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「言ったじゃない。会えるって」
真っ暗な闇の中、弥生に呆れたような声をかける誰か。しかし、弥生は今日この声の主が誰なのかを最初から分かっていた。
「びっくりしちゃって……思い出した。本当にこの夢の事は起きると忘れちゃうんだ……」
「多分……真司と文香はまだ思い出せないかなぁ? 弥生は今回から思い出せると思う」
「ここ、どうなってるの?」
「さあ、仕組みはわからないけど使えるものは使う。我が家の家訓でしょ?」
実際に以前の夢の中で出会った時よりもお互いはっきりとしたやり取りができている。
絞りだして必要最低限だけのやり取りを強いられていた時よりはずっとスムーズだ。
「お母さんらしいね……お父さんは?」
「一緒にいるから大丈夫、貴方達が居ない以外はいつも通りだから安心して」
「どこにいるの?」
「それが……実はわかんないのよね。流されちゃって」
「…………もしかしてピンチ?」
「え? 言われてみたらピンチなのかしら。まあレティシアちゃんも居るし何とかなるかなぁ」
「本当に大丈夫なのかなぁ?」
「大丈夫大丈夫。私の方でも覚えていられないから何とか見つけて、今絶賛迷子探し中なのよ……あなた達を探したいけどまだ起きている私が覚えてないだろうからふらふらしてると思う」
「お母さんたちも? まって! そっちにはだれが居るの!!」
うっすらと明るくなりつつある闇はこの夢の終わりの合図。
少しでも手掛かりをと同行者の名前を母に問う弥生。
「レティシア!! レティシア・マイスター!! 後……由利崎灰斗さん!!」
「……どっちもこっちの関係者じゃなさそう!! 誰と動いてるのお母さんってば!!」
「だってほっとけなかったんだもん!! 方向音痴同士すぎて二日で元居た場所に戻ってきちゃうんだもん!!」
「…………まあいいや、こっちから探すからよろしくね!!」
段々と遠くなり、大声を上げなければ聴き取れなくなるお互いの声。
しかし、今までと違うのは弥生にある安堵の思い。
「ふう、とりあえず……起きたらいろいろやらなきゃ」
あの様子だとちょんぱがらみの事は母は知らないと確信した弥生は胸をなでおろす。
「今度はお母さんも覚えてると良いんだけど……お父さんなんで来れないんだろう?」
父の声も聴きたいなと思いつつ、慣れてきた浮遊感と共に覚醒へと向かう。
――今度こそ、見つけるんだ。
「ん? なんか聞こえた?」
あと少しで起きるという直前、弥生の耳に飛び込んだ言葉は……の声だった。
◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇
「弥生!! 弥生!! 聞こえますか!! 大丈夫ですか!?」
そんな弥生の目覚めは最悪だった。
長い間心配性の上司に揺さぶられていたのか滅茶滅茶気持ち悪い。
「ぐえ、うぷっ!! 死ぬ……きらきらする。オルちゃん、やめ、て」
今にもさっき飲んだ紅茶がぴゅるっと出そうだ。
「オルリン、起きた起きた。弥生起きたから揺らすの止めてあげないと乙女の尊厳的に終わっちゃうから」
「だってこんなにも顔色がアルベルトで!!」
「それを言うなら青色だから、え、なに。アルベルトまだ事務処理苦手なの?」
「いや、ほんと……も、だめ」
「そろそろ暗幕か何かで隠してあげた方が良いのではないかな?」
ライゼンにはどの言葉をきっかけにしたのかわからない。
しかし自分が原因で弥生の意識が失われたと考えていたので、控えめに暗幕を提案してはいたが明らかにほっとした様子を見せた。
「大丈夫ですか!? 気分はどうですか? めまいは? 頭痛は痛くありませんか?」
「だいじょばない、オルちゃんのおかげで……」
「「だよね」」
うぷ、とか。おえぇぇ……と呻きつつ、弥生は何とかオルトリンデから解放されライゼンとフィヨルギュンが回復魔法をダブルでかけている。とは言え揺さぶられて気分を悪くしただけなので弥生の顔色はすぐに良くなり、ライゼンの部下の方から弥生は水を貰うと大分場も落ち着いた。
「す、すみませんでした弥生。いきなり倒れたので取り乱しました……」
しゅん、とした様子で椅子に座りなおしたオルトリンデが顔を真っ赤にしながら謝罪の言葉を口にする。どうやら恥ずかしかったのだろうとその場の全員が分かっているのであえて突っ込まない。
「一体何が悪かったのだろうか? 弥生書記官、何か気に障るようなことを言ってしまったかな?」
「そんな、ライゼン首相が悪い事なんて何にもないです。びっくりしちゃって……」
「何に驚いたのだ?」
「ええと、実は……ライゼン首相の話したヤノカとコウって……私の、私たちの兄弟の両親の名前だったので……」
「…………弥生、それは亡くなったはずの。ライゼン、その二人の特徴は?」
「一人は白色の長い髪で珍しい爪付きの手甲を使う巨乳の女性、もう一人は黒髪の弓を使う長身の男性で二人とも人族だ……そういえば年齢を聞いていなかったが弥生ほどの年齢の娘が居るとかは知らなかった」
「……それ、お父さんとお母さんじゃない!!」
「「「…………えええぇぇ」」」
まさかの弥生の反応にオルトリンデ、ライゼン、フィヨルギュンの幼馴染トリオはそろって落胆の声を上げるのだった。
真っ暗な闇の中、弥生に呆れたような声をかける誰か。しかし、弥生は今日この声の主が誰なのかを最初から分かっていた。
「びっくりしちゃって……思い出した。本当にこの夢の事は起きると忘れちゃうんだ……」
「多分……真司と文香はまだ思い出せないかなぁ? 弥生は今回から思い出せると思う」
「ここ、どうなってるの?」
「さあ、仕組みはわからないけど使えるものは使う。我が家の家訓でしょ?」
実際に以前の夢の中で出会った時よりもお互いはっきりとしたやり取りができている。
絞りだして必要最低限だけのやり取りを強いられていた時よりはずっとスムーズだ。
「お母さんらしいね……お父さんは?」
「一緒にいるから大丈夫、貴方達が居ない以外はいつも通りだから安心して」
「どこにいるの?」
「それが……実はわかんないのよね。流されちゃって」
「…………もしかしてピンチ?」
「え? 言われてみたらピンチなのかしら。まあレティシアちゃんも居るし何とかなるかなぁ」
「本当に大丈夫なのかなぁ?」
「大丈夫大丈夫。私の方でも覚えていられないから何とか見つけて、今絶賛迷子探し中なのよ……あなた達を探したいけどまだ起きている私が覚えてないだろうからふらふらしてると思う」
「お母さんたちも? まって! そっちにはだれが居るの!!」
うっすらと明るくなりつつある闇はこの夢の終わりの合図。
少しでも手掛かりをと同行者の名前を母に問う弥生。
「レティシア!! レティシア・マイスター!! 後……由利崎灰斗さん!!」
「……どっちもこっちの関係者じゃなさそう!! 誰と動いてるのお母さんってば!!」
「だってほっとけなかったんだもん!! 方向音痴同士すぎて二日で元居た場所に戻ってきちゃうんだもん!!」
「…………まあいいや、こっちから探すからよろしくね!!」
段々と遠くなり、大声を上げなければ聴き取れなくなるお互いの声。
しかし、今までと違うのは弥生にある安堵の思い。
「ふう、とりあえず……起きたらいろいろやらなきゃ」
あの様子だとちょんぱがらみの事は母は知らないと確信した弥生は胸をなでおろす。
「今度はお母さんも覚えてると良いんだけど……お父さんなんで来れないんだろう?」
父の声も聴きたいなと思いつつ、慣れてきた浮遊感と共に覚醒へと向かう。
――今度こそ、見つけるんだ。
「ん? なんか聞こえた?」
あと少しで起きるという直前、弥生の耳に飛び込んだ言葉は……の声だった。
◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇
「弥生!! 弥生!! 聞こえますか!! 大丈夫ですか!?」
そんな弥生の目覚めは最悪だった。
長い間心配性の上司に揺さぶられていたのか滅茶滅茶気持ち悪い。
「ぐえ、うぷっ!! 死ぬ……きらきらする。オルちゃん、やめ、て」
今にもさっき飲んだ紅茶がぴゅるっと出そうだ。
「オルリン、起きた起きた。弥生起きたから揺らすの止めてあげないと乙女の尊厳的に終わっちゃうから」
「だってこんなにも顔色がアルベルトで!!」
「それを言うなら青色だから、え、なに。アルベルトまだ事務処理苦手なの?」
「いや、ほんと……も、だめ」
「そろそろ暗幕か何かで隠してあげた方が良いのではないかな?」
ライゼンにはどの言葉をきっかけにしたのかわからない。
しかし自分が原因で弥生の意識が失われたと考えていたので、控えめに暗幕を提案してはいたが明らかにほっとした様子を見せた。
「大丈夫ですか!? 気分はどうですか? めまいは? 頭痛は痛くありませんか?」
「だいじょばない、オルちゃんのおかげで……」
「「だよね」」
うぷ、とか。おえぇぇ……と呻きつつ、弥生は何とかオルトリンデから解放されライゼンとフィヨルギュンが回復魔法をダブルでかけている。とは言え揺さぶられて気分を悪くしただけなので弥生の顔色はすぐに良くなり、ライゼンの部下の方から弥生は水を貰うと大分場も落ち着いた。
「す、すみませんでした弥生。いきなり倒れたので取り乱しました……」
しゅん、とした様子で椅子に座りなおしたオルトリンデが顔を真っ赤にしながら謝罪の言葉を口にする。どうやら恥ずかしかったのだろうとその場の全員が分かっているのであえて突っ込まない。
「一体何が悪かったのだろうか? 弥生書記官、何か気に障るようなことを言ってしまったかな?」
「そんな、ライゼン首相が悪い事なんて何にもないです。びっくりしちゃって……」
「何に驚いたのだ?」
「ええと、実は……ライゼン首相の話したヤノカとコウって……私の、私たちの兄弟の両親の名前だったので……」
「…………弥生、それは亡くなったはずの。ライゼン、その二人の特徴は?」
「一人は白色の長い髪で珍しい爪付きの手甲を使う巨乳の女性、もう一人は黒髪の弓を使う長身の男性で二人とも人族だ……そういえば年齢を聞いていなかったが弥生ほどの年齢の娘が居るとかは知らなかった」
「……それ、お父さんとお母さんじゃない!!」
「「「…………えええぇぇ」」」
まさかの弥生の反応にオルトリンデ、ライゼン、フィヨルギュンの幼馴染トリオはそろって落胆の声を上げるのだった。
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