上 下
43 / 255

ミルテアリアにて ④

しおりを挟む
 弥生を飛竜の待機所へ送って行った後、オルトリンデとエキドナはフィンの執務室へ来ている。
 先日の危険人物について弥生を抜きにしてもう少し踏み込んだ話がしたかったからだ。
 それぞれ適当な席に座り、ギルド員に紅茶をもらって会議は始まる。口火を切ったのはエキドナだ。

「まずは爆薬について触れようか。あれは簡単に言えば燃える粉を固めて筒に押し固めた物だよ……火が付けば一瞬でぼん! となる代物で、作り方さえわかれば意外と簡単に作れるけど入れ物はそうはいかない。大量生産かつ規格品のアレを少なくともウェイランドで僕は見たことが無い、多分僕の住んでいた所で作られたものだ」

「なるほどね。じゃあその二人組がウェイランドに出た危険人物と同じような所から来た可能性は高いって事か……。至近距離なら鎧で完全武装の騎士ですらノックアウト、私たち魔法士じゃ障壁が間に合わなかった時点で即死かしら?」

 紅茶をふうふうと冷まして飲みながら、フィヨルギュンは冷静に危険度を認識していく。
 魔法士というのは準備が整って初めて戦力となるので当然不意打ちなどにはめっぽう弱い。

「即死を免れてもその場で戦闘不能だろうね。ピン抜いて投げるだけだからさ、背を向けられたら予備動作すら見えないよ。相性は最悪なんじゃないかな」
「何か手はないの? 連発できないとか」
「残念なお知らせだけど、連発は可能で何個持ってるかによるけどトラップにも使えるんだ。ワイヤーつけて通り道に仕掛けておけば引っかかったらどかん! ってね。僕みたいに使い方を熟知してる連中ならもっと酷い使い方も思いつくよ」
「例えば?」
「ピン……安全装置の棒を溶けるようにして小動物に丸呑みさせて相手の陣地に放逐」

 確実性は薄れるが無差別ならば効果は高い、その動物を調教すればさらに確実性は上がる。
 エキドナがそこまで言って手のひらをぱっと開いた。その意味は当然爆発でオルトリンデとフィヨルギュンが息を呑む。

「エキドナ、貴女なら対処できますか?」
「できるよ。けどねぇ……正直僕の探してる家族とは別口なんだよね。相手が何を目的にしてるかによるんだけど戦闘になったらちょっと僕一人じゃ大変かな」
「バックアップに魔法士がいても、かしら」
「ごめん、実は魔法士のバックアップは僕と相性が悪い。かえって戦いづらくなると思う……連携が取れないんだ」
「そう……」
「話は通じそうなのかな? 戦闘ありきで今話してるけど交渉の余地があるなら僕は良い牽制になるよ」
「どうかしら、この間は……まあ不法侵入者って事もあったけど。まず事情を聞かせてって言えば話す余地はあると思いたいわ、その気になればこっちを殺せたのにわざわざ目くらましで逃げたんだもの」

 言われてみれば確かに、その気になれば閃光手榴弾ではなく火力の高い手榴弾や爆弾を使ってもよかった。手持ちがなかったのかもしれないが視覚と聴覚を失っていた魔法士など、ナイフで一刺しするだけで事は済む。フィヨルギュンの希望的観測も全くの的外れではない。

「そうだねぇ……なら単独で僕が動こうか? オルトリンデ監理官殿、良いかな?」
「無理はダメですよ? 壊れても直せばーって真司に言ったの聞いてますからね」
「たはは、しないしない。あくまでも探してコンタクトをとるだけだよ。そんなしかめっ面しないでおくれよ。おねーさんは思慮深いのさ」
「まったく……わかりました。一時弥生の護衛からは外しますから代わりにフィン? 私の国内での武装許可をください。代理で私が弥生の護衛を務めます」
「え? オルトリンデ戦えるの!?」

 想像の範囲外だったオルトリンデの言葉にエキドナが目を丸くする。
 ついでにつま先から頭のてっぺんまで見てもインドア派にしか見ないのだ。
 確かにここまでの道中歩き通した割には疲れた様子もないのである程度体力はあると思っていた。

「……オルリン、言ってないの?」
「いや、その……まさかこういう事態になるとは思っていなかったもので」

 はぁぁ……とため息をつきながら手持ちの旅行鞄を開けるオルトリンデ。
 その中から出てきたのは一本の鞭、ぐるぐると巻いてあるがエキドナの見立てでは4メートルくらいはありそうだった。

「これでも統括ギルドではNo.2の腕です。元、と但し書きが付きますが」
「よく言うわよ、魔法も有りだったらぶっちぎりで今でも最強じゃないのあんたは……」
「とても最強には見えなかったけど、人は見かけによらないねぇ」
「ふむ、では試しますか?」
「そうだねぇ……そうだ! 二人で来てよ。僕さぁ、ちょっと鈍ってるみたいでこの間変態相手に不覚を取っちゃってね。魔法相手の戦い方ってのを鍛えておきたくてさ」

 この場において二人を差すのはフィヨルギュンとオルトリンデだ。
 にやり、と不敵な笑みを浮かべるエキドナに困惑する。

「ええと、本気なの?」
「正直舐めてたんだよね。普通の達人や魔物程度には負ける気しないんだけどさ……弥生とオルトリンデが会った男は別格っぽいし」
「そういう事でしたら……ただし、危険と判断したらそこで止めますよ?」
「いいよん。僕も怪我したいわけじゃないし」

 仕方なくフィヨルギュンとオルトリンデは了承する。
 実際にエキドナの実力を知らない二人は軽い訓練程度の考えだが、後ほどそれを激しく後悔することになるのであった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...