥生達に提案する。
 
「首に針を刺しといて良く言うぜ……真司、俺ごと魔法で吹っ飛ばせ」
「あのねぇ、もう痛いことしない? それなら抜くけど」

 いまだに桜花の右肩はズキズキと鈍痛を訴える、キズナに相当しっかりとねじりあげられたのだ。
 反対にキズナは折ってしまえば良かったと微妙に後悔していたりする。

「テロには屈するな、俺の家の家訓」
「ねえ、ちょっとそこの地味な子。この説得して頂戴よ……まるで狂戦士じゃない」
「姉ちゃん、出番」
「キズナおねーちゃん! かっこいい!!」」

 大変下品に中指を立てて抵抗しようとするキズナに困り果てながら、桜花は弥生に助けを求める。
 これではどっちが人質だかわかったものではない。

「あ、あはは……困ったなぁ。キズナ、ちょっと話が聞きたいからおとなしくしてもらえないかな? 多分ちょんぱの仲間じゃないよこの人」
「弥生の勘、当たるからなぁ……おい、爆乳眼鏡。ボスが言うから殺さねぇ、だけど妙な真似したらわかってるだろうな?」

 背中に当たる柔らかい弾力にキズナが一方的に悔しさをにじませながら、桜花に釘を刺す。

「しないしない、だってこの注射器の中身も単なるブドウ糖……点滴よ」
「なんか胡散臭いんだよ……姉貴と同じ匂いがするぜ」
「キズナ、それはエキドナさんがかわいそうだよ……」

 確かに不審者扱いされてはエキドナも落ち込むだろう、だが。キズナにはどうにも桜花が姉であるエキドナと同じ性質を持ってるような気がしてならない。
 
「エキドナおねーちゃん消毒液の匂いなんてしないよ?」
「文香、その匂いじゃねぇよ……ほら、離せよ」
「はいはい、よっと……動いていいわ。それと、文香ちゃんだっけ? 消毒液の匂いする? 気を付けてるんだけどなぁ」

 キズナが首筋の違和感を拭うように、掌でさすりながら桜花から離れる。
 
「文香は鼻が良いから……気にしなくても良いよ。キズナ姉、治すからこっち来て」

 真司が桜花にフォローを入れつつ、左手の中指に指輪を嵌めて杖を軽くこする。ジャッ!! と短い金切り音が響く、そうすると淡い光が真司の手を覆い、真司はそれをキズナの首に手を当てて魔法で癒した。じんわりとした温かさに心地よさを感じながらキズナの首から違和感が消える。

「ありがとな真司、手際良いなお前……」

 真司の頭を乱暴に撫でてキズナが笑う。

「牡丹姉とか文香が良く僕をばんそうこう扱いするもんで……」
「わかる気がする」
「納得しないでよ!?」

 そんな二人を見て、桜花が眉を顰める。
 
「聞きたい事が加速度的に増えたわね……さ、どこか静かな場所に案内して頂戴」

 逃げる気は無いから、と両手をひらひらさせて弥生達を促した。桜花にしてみても争う理由は無い、それにさっき弥生が言ったエキドナの名前からして彼女の関係者だという事もわかる。
 義妹のカタリナが不安だが……脱いだり、奴隷メイドとか言いだしたり、変態奴隷メイドとか言いださないかとか。まあ大丈夫だろう、と無理やり納得する……事にした。

 そうして弥生達は移動する。
 闘技場から出てすぐ近くの自警団の事務所をお借りするために……







「うんうん、石造りで頑丈そのもので良い作りだわ……って。なんで私を牢屋に入れるのよっ!?」

 鉄格子を両手で握りしめながら桜花が叫ぶ。
 
「ええと、一応不審者なので?」
「疑問符浮かべないでくれる!? どこからどう見ても真っ当な人間じゃない!! あんた達その目は節穴なの!?」
「おにいちゃん、これがノリ突っ込みなの?」
「そうそう、文香は真似しなくていいからね」

 反対にまったりと鉄格子の前に組み立て式の机と椅子を持ち込んで、今はキズナが飲み物を取りに行っているところであった。

「まさか本当に普通に牢屋に入ってもらえると思わなかったです……」

 はい、こちらが静かに話ができる所です。と案内したら桜花、素直に入る。
 これには弥生ですらも控えめに言ってドン引きした。

「ドン引きしないでくれる!? 地味って言ったのそんなに気にしてるの!?」
「どちらかと言うとその胸に大変嫉妬しています。あざとい、と」
「真顔で何言ってるのかしら!? おとなしい顔してやる事かぁぁ!?」

 ご丁寧にがっちゃん、とかんぬきまでかけて閉じ込めました。
 えっへん、となぜか得意気な弥生さんである。

「桜花おねえちゃん、悪い人なの?」
「今この状況下でその質問? 悪い人と言うか魔王、とは呼ばれているけど……こんな扱い始めて、でもない。気がする」
「姉ちゃん、キズナ姉に縛り上げるためのロープ借りてくるね」
「かわいい顔して大概だな!?」
「ジェノサイド君いないし、お願い真司」
「文香カメさん縛りできるよ!!」
「牡丹さん罪状追加、と。文香、それは忘れて良い事だからね」
「む・し・す・る・なぁぁぁ!?」

 もはや半泣きで桜花が絶叫する。
 
「え、だって……静かな所でゆっくり話ができて私たち安全な所ですよ?」
「だからって牢屋に案内する奴いるかぁ!?」
「素直に入った人も入った人だと僕は思う」
「ここならおにーちゃんが魔法で燃やせるもんね!」
「理不尽だぁぁ!!」

 何やってんだこの人たち、と当直の衛視さんがあきれ顔で見つめている。
 何せ統括ギルドのお偉いさんが牢屋お借りしますね~、と女性を閉じ込めてコントを始めているのだから。

「うるせぇなぁ……盗聴対策も兼ねてんだからおとなしく……弥生、鍵までかけたのか?」

 木のトレーに人数分の果実水を乗せてキズナが戻ってきた。
 一瞥して牢屋の閂がされていることに気が付いて、弥生に視線を送る。

「ええと、万が一、億分の一で悪い人だったら困るなぁって」
「良い判断だぜ、これで当てやすくなったな」

 当然、銃の的としてである。

「無実なのにぃぃぃ!!」
「真司、魔法で音が漏れないようにできるか?」
「……ちょっと難しい、音は振動だから空気を遮断すればいいのかな?」

 真司がポケットから別の指輪を出して、さっきと同じように杖にこすらせようとした。
 その時、叫び疲れた桜花がポツリとつぶやく。

「ここでの会話が外に漏れなきゃいいんでしょ? 私がやるわよ……」

 いじけたように鉄格子の前で体育座りをして提案する。

「できんのか?」

 こくん、と桜花が頷くと自分の膝を叩いてしゃべる。

EIMSエイムス、電波と音を漏らさないように障壁展開。範囲指定、半径5メートル……くらいで良いか。そこの兵隊さん、離れてて」

 ぶわっと桜花のスカートの中から金属の帯があふれ出てきた。
 何事かと弥生達が驚くが、その薄い帯は弥生達の周りをレースのカーテンのように揺らめきながら漂う。

「これで良いわ、この膜が外に出る私たちの声をノイズキャンセルの要領で外に出さないようにできるから、普通に話していいわよ。盗聴器も電波が通れないから気にしなくていい」
「どうなってんだこれ……こんなにすかすかで大丈夫か?」

 キズナが指でカーテンをつつくとふにゃふにゃと曲がる。

「じゃあそのカーテンから出てみて」

 桜花の指示でカーテンの外に出たキズナが首を傾げる。どう見てもこれで音を阻めるとは思えないのだが。

「文香ちゃん、大きい声であの金髪に何か言ってみて」
「うん、きずなおねーちゃん!! 熊さんパンツ今日干しっぱなしだからね!!」

 大声でキズナに声をかける文香だが、キズナがキョトンとしている。
 本当に聞こえてないようだ。

「キズナ!! ごめん! キズナのチャーハンにこっそりピーマンのみじん切り入れたの私!!」
「キズナ姉!! 全裸でお風呂から出てこないで!!」

 ついでとばかりに弥生と真司も叫んでみるが、やはり彼女には届かない。

「ほらね?」

 得意気に笑ってからキズナを手招きで迎い入れると、キズナが感心した様に声をかける。

「すげぇな……本当に聞こえねぇ」
「じゃあ、これでやっとまともな話ができるわね……熊さんパンツのキズナちゃん」
「…………弥生、真司、文香。後で聞きたい事がある」

 形上とはいえ牢屋に入れられた桜花のささやかな仕返しに、後ほど大変なことになりそうな弥生達であった。

「「「む、無実だよ!!」」」
「有罪だ阿呆」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ジャック&ミーナ ―魔法科学部研究科―

浅山いちる
ファンタジー
この作品は改稿版があります。こちらはサクサク進みますがそちらも見てもらえると嬉しいです!  大事なモノは、いつだって手の届くところにある。――人も、魔法も。  幼い頃憧れた、兵士を目指す少年ジャック。数年の時を経て、念願の兵士となるのだが、その初日「行ってほしい部署がある」と上官から告げられる。  なくなくその部署へと向かう彼だったが、そこで待っていたのは、昔、隣の家に住んでいた幼馴染だった。  ――モンスターから魔法を作るの。  悠久の時を経て再会した二人が、新たな魔法を生み出す冒険ファンタジーが今、幕を開ける!! ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「マグネット!」にも掲載しています。

適正異世界

sazakiri
ファンタジー
ある日教室に突然現れた謎の男 「今から君たちには異世界に行ってもらう」 そんなこと急に言われても… しかし良いこともあるらしい! その世界で「あること」をすると…… 「とりあいず帰る方法を探すか」 まぁそんな上手くいくとは思いませんけど

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる
ファンタジー
 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?  挿絵結構あります

半身転生

片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。 元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。 気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。 「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」 実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。 消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。 異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。 少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。 強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。 異世界は日本と比較して厳しい環境です。 日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。 主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。 つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。 最初の主人公は普通の青年です。 大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。 神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。 もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。 ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。 長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。 ただ必ず完結しますので安心してお読みください。 ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。 この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ
ファンタジー
 ここは魔法溢れる大国『グランアーク王国』。ここには、数々の魔導士や錬金術師、剣士などの戦いや研究、商売といった様々な分野に長けた人々が『ギルド』と呼ばれる集団に属して互いの生活圏を支え合っていた。中でも、ここ『グランメモリーズ』と呼ばれる魔導士専門ギルドは、うるさく、やかましいギルドで、そのくせ弱小と呼ばれているが、とっても明るくて楽しいギルド!!火を操り、喧嘩っ早い赤髪主人公カラーの『ヴァル』、氷で物を作り、イケメン顔のくせにナルシストな気質のある『ヴェルド』、火、水、風、然の4属性を操る頼れる最強剣士『フウロ』。その他にも、私『セリカ』が入団したこのギルドは、個性的な面子でいっぱいだ!私は、ここで私の『物語』を描いていく。 ※この作品は小説家になろう様と同時連載です。キャラ紹介などは向こうにて書いておりますので、気になる方は私の著者ページに飛んで、そこから外部サイトとして登録してあるグラストをお楽しみください。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...