上 下
51 / 255

エキドナさん壊れる

しおりを挟む
「どうなってるんだぁぁぁ!? なんであの子はいつもいつもいつも無鉄砲で後先考えないんだぁ!?」
「お、落ち着いてエキドナさん。ちゃんと罪を償えばでれる……よね?」
「無理じゃないかなー、お偉いさんぶん殴った挙句に全裸に剥いて娼館の壁に逆さに吊るして股間に小指サイズ、プークスクスって張り紙つけて晒したから」
「おねーさんはそんなこと教えた覚えはないよ!? 妹よ!!」
「お母さんからの直伝だって」
「ひさめぇぇぇぇ!! お前のせいで大変な事態になってるぅぅ!!」

 半泣きで床に四つん這いしてるエキドナさん。
 その胸中は誰にでもわかる『どうしてこうなった』だ。

「大変よね。散々暴れたせいで二か月後処刑だから急がないと不味い気がするけど」
「…………こふっ」
「エキドナさぁぁん!? 白目剥いてる場合じゃないよ!! 夜音ちゃん! 何とかなんない!?」
「なるわよ」
「そんな簡単にあきらめないでぇぇ……え? 何とかなるの?」
「うん、だから伝えに来たんだし」

 …………そういうのって早く言ってほしい。
 弥生は心の底からそう思った。

「そもそもキズナはそのお偉いさんが人身売買するのを知って大暴れしたのよ。私も一緒にね……で、自由に外に出れる私があの子の家族を探して奪還する。もしくはそのお偉いさんをコテンパンにして無罪放免を勝ち取るのが目的なの」
「むうぅ……事情が事情だけに怒れないけど。見つからなかったらどうするつもりなのさ、僕をピンポイントで見つけたのって偶然だったんでしょ?」
「いやそれが……えっと、あった」

 夜音がホットパンツのポケットから小さな端末を取り出す。
 そこには丸い点が二つ、中心部に表示されていた。

「これ、まさか……キズナが持ってたの?」
「うん……あなたのバッグに入ってたって、これを辿れば誰かは見つかるってあの子が言ってたの」
「何ですかこれ」
「SOS信号を拾う端末なんだけど……あっ!! そうか、誰か拾ってくれないかなーってずーっと信号出しっぱなしだった!!」
「これが数日前急に反応を拾ったから私が頑張ってここまで来たの。金髪だったら大当たり、黒髪の女性だったら大外れ、黒髪の男性だったら小吉だってキズナが言ってた」
「あの子は……その認識あながち間違いじゃないけど氷雨だったら確かに大外れだねぇ」

 ぺちん、と額を叩きながらエキドナが呆れたように愚痴る。
 細かい事が苦手な母親は大体の場合に力ずくという結論を最初に選ぶからだ。
 
「弥生……ちょっとさ。のっぴきならない事態だから僕行ってきたいんだけどいいかな?」

 弥生の護衛もおろそかにはできないが妹の生死もかかっているのでかなり悩ましくはある。
 苦渋の決断をしなければいけなかった。

「もちろんいいよ、でも……エキドナさん一人で行くの?」
「……そこなんだよなぁ。夜音……君はどうするつもり?」
「あたしはキズナンを助けに戻るよ」
「……おっけー、妹を迎えに行くかぁ。出たとこ勝負になりそうだけどねぇ」

 確かに探してはいたものの、まさか投獄中の妹を助けるために何とかしなければいけない事が山積みになったエキドナ。弥生も手助けをしたい所ではあるが状況が状況の為、できることが限られている。
 
「うーん、ベルトリア共和国ってウェイランドと仲良かったのかなぁ? 一応これでも統括ギルドの所属だし私も何かできないかなぁ……」
「気持ちはうれしいけど弥生……下手を打つと超広範囲に迷惑かかるかもしれないから今回は僕単独の方がいいと思うよ」

 エキドナが言う通り仮に脱獄させるとかの強硬手段を取らざるを得ない場合は弥生達が関わると、とんでもない外交上の問題を起こす事になる。

「でも、エキドナさんに何か私返したい。何かいい方法あるよ!!」
「弥生……」

 真摯な弥生の申し出はエキドナに迷いを生む、どう考えても弥生を巻き込むのはハイリスクだ。
 最悪のケースでもエキドナならばお尋ね者になるだけで済む。

「そもそも、夜音はどうして捕まらなかったんだい? 一緒に暴れたんだろう?」
「それが……あの子わざと捕まったのよ、まだ屋敷に捕まってる子がいるって。それなのに投獄されたのはお城の牢獄……」
「……さらに暴れるつもりだったんだね。おーけー僕もう驚かない」

 なおさら弥生を巻き込むわけにはいかなくなった。

「あの子多分全員助けるつもりで動いてるわ……めちゃくちゃ怒ってたから」
「ぐぬぅぅ……難易度が青天井で跳ね上がる一方だなぁ。弥生ぃ……確か明日ウェイランドに戻るよね?」
「え? うん、今日でオルちゃんのお仕事終わって明日には出立だよ?」
「夜音……君も一緒にウェイランドに来てくれないかな? 僕一人じゃ結構無理そうだ……」

 こうなったらもう腹をくくるしかない、キズナのやろうとしている事をほぼほぼ理解したエキドナは入念な準備と仲間の協力を得る道を選ぶ。
 夜音の話では2か月ある、一刻も早く会いたいが行き当たりばったりで行動すると多分碌なことにならないとエキドナの勘が警鐘を鳴らしているのだ。

「良いよ。私ができることも教えてあげる」
「弥生、もしかしたら別な意味で助けてもらうかも……君にしかできないと思う」
「へ? うん、なんでも手伝うよ!!」

 そして、そのエキドナの勘はこうも言っている。
 キーになるのは弥生だと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる
ファンタジー
 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?  挿絵結構あります

俺の召喚魔術が特殊な件〜留年3年目から始まる、いずれ最強の召喚術士の成り上がり〜

あおぞら
ファンタジー
 2050年、地球にのちにダンジョンと呼ばれる次元の裂け目が開いた。  そこから大量のモンスターが溢れ出し、人類は1度滅亡の危機に立たされた。  しかし人類は、ダンジョンが発生したことによって誕生した、空気中の物質、《マナ》を発見し、《魔導バングル》と言う物を発明し、そのバングルに《マナ》を通すことによって、この世界の伝承や神話から召喚獣を呼び出せる様になり、その力を使ってモンスターに対抗できる様になった。  時は流れて2250年。  地球では魔術と化学の共存が当たり前になった時代。  そんな中、主人公である八条降魔は国立召喚術士育成学園都市に入学した。  この学園の生徒はまず、精霊や妖精などのスピリットや、鬼、狼、竜などの神話や伝承の生き物を召喚し契約する。  他の生徒が続々と成功させていく中で、降魔だけは、何も召喚することができなかった。  そのせいで何年も留年を繰り返してしまう。  しかしそれにはある理由があって———  これは学園を3年留年してから始まる、いずれ最強になる召喚術士の物語。    

半身転生

片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。 元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。 気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。 「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」 実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。 消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。 異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。 少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。 強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。 異世界は日本と比較して厳しい環境です。 日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。 主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。 つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。 最初の主人公は普通の青年です。 大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。 神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。 もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。 ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。 長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。 ただ必ず完結しますので安心してお読みください。 ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。 この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【第一部完結】魔王暗殺から始まった僕の異世界生活は、思ってたよりブラックでした

水母すい
ファンタジー
 やりたいことがない空っぽの高校生の僕がトラックに轢かれて転移したのは、なんと魔王城だった。  貴重な役職の《暗殺者》である僕はチートスキルを駆使して、魔王を倒して囚われの姫を救い出すことに。  ⋯⋯ただし使えるのは短剣一本。  英雄なのに英雄になれない、そんな報われない僕の異世界生活は魔王討伐から始まる── ・一話の分量にバラつきがありますが気分の問題なのでご容赦を⋯⋯ 【第一部完結】 第二部以降も時間とネタができ次第執筆するつもりでいます。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

僕っ娘、転生幼女は今日も元気に生きています!

ももがぶ
ファンタジー
十歳の誕生日を病室で迎えた男の子? が次に目を覚ますとそこは見たこともない世界だった。 「あれ? 僕は確か病室にいたはずなのに?」 気付けば異世界で優しい両親の元で元気いっぱいに掛け回る僕っ娘。 「僕は男の子だから。いつか、生えてくるって信じてるから!」 そんな僕っ娘を生温かく見守るお話です。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...