上 下
109 / 255

ギルド祭の準備をしよう! ③

しおりを挟む
「さて、と……オルちゃんは頭を冷やしてもらう事にして、まずはギルド祭について詳しく教えてもらえますか?」

 オルトリンデの説明と進行では統括ギルドが何をするのかしかわからなかった。ちなみにウェイランドではギルド祭と言えばこれから社会に出て活躍する若人へのPRを兼ねているので、それぞれのギルドが趣向を凝らした上でわかりやすい出し物と言ったかなりの難易度を求められる。
 そうは言いつつも、長年各ギルドでは毎年やる事のベースが出来上がっていて……毎年苦労しているのは統括ギルドだった。

「では……ここ数年の各ギルドの出し物のリストと定例イベントの概要を」

 ここ数年段々頭の頭頂部が寂しくなってきたのが悩みのベテラン書記官さんが丁寧にまとめてきた資料を弥生に手渡す。
 その内容は綺麗に整理されており、弥生としても頭に入れやすかった。時たま補足のためにその時に起きたトラブルと翌年の解決についても書かれている。

「みんなすごいですね……運営大変だったんじゃないですか?」

 これだけの量の情報があるという事は、それに比例して統括ギルドが各ギルドの出し物についてきちんと把握しているという事実を示していた。

「まあ、実はオルトリンデ管理官殿に楽しんでいただくために毎年運営にはかなり力を入れていたのです」
「……もしかして自分たちが頑張ればオルちゃんが暇になって遊んでくれると?」
「ええ、ものすごくわかりやすい動機です。この統括ギルドは彼女が身を粉にしてここまで作り上げた組織ですから……年に一日くらい、監理官としてではなくこのウェイランドの一国民として楽しんでもらいたい。三十年前に当時からの職員で考えた彼女への贈り物です」

 当時、オルトリンデは管理官になりたてで毎日忙しくすごしていた。同僚であった彼も彼女を支えようと必死で頑張ったが彼女の努力にみんなが追いつけなくなった。それ位、鬼気迫る彼女の気概が凄まじく。どうにもならない時間が長かった。

「なるほど、じゃあ……私も本気でやりますよ。最高のギルド祭にするために」

 弥生が手にしている資料、それが彼らの本気度の証だ。弥生には手に取るようにわかる、彼らが一つ一つの出し物についてどれだけ真摯に向き合って、より良いものにしようとしたのかを。

「弥生秘書官、君が統括ギルドに来た。今このタイミングしかないと私たちは期待しているんだ……」
「えへへ……ありがとうございます。何のとりえもない私だけど……頑張ります」
「は? 何言ってるんだ?」

 とてもとても綺麗なやり取りで締められると思ったら大間違いだった。柔らかい弥生の笑顔が石膏で固められたかのように固定される。

「飛竜と前代未聞の大蜘蛛を足代わりにして他国をまたにかけるオルトリンデ監理官の頭痛の種が……何のとりえもない?」
「この間コスト配達員を移動手段代わりにもしていたな」
「建築ギルドが冒険者ギルドのロビー直した回数、今月は何回だ?」
「王城の夜間メイドが秘書官室で気絶してたな」
「こっそり一級秘書官の採決書類、暇だからって勝手にやっていたな……」

 出てくる出てくる弥生さんのやらかし履歴、あれ? 能力を買われて白羽の矢がたった訳じゃないのだろうか?
 口々に書記官達から出てくるのはここ数年どころか過去例がない弥生の書記官、秘書官としての行動の数々だった。あまりにも多いため最終的には全員が肩を並べてため息をつく始末。

「え!? ちょっとみんな!? 私頑張ってるじゃない!?」
「頑張っている、そこは間違いない」
「じゃあなんで!?」
「自分の胸に聞いてみればいいんじゃないか!? ペタン子だが!!」
「その薄毛むしり取っていいですか!?」 
「よかろう、ならば戦争だ」

 お互いの譲れない部分を見事に踏み抜いて臨戦態勢をとる弥生とベテランさん。
 そんな二人を生暖かーく見守る同僚たち。

 ――なんだかんだと仲いいんだよな、あの二人。

 もちろん、最初から弥生とこの書記官が仲が良かったわけではない。
 衝突も繰り返し、それでもお互い相手の実力を認めるに至ったがゆえにこうなったのだ。

「ミルシェちゃんの相談、もう乗ってあげなくても良いですね?」
「すみませんでした!?」
 
 流石秘書官だぜ……と、戦慄するベテランさんの最も柔らかい場所を弥生は鋭角に抉る。愛娘の事を引き合いに出され、ベテランさんが速攻で敗北した。しかもその愛娘、ミシェルちゃんの誕生日では弥生のアドバイスとフォローのおかげで最高の結果に落ち着いたばかり……彼に勝てる要素はなかった。
 
「つーか……早く決めようぜ? 結局何にも決まってねぇんだし」

 その通り、キズナの言う通り実は何も決まっていない。

「んー…………何をやりたいかは決まってるんだよね」
「言ってみろよ、手伝えることくらいは手伝えるぜ?」
「ほんと?」
「ああ、パパが前に言ってたんだ。友達は大事にしろって、そんでたまには思いっきり羽目を外すぐらいの事をやってもいいんだって……だから裏方位は」
「じゃあキズナ、〇んで(はーと)」
「……え?」

 いくら何でも聞き間違いだろうとキズナが恐る恐る振り返ると……いつも通りのニコニコ笑顔前回の弥生が居た。

「撲殺と焼死と溺死と……後は何だっけ。轢死?」
「撲殺は殺害方法だと思う」
「むう、おすすめは凍死だよ! キズナ」
「それはお前の死因だぁぁぁぁぁ!?」

 一体何をやるつもりなんだか……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

処理中です...