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三国緊急会議 ①

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「さて、と……弥生。今晩時間はありますか?」

 書類の山を綺麗に仕分けてオルトリンデは弥生に声をかける。
 秘書官である弥生が戻ってきてからの仕事の効率は段違いで良くて、ベルトリア共和国の事件の事後処理を含めたとしてもあっという間だった。

「大丈夫だよ~、文香と真司も一緒でいい?」
「構いません、晩御飯を食べながら今後の相談をしたいだけです」

 とんとん、と弥生も押印した書類を机の上で整える。
 ……ちなみに半分は弥生の始末書だった。そんな弥生を頬杖をついてオルトリンデは眺める、不可抗力とは言え他国の行政機関を丸ごと更地にしたのだ。

「面倒くさい事になりましたからねぇ……」

 ここ数十年、復興に続く緩やかな発展をお互い支援し続けてきたウェイランド、ミルテアリア、ベルトリアの三国で起きた女装変態メタルメイドゾンビちょんぱ事件。もとい『死霊術師事件』。

「また来たら今度こそ消滅させるよ」
「頼もしいですけど、もうちょっとスマートにやりましょう。お願いですから国王が吐血する前に自重を覚えてください」
「ちっ、あそこでおとなしく塵になってくれてれば」
「キズナですね!? キズナの影響ですよね!? 数か月前の純粋なあなたはどこに!?」
「戦わなければ生きていけないんだよ? オルちゃん」

 頭が良い戦闘狂って一番駄目じゃないかなぁ。とオルトリンデさんは頭を抱える。
 しかし、当初は憑りつかれたように仕事に没頭し寝食を忘れがちだった弥生が夜音やエキドナ、キズナという同年代の友人を得て少し変わった気がした。

「ならせめて文香に50メートル走で引き分けるくらいの事はしてくださいね? 先日のエキドナみたくレンを足代わりにしたりジェミニでのんびり遊覧飛行とか……周りがびっくりするのでちゃんと申請出してください」
「レンちゃんを足代わりにしてないよ!? それ文香だよオルちゃん!!」
「保護者でしょ貴女は……まあ、レンやジェミニもたまには空を飛びたいでしょうしとやかく言いませんが……何回冒険者ギルドのロビー直せばいいんでしょうね私は……はは」

 最近良く真新しくなる冒険者ギルドの待合室やロビーはおおむね建築ギルドの新人が練習代わりに直してくれているが……世の中金である。お金が無いと材料が買えないのでこれ以上は勘弁してほしい。

「もういっそ冒険者ギルドの訓練所だけ別棟にして新設したらいいのに」
「……へ?」
「え、だって同じ建物だから……あの人たちがいるんだよね?」
「………………そう言われてみれば、いやしかし。あの貴族はこちらの予想を超えて」

 弥生の提案は目からうろこだったオルトリンデではあるけど、試験官と弥生達の関係者はとにかく相性が……それにやっぱりお金が。
 うんうんと唸るオルトリンデを見て、弥生が冷や汗を流す。

「……(さすがに今後は気を付けよう)ま、まあそんなにもうあんなことは起きないよ。一巡したし」
「ですね。建設的に行きましょう……お金は何とか出来るし」

 ぼそりとオルトリンデが付け加えた一言は弥生には届かない。

「じゃあオルちゃん、今晩よろしくね」
「うん? どこか行くんですか? ああ、今日はエキドナの整備の日ですね……後で私の方から迎えに行きますよ」
「はーい。じゃあ家で待ってる」
「ええ、お疲れさまでした」

 ぱたぱたと帰り支度をして執務室から出ていく弥生の背中を見てオルトリンデは微笑む。
 そういえばほんのちょっと背が伸びただろうか? 人族の成長は速い。 自分はきっと文香がおばあさんになるまで……いや、その子供たちが大人になってもこのままの容姿である。
 そう考えるともっと今を大事にしよう、自分だからこそ伝えられることがあるはずだから。

「ま、数十年ぶりの三か国協議を終えてから考えましょうか……ミルテアリアはフィンでしょうが……ベルトリアはまだライゼン坊やが首相でしたっけ? 王城の迎賓室……何年振りでしたかね……蜘蛛の巣とか張ってなければ良いんですが」

 それからオルトリンデは学校の初等部へ向かい帰りのHR(ホームルーム)をするべく執務室を後にした。


 ◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇



「オルちゃんばいばーい!」
「はい文香、また後で迎えに行きますからね。夜音、頼みましたよ」
「オッケー、文香。帰りにマリナさんちのクッキー買いに行こうよ」
「わぁい! 食べる!!」

 身長的には変わらない文香と夜音ははたから見ると仲のいいクラスメイト。しかし夜音、黒髪に白いメッシュが一房混じる革のジャケットとホットパンツの少女はオルトリンデの数十倍は生きている怪異、座敷童。

「オルトリンデも行く? 新作のジャムクッキー出すって」
「私はこれから王城に顔を出してから行きます……買っておいてくれませんか? おつりで貴方達も買っていいですよ」

 そう言って夜音に銀貨を一枚握らせる。

「ほいほい、じゃあ行こうか文香。ありがとねオルトリンデ」
「行ってらっしゃい。寄り道はほどほどにしてくださいね」

 オルトリンデは最後の一組である二人を送り出して扉を閉めた。いつもの日課ともいうべき穏やかな日々に退屈していた時期も正直に言えばあった。しかし、最近は良くも悪くも退屈しない……させてくれない。

「悪くない、かな」

 ふと呟いた声は思いの他明るく、自然とオルトリンデの口元には笑顔が浮かぶ。
 そんな彼女の頭上から……正確には天井裏から低い声がかけられた。

「監理官殿、王城から伝言を賜っております。至急との事です」
「放っておきなさい。どうせ今から行きますから」
「……いいんです?」
「……なんですその反応。かえって気になります」
「王が吐血してぶっ倒れたと……」
「なんだ、いつもの事じゃないですか。気にして損しました」
「なんでも宝物庫から絶対防御用の魔法具が紛失したらしく」
「そうですか、大変ですねぇ」
「三か国協議の警備で使いたいらしいですよ?」
「……さあ、クワイエット速やかに王城に向かいますよ!!」

 ばたばたと移動するオルトリンデの背中をクワイエットは微笑ましく見送る。
 だって今回自分のせいじゃないもん。勝手に持ち出したのはオルトリンデだし聞かされてなかったもん。

「よっと、俺も行くかぁ」

 天井裏の隠密専用通路を使い、自分も王城へ向かう。
 自分も今回は本来のお仕事だからだ。

「何も起きないわけがないよな。きっと」

 最近別な意味でいい経験を積んでるクワイエットである。
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