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閑話:姉と妹と弟 後編
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「文香も行きたい~~~!!」
そら見たことか……文香を膝に乗せて真司がため息をつく。
もうしっかり住み慣れ始めた我が家のダイニングで文香は駄々をこねていた。
「どう頑張っても半年から一年は帰れないから、だめ」
満面の笑顔で弥生は文香の主張を却下した。
「文香、お父さんとお母さんを姉ちゃんが迎えに行くんだから……大人しくお留守番しよう? そのうちレンやエキドナ姉も帰ってくるし、夜音や糸子さんだっているよ? オル姉もミリーだっているだろ?」
何とか文香を思いとどまらせようと真司が必死でフォローを入れる。
真司だって本音を言えば弥生と一緒に両親を探したいが、そうすると文香を一人でこの街に残すことになってしまう。かといって連れて行こうにも魔物の影響力が弱いこの大陸から出た場合、文香を守り切れる保証もないのだ。
「お姉ちゃんもお兄ちゃんも一緒なの!!」
「だからぁ……無理なんだってば。姉ちゃんだけならジェノサイドとキズナ姉で守れるけど、僕らは手が回らないの」
「う~~~!!」
ぷっくらとほほを膨らませ、両手を振り回して文香は徹底的に不機嫌をあらわにする。
基本的に文香は聞き分けが良く姉と兄のお願いならば文句が無い。だがしかし、一個だけ頑として聞き入れない事があった。それが今回の様に長期間離れる場合だ。
「い~~~やぁぁ~~~!!」
まあ、こうなるだろうな。とは弥生も思っていた。
だからこそ晩御飯を早めに食べ、お風呂にも入った状態でこの話を切り出したのだ。明日も文香は学校とギルド祭の準備、友達と遊ぶなど充実した子供ライフが待っている。
ちょんぱの件で弥生は理解した。この世界、人は優しいが恐ろしいのも人だと言う事。殺人もかなり身近で、それが無くとも魔物の被害は少ないと言われつつも……弥生からしたらいつ自分の番になってもおかしくない。
「文香、おねえちゃん必ず4か月に1回はウェイランドに戻ってくるから。我慢してもらえないかな?」
「2か月に1回」
「う、3か月でどうだ」
ふてくされたまま指を2本突き立てる文香に譲歩案を提する姉。
文香とて解っていない訳ではない。授業でウェイランドの城壁外へ出る時には必ず騎士の護衛が付く。その騎士の中には傷だらけの盾や鎧を身に纏う者もいて、幼いとはいえ頭が良い文香にはそれが危険な魔物によるものだときちんと学んでいる。
それでも。
「にーかーげーつー!! ちゃんと帰ってこなかったらレンちゃんに頼んでお城のてっぺん吹き飛ばすもん!!」
大好きな姉と離れ離れは嫌なのである。
文香に両親の記憶は薄い、しかし。薄いながらに憶えているのは姉がちゃんと同じように彼女を大切にしていたから、そして両親が文香をどれだけ愛していたかちゃんと教えてくれていたから。
「勘弁してくれよ、僕に隔月で魔力を使い果たしかねない無茶苦茶結界貼れってか?」
変態の光事件以降、持ち前の地味さで目立つことは無いがとんでもない速度で魔法の才能を開花させている。現在の日下部家で最強の魔法使いが涙目でレンとじゃれ合う未来を妄想する。
当然勝てるわけがねぇよ? でも兄はやるだろう。
「真司、ごめんね……今の内に芸術ギルドに頼んで肖像画かいてもらおう? ね?」
「短い人生を確定させないでくれるかな姉ちゃん、僕はちゃんと老衰で死ぬと決めている」
「やっぱり白装束なのかな? 夜音ちゃんとかに作ってもらう?」
「聞いてるか? それとも芸術ギルドの知り合いに姉ちゃん寝てる所描いてもらおうか? 腹出しておしり掻いてる時に!!」
それ以前に2ヵ月では無理だと暗に跳ね除けた弥生の心中に文香も気づく。
譲歩の余地があれば弥生は真司を身代わりにしない、つまり文香の示した2か月はどうやっても不可能だという事だ。
「……誰と行くの?」
ふくれっ面のままだが、文香が弥生に確認する。
「キズナとジェノサイド一号君、二回目はキズナと戻ってきていればジェミニ」
どうやら機動性重視で動く、それは文香にもわかった。
「いつから行くの?」
「ギルド祭終わったらすぐに行くよ。雪が降る前にミルテアリアに行っておきたくて」
「だめ」
「へ?」
「あけましておめでとうは全員で! おねえちゃんが決めたんだよ?」
そういえばそんな事を決めた気がする。そうなるとギルド祭が終わって一月後だったはず、弥生も一旦考える。腕を組んで頭の中に描いたプランを慎重に再検討…………ぶっちゃけ雪が降ったらさらに延期だ。
「姉ちゃん、一旦練り直そうよ……真冬の行軍はいくらジェノサイドでも無理だって」
「ううーん。確かに……でも文香。絶対連れて行かないからね? 別の大陸にも行くんだから危ないの」
「………………わかった」
とりあえず時間を稼いだ。文香はこれから修羅になる。姉と兄に内緒で二ヵ月で強くならねばならない。足手まといにならない最短の手段と言えば……安直だが兄と同じ、魔法である。
「なるべく春先に船に乗っておきたかったんだけどなぁ」
最初から大陸を跨ぐつもりだった弥生は、海が荒れる前の春先に運航船に乗るために逆算したのだが……後々、この判断のおかげで命拾いすることになるのはまだ先のお話。
そら見たことか……文香を膝に乗せて真司がため息をつく。
もうしっかり住み慣れ始めた我が家のダイニングで文香は駄々をこねていた。
「どう頑張っても半年から一年は帰れないから、だめ」
満面の笑顔で弥生は文香の主張を却下した。
「文香、お父さんとお母さんを姉ちゃんが迎えに行くんだから……大人しくお留守番しよう? そのうちレンやエキドナ姉も帰ってくるし、夜音や糸子さんだっているよ? オル姉もミリーだっているだろ?」
何とか文香を思いとどまらせようと真司が必死でフォローを入れる。
真司だって本音を言えば弥生と一緒に両親を探したいが、そうすると文香を一人でこの街に残すことになってしまう。かといって連れて行こうにも魔物の影響力が弱いこの大陸から出た場合、文香を守り切れる保証もないのだ。
「お姉ちゃんもお兄ちゃんも一緒なの!!」
「だからぁ……無理なんだってば。姉ちゃんだけならジェノサイドとキズナ姉で守れるけど、僕らは手が回らないの」
「う~~~!!」
ぷっくらとほほを膨らませ、両手を振り回して文香は徹底的に不機嫌をあらわにする。
基本的に文香は聞き分けが良く姉と兄のお願いならば文句が無い。だがしかし、一個だけ頑として聞き入れない事があった。それが今回の様に長期間離れる場合だ。
「い~~~やぁぁ~~~!!」
まあ、こうなるだろうな。とは弥生も思っていた。
だからこそ晩御飯を早めに食べ、お風呂にも入った状態でこの話を切り出したのだ。明日も文香は学校とギルド祭の準備、友達と遊ぶなど充実した子供ライフが待っている。
ちょんぱの件で弥生は理解した。この世界、人は優しいが恐ろしいのも人だと言う事。殺人もかなり身近で、それが無くとも魔物の被害は少ないと言われつつも……弥生からしたらいつ自分の番になってもおかしくない。
「文香、おねえちゃん必ず4か月に1回はウェイランドに戻ってくるから。我慢してもらえないかな?」
「2か月に1回」
「う、3か月でどうだ」
ふてくされたまま指を2本突き立てる文香に譲歩案を提する姉。
文香とて解っていない訳ではない。授業でウェイランドの城壁外へ出る時には必ず騎士の護衛が付く。その騎士の中には傷だらけの盾や鎧を身に纏う者もいて、幼いとはいえ頭が良い文香にはそれが危険な魔物によるものだときちんと学んでいる。
それでも。
「にーかーげーつー!! ちゃんと帰ってこなかったらレンちゃんに頼んでお城のてっぺん吹き飛ばすもん!!」
大好きな姉と離れ離れは嫌なのである。
文香に両親の記憶は薄い、しかし。薄いながらに憶えているのは姉がちゃんと同じように彼女を大切にしていたから、そして両親が文香をどれだけ愛していたかちゃんと教えてくれていたから。
「勘弁してくれよ、僕に隔月で魔力を使い果たしかねない無茶苦茶結界貼れってか?」
変態の光事件以降、持ち前の地味さで目立つことは無いがとんでもない速度で魔法の才能を開花させている。現在の日下部家で最強の魔法使いが涙目でレンとじゃれ合う未来を妄想する。
当然勝てるわけがねぇよ? でも兄はやるだろう。
「真司、ごめんね……今の内に芸術ギルドに頼んで肖像画かいてもらおう? ね?」
「短い人生を確定させないでくれるかな姉ちゃん、僕はちゃんと老衰で死ぬと決めている」
「やっぱり白装束なのかな? 夜音ちゃんとかに作ってもらう?」
「聞いてるか? それとも芸術ギルドの知り合いに姉ちゃん寝てる所描いてもらおうか? 腹出しておしり掻いてる時に!!」
それ以前に2ヵ月では無理だと暗に跳ね除けた弥生の心中に文香も気づく。
譲歩の余地があれば弥生は真司を身代わりにしない、つまり文香の示した2か月はどうやっても不可能だという事だ。
「……誰と行くの?」
ふくれっ面のままだが、文香が弥生に確認する。
「キズナとジェノサイド一号君、二回目はキズナと戻ってきていればジェミニ」
どうやら機動性重視で動く、それは文香にもわかった。
「いつから行くの?」
「ギルド祭終わったらすぐに行くよ。雪が降る前にミルテアリアに行っておきたくて」
「だめ」
「へ?」
「あけましておめでとうは全員で! おねえちゃんが決めたんだよ?」
そういえばそんな事を決めた気がする。そうなるとギルド祭が終わって一月後だったはず、弥生も一旦考える。腕を組んで頭の中に描いたプランを慎重に再検討…………ぶっちゃけ雪が降ったらさらに延期だ。
「姉ちゃん、一旦練り直そうよ……真冬の行軍はいくらジェノサイドでも無理だって」
「ううーん。確かに……でも文香。絶対連れて行かないからね? 別の大陸にも行くんだから危ないの」
「………………わかった」
とりあえず時間を稼いだ。文香はこれから修羅になる。姉と兄に内緒で二ヵ月で強くならねばならない。足手まといにならない最短の手段と言えば……安直だが兄と同じ、魔法である。
「なるべく春先に船に乗っておきたかったんだけどなぁ」
最初から大陸を跨ぐつもりだった弥生は、海が荒れる前の春先に運航船に乗るために逆算したのだが……後々、この判断のおかげで命拾いすることになるのはまだ先のお話。
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