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世界のルールを舐めちゃいけない ⑤
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「娘さんがお尋ね者……レティ、なんてことなの」
「レティシアさん、つらいだろうが……」
お通夜みたいな夜ノ華と幸太郎をジト目でレティシアが睨む。
一晩、バニからの情報を寝かせてレティシアは再度考えた。なんで娘がお尋ね者になっているのかを……。
「安心してくださいまし、多分わざとですわ……あの子らしいと言えばあの子らしいやり方ですから」
「わざと? まさか娘さんもレティみたいにおおざっぱとか?」
「夜ノ華、後でデコピンしますわよ? あの子は私と違ってなんでも器用ですわ……運動以外」
「……てっきりレンガ塀を壊して遊んでたりとかを想像してたので、意外ですね」
「幸太郎様、良い葬儀屋をお探しですか?」
「ちょっと! レティ、私が未亡人になるわよ!?」
もちろん、夜ノ華と幸太郎もアリスが……レティシアの娘が本当に悪い事をしてお尋ね者になったとは思っていない。しかし、レティシアが落ち込んでいたらといじってみたのだが……杞憂だったようでこめかみに血管を浮かせつつもレティシアの表情は笑っていた。
毎晩毎晩、家族が無事でありますように。と祈っていたのを知ってる夜ノ華としては我が事と同じに喜ばしい事。
「こっちはすでになってるかもしれませんのよ!? ああ、アルフォンス……きっとどうでもいい事に巻き込まれて悲惨な目にあってるんですわ」
「酷い言い草ですね……旦那さん可哀そうに」
「あの人、人が良い代わりに極度の不運体質で……」
「レティと結婚して運使い果たしたんじゃない?」
「屋敷の使用人、全員おんなじことを言いましたわっ!」
「不憫としか言えない!?」
幸太郎がまだ会ったこともないアルフォンスに同情の念を禁じ得ない……まあ、同時に屋敷の全員から愛されているともいえるのだが。
「でも、レティと結婚したんでしょ? 確か強いのよね?」
同じ部屋で寝るときにおしゃべりが弾むこともあり、ある程度アルフォンスの事について聞いた事がある夜ノ華がレティシアに確認する。ぶっちゃけレティシアが人外と言うか規格外すぎるのでアルフォンスの事もまともな強さだとは思ってない。
「騎士団であの人だけですわ。私の渾身の一撃を耐えたのは……」
「きっと筋肉隆々の大男に一票」
「お城の城壁並みの分厚い鎧を着ていたに一票」
「ふふ……まさか、幸太郎よりちょっと背が高くてひょろっとした人ですわ。気が弱くてお人よしで、領地経営にはそぐわなくて、農夫の皆さんと土いじりをする方が楽しいっていつも館を抜け出す困った夫ですわよ」
意外にもレティシアから出てくる夫の惚気は幸太郎たちの想像とは真逆のイメージ。
岩を簡単に木っ端みじんにするレティシアの本気の一撃をどうやって耐えたのか不思議でしかない。
「とにかく、私なんかより娘の方が活発に動いているはずですわ。各地の町で聞き込みをする位の時間はありますの?」
「それはもちろん、レティの子供さんとの合流も最優先だもの。バニちゃんの出産とかいろいろあるけど一つ一つしっかりとやっていきましょ」
「そうだな、ところで……そのバニちゃんはどこに?」
自分たちも子供を探しているだけに、レティシアの子供が逞しく生きているという朗報は素直に嬉しい。旅をしていればどこかで手掛かりがつかめるであろうが、少なくともバニの出産やウェイランドにたどり着けば一度方針を見直してもいい。
ここ数日ですっかり全員と仲良くなったバニが今日は朝ごはん以降見当たらなかった。
いつもであればレティシアか夜ノ華と何かしら簡単な作業をしているのだが……。
「なんか部屋に忘れ物だとか……あ、きた」
工房の居住空間はレティシア達がいる居間を中心に、廊下が4方向に延びており部屋から出ればすぐにそれは分かる。お腹が大きいバニはゆっくりと部屋のドアを閉めて、夜ノ華たちを見つけると少し早足で歩いてくる。その手には何か光る物が握られており、嬉しそうに笑いかけてきた。
「バニちゃん、忘れもの見つけた?」
「ミツケタ、アリスノクレタ……イッ!?」
妊婦と言うのは想像以上に注意が必要だ。普段の体形が急激に変わっていき今まで出来ていたことが難しくなる。主に歩く事とか……バニは注意していたがそれでもバランスを崩してしまった。
「あぶなっ!!」
幸太郎とレティシアがとっさに椅子から腰を浮かすが間に合わない。
バニが倒れていき、その手に持っていた青い石が夜ノ華の方へ飛んでいくのがゆっくりと流れていく。
――ガチャ
「おっと」
偶然、由利崎灰斗が妖刀と言うか魔刀に改造された刀をボルドックに作ってもらっていたのだが、さすがにのどが渇いてきたので水を飲もうと現れた。
そもそも身体能力はともかく人一人を支える位は灰斗にとって造作もない。
すっ、とバニの脇から腕を差し入れてそっと体制を整える。
「危ないですよ?」
「カイト、アリガト」
――――ごっくん!
「お?」
「あら?」
何事も起きなかったバニに安堵した幸太郎とレティシアの耳に、何かを飲み込む音が届いた。
そういえば、バニは何かを放り投げている。そしてその石は真正面に居た夜ノ華の方へ飛んで行ったはずである。
ゆっくりと二人は夜ノ華の方を見ると、手を伸ばして駆け寄る姿勢のまま固まる彼女が青ざめながら振り返ってきたところだった。
「の……」
「の?」
「のん、じゃった……」
バニの転倒しそうな状況に、ついつい大きな声がでて……それが助かった状況に安堵して、飛び込んで来た石には注意が回らなくなってしまった。幸い、石は小粒で滑らかだったので喉に引っかかることなくお腹の中に入ってしまう。
「アリスノイシ、ヤノカ、ノンジャッタ」
「レティシアさん、つらいだろうが……」
お通夜みたいな夜ノ華と幸太郎をジト目でレティシアが睨む。
一晩、バニからの情報を寝かせてレティシアは再度考えた。なんで娘がお尋ね者になっているのかを……。
「安心してくださいまし、多分わざとですわ……あの子らしいと言えばあの子らしいやり方ですから」
「わざと? まさか娘さんもレティみたいにおおざっぱとか?」
「夜ノ華、後でデコピンしますわよ? あの子は私と違ってなんでも器用ですわ……運動以外」
「……てっきりレンガ塀を壊して遊んでたりとかを想像してたので、意外ですね」
「幸太郎様、良い葬儀屋をお探しですか?」
「ちょっと! レティ、私が未亡人になるわよ!?」
もちろん、夜ノ華と幸太郎もアリスが……レティシアの娘が本当に悪い事をしてお尋ね者になったとは思っていない。しかし、レティシアが落ち込んでいたらといじってみたのだが……杞憂だったようでこめかみに血管を浮かせつつもレティシアの表情は笑っていた。
毎晩毎晩、家族が無事でありますように。と祈っていたのを知ってる夜ノ華としては我が事と同じに喜ばしい事。
「こっちはすでになってるかもしれませんのよ!? ああ、アルフォンス……きっとどうでもいい事に巻き込まれて悲惨な目にあってるんですわ」
「酷い言い草ですね……旦那さん可哀そうに」
「あの人、人が良い代わりに極度の不運体質で……」
「レティと結婚して運使い果たしたんじゃない?」
「屋敷の使用人、全員おんなじことを言いましたわっ!」
「不憫としか言えない!?」
幸太郎がまだ会ったこともないアルフォンスに同情の念を禁じ得ない……まあ、同時に屋敷の全員から愛されているともいえるのだが。
「でも、レティと結婚したんでしょ? 確か強いのよね?」
同じ部屋で寝るときにおしゃべりが弾むこともあり、ある程度アルフォンスの事について聞いた事がある夜ノ華がレティシアに確認する。ぶっちゃけレティシアが人外と言うか規格外すぎるのでアルフォンスの事もまともな強さだとは思ってない。
「騎士団であの人だけですわ。私の渾身の一撃を耐えたのは……」
「きっと筋肉隆々の大男に一票」
「お城の城壁並みの分厚い鎧を着ていたに一票」
「ふふ……まさか、幸太郎よりちょっと背が高くてひょろっとした人ですわ。気が弱くてお人よしで、領地経営にはそぐわなくて、農夫の皆さんと土いじりをする方が楽しいっていつも館を抜け出す困った夫ですわよ」
意外にもレティシアから出てくる夫の惚気は幸太郎たちの想像とは真逆のイメージ。
岩を簡単に木っ端みじんにするレティシアの本気の一撃をどうやって耐えたのか不思議でしかない。
「とにかく、私なんかより娘の方が活発に動いているはずですわ。各地の町で聞き込みをする位の時間はありますの?」
「それはもちろん、レティの子供さんとの合流も最優先だもの。バニちゃんの出産とかいろいろあるけど一つ一つしっかりとやっていきましょ」
「そうだな、ところで……そのバニちゃんはどこに?」
自分たちも子供を探しているだけに、レティシアの子供が逞しく生きているという朗報は素直に嬉しい。旅をしていればどこかで手掛かりがつかめるであろうが、少なくともバニの出産やウェイランドにたどり着けば一度方針を見直してもいい。
ここ数日ですっかり全員と仲良くなったバニが今日は朝ごはん以降見当たらなかった。
いつもであればレティシアか夜ノ華と何かしら簡単な作業をしているのだが……。
「なんか部屋に忘れ物だとか……あ、きた」
工房の居住空間はレティシア達がいる居間を中心に、廊下が4方向に延びており部屋から出ればすぐにそれは分かる。お腹が大きいバニはゆっくりと部屋のドアを閉めて、夜ノ華たちを見つけると少し早足で歩いてくる。その手には何か光る物が握られており、嬉しそうに笑いかけてきた。
「バニちゃん、忘れもの見つけた?」
「ミツケタ、アリスノクレタ……イッ!?」
妊婦と言うのは想像以上に注意が必要だ。普段の体形が急激に変わっていき今まで出来ていたことが難しくなる。主に歩く事とか……バニは注意していたがそれでもバランスを崩してしまった。
「あぶなっ!!」
幸太郎とレティシアがとっさに椅子から腰を浮かすが間に合わない。
バニが倒れていき、その手に持っていた青い石が夜ノ華の方へ飛んでいくのがゆっくりと流れていく。
――ガチャ
「おっと」
偶然、由利崎灰斗が妖刀と言うか魔刀に改造された刀をボルドックに作ってもらっていたのだが、さすがにのどが渇いてきたので水を飲もうと現れた。
そもそも身体能力はともかく人一人を支える位は灰斗にとって造作もない。
すっ、とバニの脇から腕を差し入れてそっと体制を整える。
「危ないですよ?」
「カイト、アリガト」
――――ごっくん!
「お?」
「あら?」
何事も起きなかったバニに安堵した幸太郎とレティシアの耳に、何かを飲み込む音が届いた。
そういえば、バニは何かを放り投げている。そしてその石は真正面に居た夜ノ華の方へ飛んで行ったはずである。
ゆっくりと二人は夜ノ華の方を見ると、手を伸ばして駆け寄る姿勢のまま固まる彼女が青ざめながら振り返ってきたところだった。
「の……」
「の?」
「のん、じゃった……」
バニの転倒しそうな状況に、ついつい大きな声がでて……それが助かった状況に安堵して、飛び込んで来た石には注意が回らなくなってしまった。幸い、石は小粒で滑らかだったので喉に引っかかることなくお腹の中に入ってしまう。
「アリスノイシ、ヤノカ、ノンジャッタ」
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