上 下
31 / 255

後始末は大人の仕事 ③

しおりを挟む
「さてあたしは何しようかしら?」

 タンクトップにジーンズ姿、茶髪のショートで猫目と……いかにも活動的です! と言わんばかりの容姿。170センチの身長は女性にしては高くモデル体型と言える。

 先日の工房地区での死霊事件で大活躍した拳闘士『桜坂牡丹さくらざかぼたん』は暇を持て余していた。洞爺が弥生の護衛役を買って出た後、牡丹は真司の護衛役に付くことになり、今日も真司と一緒に魔法士ギルドに来ている。

「暇だったら訓練の相手でもしようか?」

 すっかり真司と行動を共にすることが多くなったエキドナが手首をぷらぷらと揺らしながら、牡丹に申し出た。同じ肉弾戦が得意ということもあり、手合わせを通して仲良しといってもいい。

「そうね、お願いしようかしら……どれくらいかかるの? 真司君は」
「今日は杖の術式を刻む日だから昼まで出てこないと思うよー」
「じゃあ、今日こそ一本取らないとね……貴女以上に強いんだもの」
「そりゃあ、軍用のアンドロイドだよ? 生身の人間には……ごめん、君は本当に人間? 洞爺もだけど」

 自信たっぷりに胸を貸したエキドナにあと一歩という所まで食い下がる牡丹、何より信じられなかったのはつい力が入ってエキドナが牡丹を派手に蹴り飛ばしてしまった事があった。
 しかし、激突した壁が陥没したのにその直後……笑いながら突撃してくる牡丹。

 思わず失礼を承知で、彼女は牡丹の身体を全力スキャンした位だ。
 結果は『どこからどう見てもただの20代の女性』、しかもほぼ無傷……エキドナが人間か!? と疑うのは無理もないのである。

「レンが言うには……魔力みたいな何かを無意識で纏ってる、らしいわ。興味ないけど」
「へえ、僕の家族もそういうのありそう……特に母親」
「私はむしろ……貴女が機械だなんて信じられなかったわ。首や腕をそんなポンポン外してるのを見たら信じるしかないけど」
「そこらへん認識合わせしたいなぁ……」

 エキドナは洞爺、牡丹、レンとすでに顔合わせを済ませて日本人である事を知っているのだが……どうにも弥生達、自分、彼らの言う日本が少しづつズレている気がするのだ。
 
「正直そこらへんはあたし興味がないから任せるわ。そもそも……私に限れば日本に戻りたいわけじゃないし、真司たちもそうなんでしょ?」
「まあ、ね。僕は元の場所に戻らないといけないから君らの経緯を解析してうまく生かしたい」
「なら協力するわ。うまくいったら向こう側でこちらとの行き来ができない様にしてくれるならね」
「それくらい請け負うよ……で、つい話し込んじゃったけどやるかい?」

 思いの他、二人は会話が続いてなんとなく動くのが億劫になってきていた。
 
「どうしようかしら……ところでどこで手合わせするつもりだったの?」
「え? ここ」
「……ダメに決まってるじゃない。ここ、通路よ」
「市街地での屋内戦を仮定して、は必要だと思うんだけど」
「間違って職員に当てたらあのロリっ娘監理官オルトリンデにマジ説教されるわよ」
「……じゃあ探索者ギルドの試験場でも借りる?」

 多少暴れても問題ない場所の定番、探索者ギルドの試験場はちゃんとお金を払えば練習場としても借りれる。しかし、その提案をエキドナがした瞬間。牡丹は嫌悪感丸出しで胸やおしりを手で隠して彼女に告げる。

「あれはあり得ない」

 誰の事かは口にしない、口にしてはいけないあの人と同じ扱いなのだ。
 事故案件をわざわざ掘り出す必要はないのである。

「大丈夫、受付の人にお金払ってがいない日をちゃんと把握してるから」
「いくら払ったの?」
「金貨二枚」
「…………妥当ね」

 おかげでエキドナは探索者ギルドにストレスなく通うことができている。
 今後はエキドナが行く日に合わせよう、と牡丹も便乗する気でいた。

「そういや、冒険者ギルドは今回動かなかったけどどうしてなのかな。戦える連中居るはずなのに」
「知らないわ。というか探索者と冒険者って何が違うの?」

 この国に来たばかりの牡丹が素朴な疑問をエキドナに投げる。

「大きく分けると距離だね。国内の未開拓区域を開拓するのが冒険者。国境を跨いで未開の地を探索して各国に情報を渡すのが探索者」
「……ざっくりね」
「後は国境を超える際にその国で都度都度登録しなきゃいけないのが冒険者、どこの国でも通用するオールマイティパスが探索者」
「…………冒険者の上位互換が探索者、オーケー?」

 聞いておいてその反応はどうなのかと思うエキドナ、たった数日だが牡丹について思うのはただ一つ……超マイペース、なおかつ興味とかの振れ幅がとんでもない事。ただし正義感と闘争本能は上限突破……どこかのスーパーヒーローかこいつ。

「こまけぇことはイインダヨ、嫌いじゃないよ。そういうの、考えるのは僕の得意分野だしね」
「助かるわ、洞爺さん……無鉄砲だから」
「……レンから君と洞爺が振り回すから楓さんだっけ? 仕方なく移住先決まるまで向こうで待ってるんでしょ? 死の大地」
「ひどいわエキドナ、私は品行方正よ。ちょっと酒場でストリップしてお持ち帰りされそうになって貴族っぽい奴を再起不能にしただけよ」
「ここで絶対やるなよ? いいか、絶対だ」
「フラグね(わかったわ)」
「本音と建て前が逆だよ!? フラグじゃねぇよ!?」
「あなた、面白いわ」
「楓さんとはめちゃ仲良くできそうだよ!! 主に君の取扱いについて!!」

 本当に突っ込み不在の弥生一行で、常識人枠っぽいエキドナと苦労人気質の真司が大体被害にあう構図が出来上がりつつあるのだ。
 被弾率を下げるために肉か……的を増やしておきたいと心底思うエキドナだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

料理を作って異世界改革

高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」 目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。 「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」 記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。 いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか? まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。 そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。 善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。 神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。 しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。 現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

処理中です...