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別室連行にて光明を見出す長女
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重苦しい沈黙が部屋を支配する。その原因は普段は明るく軽さの代名詞のようなエキドナさんその人だ。
「いくらなんでも子供達だけで家は買えません」
そりゃそうだ、と真司は心の中で受付の女性に同意する。
そして今度からちゃんと調べてから動こう……行き当たりばったりな姉がまた増えた。と内心嘆いてたりする。
「せめてどこかのギルドに所属してギルド長などに保証してもらわないと困ります」
弥生達はコストに案内されて統括ギルドの移民管理部門で手続きをしていたのだが……すぐに別室へと移動させられてしまったのだった。
「偶に小人族の方とか魔族の方で未成年に間違われる方はいますが、そちらのエキドナさんが70歳だなんて……いたずらにしてもほどがありますよ?」
そう、エキドナは自信満々に弥生達の保護者と言い切ったものの……どう見ても人族の少女にしか見えないエキドナの主張に青筋を立てて全員を別室連行した長耳族の女性受付員。よく考えなくてもわかりそうな事だった。
「いや、ほら……延命や若返りの呪法でとかあるんじゃ」
「禁忌ですので投獄しますけど?」
「すいません! そんなことはしていません!!」
しかし、弥生達もエキドナを責められなかった……エキドナが持っている身分証明書があれば自分たちの発行もすぐに進むと軽ーく考えていたからだ。
「はあ……まあ、ヤヨイさんでしたよね? ご両親か保護者の方は来ていないんですか?」
「ええと……」
かくかくしかじか、転移だとか転生だとかは伏せてありのままに現状を伝える弥生。
それをすべて聞き終えた受付の女性は……。
「大丈夫」
「はい?」
「すべて私に任せなさい!! いいわ、住む場所も今日中に何とかしてあげる!!」
「え? ちょ、おねーさん!?」
と……弥生達があっけにとられる中、ハンカチ片手に飛び出して行ってしまった。
「なんだろね。僕じゃなくて最初から弥生に正直に話してもらった方がスムーズとか結構ショックなんだけど」
反対にエキドナは釈然としない様子で乱暴に閉じられた個別相談室のドアを睨む。
樫の木で作られたテーブルに肘を乗せ唸り声もセットにされていた。
「まあまあ、エキドナ姉が胡散臭いから仕方ないよ……黙ってれば美人なのに」
「真司!? 残念超絶美人って言った!?」
「集音機能オーバーホールしたら? 空耳まで集音してるよ?」
ちなみに文香は先ほど少し遅めのお昼ご飯の後で眠くなって弥生に背負われていた。子供をあやす子供、という所も受付嬢さんの琴線に触れていたのだが弥生達のあずかり知らないところである。
そんな弥生自身はと言うと、手慣れた様子で器用に文香を背負いながら椅子に座っていた。
「くうう、脱いだらすごいんだぜ」
「あれでしょ、全身武器庫とか補助腕とか」
「動ける人体標本です!!」
「学校に寄贈したら返されるかも……騒がしいとか七不思議扱いで」
なんだかんだと打ち解けて(?)真司とエキドナも話す中、弥生は背中に感じる暖かさに癒されつつもどれくらい待つのかなぁ。とのんびりしつつもこれからの事を整理しておく。
「学校……お金どれくらいかかるのかな?」
エキドナに任せっぱなしだった金銭問題、今後の生活費をどうやって捻出するかでいきなり詰んでしまう……何せ弥生達は戦えない、エキドナのように身体そのものが武器ではないので何か別な手を考えなければいけなかった。
「お金かぁ……僕がちょっと頑張ればなんとかなると思うけどね」
真司のほっぺたをムニムニしながらエキドナが答える。エキドナはそれでいいのだが弥生がどう考えるかはまた別だ。
「私たちでも生活費位は何とかできないですか?」
「そこまでは僕もすぐには思いつかないなぁ……手っ取り早かったのが僕が所属した探索者ギルドで魔物狩りだったもんでね」
エキドナはこの世界で目覚めて数日の内に村にある探索者ギルドへ登録して、魔狼とかを狩って生活していた。反則的な探知能力に圧倒的な身体能力で瞬く間にそこそこ稼いでる。
「戦うのはちょっと……危ないかなぁ」
「弥生はそうだよねぇ」
エキドナの脳裏にしっかりと記録されている貧弱すぎる……もういっそ虚弱体質と言ってもいい弥生の姿。まず武器が持てても戦場に到達する前に力尽きる未来しか想像できなかった。
「……何か事務仕事でもあればうれしいんだけど」
コネ無し、家無し、お金無しの弥生達にとっては最初の一歩が中々にハードルが高い。
しかし、打開の策は意外な方向に進んでいく。ふと壁の張り紙を目で追っていた真司がつぶやいた。
「統括ギルド書記官募集……応募に際しては受付にて事前登録が必要だって」
ぴん! と犬だったら尻尾でも立てそうな勢いで弥生が真司に向き直る。
エキドナも興味を持ったのか真司と同じ張り紙を見て続きを言葉にした。
「経歴不問、未成年でも応募可能。ただし等級に応じて身元保証が必要となります」
「おおお! 私も応募できる!! 身元保証……だけ何とかなれば」
「そうだねぇ、僕じゃダメ……でもないか。三級書記官なら他ギルド所属などの身元証明で大丈夫だってさ」
「よし! 私受ける!!」
即断即決で弥生が気勢を上げる、きっとこの情報がもたらされたのは何かの運命だったのだ! と弥生が眼光鋭く……とはいえ迫力の欠片も無い顔だが。
「試験明日だよ?」
「へ!?」
「緑の季節17日目……今日が16日目だから、明日」
「神は居なかった」
べしゃりと机に突っ伏する弥生の後頭部に文香の頭がぶつかって鈍い痛みが走る。
「そもそも僕は神様なんて信じてないけど運が悪かったねぇ」
にゃはは、と苦笑いしながらエキドナが慰めようとするが真司だけはそのまま張り紙を凝視しつつ何かを考えている。そんな真司の様子が気になったのか、弥生は首をかしげて弟の様子を見守った。
「行けると思うよ。姉ちゃん学校の成績『だけ』はトップクラスだったよね?」
「だけとはなんだ愚弟」
「体育祭で「すんませんでした!! はいそうです!! 学年1位です!!」」
真司の黒歴史暴露を防ぐため、忸怩たる思いで認める弥生。
心の中では真司を足蹴にしていたけれども。
「ここなんだけどさ、エキドナ姉……どう思う?」
真司が右手の指で『二級書記官以上』と書かれた部分を指さす。
「なになに? 四則演算、読み書きの試験に……統計、確率、割合……図面が読める人? これがどうしたんだい?」
「僕らの父さん……軍用機の設計開発してて姉ちゃん図面読めるんだよ。将来エンジニア志望……一度死亡してるけど」
「笑えない冗談だけど……募集要項見る限りは強度計算や二次モーメントとか専門分野に特化してる。弥生はどれくらいできるのかな?」
設計と言っても様々で基礎設計から量産設計、建築や物の設計を含めると幅が広すぎる分野である。だからこそそれぞれ専門分野を決めて学ぶのが普通だ。
「ほぼ全部です。機械系、電気系」
「…………は?」
「化工系と建築、IT系はあんまりですけど」
「高校は技術系?」
「普通科ですよ?」
「………………ごめん、意味わからない」
「エキドナ姉、姉ちゃんは……趣味でお父さんの仕事の手伝いしてたんだよ。残念仕様だけど工具あれば車とか鼻歌交じりで分解、整備、組み立てまでできる」
「嘘でしょ? じゃあ、真司も文香も?」
「僕と文香は興味がそんなにないから全然できない。姉ちゃんだけ」
とんでもないスキルレベルだった。
あぐあぐと間抜けな感じでエキドナが事実を受け入れようとする反面、弥生は気まずい様子でそわそわと目線が泳いでいる。
実際に弥生達がおんぼろアパートに住み始めた際、ガス給湯器も壊れていたし冷蔵庫も不用品回収に出されていた年代物を再整備でよみがえらせていた。
「意外な才能……さっきの受付嬢さん戻ってきたら聞いてみようか?」
心底感心した様子でエキドナが乗り気になる。
実はエキドナ自分自身が半分機械なのに機械音痴だったりした。
自分の体の不調はいつも父親役に任せっきりだった……きっと弥生と仲良くなれるだろうなぁと記憶に留めて置く。
「身分証明はとりあえず置いておこう」
運を天に任せるのも時には大事だという、エキドナの父親役の言葉に従って。
「いくらなんでも子供達だけで家は買えません」
そりゃそうだ、と真司は心の中で受付の女性に同意する。
そして今度からちゃんと調べてから動こう……行き当たりばったりな姉がまた増えた。と内心嘆いてたりする。
「せめてどこかのギルドに所属してギルド長などに保証してもらわないと困ります」
弥生達はコストに案内されて統括ギルドの移民管理部門で手続きをしていたのだが……すぐに別室へと移動させられてしまったのだった。
「偶に小人族の方とか魔族の方で未成年に間違われる方はいますが、そちらのエキドナさんが70歳だなんて……いたずらにしてもほどがありますよ?」
そう、エキドナは自信満々に弥生達の保護者と言い切ったものの……どう見ても人族の少女にしか見えないエキドナの主張に青筋を立てて全員を別室連行した長耳族の女性受付員。よく考えなくてもわかりそうな事だった。
「いや、ほら……延命や若返りの呪法でとかあるんじゃ」
「禁忌ですので投獄しますけど?」
「すいません! そんなことはしていません!!」
しかし、弥生達もエキドナを責められなかった……エキドナが持っている身分証明書があれば自分たちの発行もすぐに進むと軽ーく考えていたからだ。
「はあ……まあ、ヤヨイさんでしたよね? ご両親か保護者の方は来ていないんですか?」
「ええと……」
かくかくしかじか、転移だとか転生だとかは伏せてありのままに現状を伝える弥生。
それをすべて聞き終えた受付の女性は……。
「大丈夫」
「はい?」
「すべて私に任せなさい!! いいわ、住む場所も今日中に何とかしてあげる!!」
「え? ちょ、おねーさん!?」
と……弥生達があっけにとられる中、ハンカチ片手に飛び出して行ってしまった。
「なんだろね。僕じゃなくて最初から弥生に正直に話してもらった方がスムーズとか結構ショックなんだけど」
反対にエキドナは釈然としない様子で乱暴に閉じられた個別相談室のドアを睨む。
樫の木で作られたテーブルに肘を乗せ唸り声もセットにされていた。
「まあまあ、エキドナ姉が胡散臭いから仕方ないよ……黙ってれば美人なのに」
「真司!? 残念超絶美人って言った!?」
「集音機能オーバーホールしたら? 空耳まで集音してるよ?」
ちなみに文香は先ほど少し遅めのお昼ご飯の後で眠くなって弥生に背負われていた。子供をあやす子供、という所も受付嬢さんの琴線に触れていたのだが弥生達のあずかり知らないところである。
そんな弥生自身はと言うと、手慣れた様子で器用に文香を背負いながら椅子に座っていた。
「くうう、脱いだらすごいんだぜ」
「あれでしょ、全身武器庫とか補助腕とか」
「動ける人体標本です!!」
「学校に寄贈したら返されるかも……騒がしいとか七不思議扱いで」
なんだかんだと打ち解けて(?)真司とエキドナも話す中、弥生は背中に感じる暖かさに癒されつつもどれくらい待つのかなぁ。とのんびりしつつもこれからの事を整理しておく。
「学校……お金どれくらいかかるのかな?」
エキドナに任せっぱなしだった金銭問題、今後の生活費をどうやって捻出するかでいきなり詰んでしまう……何せ弥生達は戦えない、エキドナのように身体そのものが武器ではないので何か別な手を考えなければいけなかった。
「お金かぁ……僕がちょっと頑張ればなんとかなると思うけどね」
真司のほっぺたをムニムニしながらエキドナが答える。エキドナはそれでいいのだが弥生がどう考えるかはまた別だ。
「私たちでも生活費位は何とかできないですか?」
「そこまでは僕もすぐには思いつかないなぁ……手っ取り早かったのが僕が所属した探索者ギルドで魔物狩りだったもんでね」
エキドナはこの世界で目覚めて数日の内に村にある探索者ギルドへ登録して、魔狼とかを狩って生活していた。反則的な探知能力に圧倒的な身体能力で瞬く間にそこそこ稼いでる。
「戦うのはちょっと……危ないかなぁ」
「弥生はそうだよねぇ」
エキドナの脳裏にしっかりと記録されている貧弱すぎる……もういっそ虚弱体質と言ってもいい弥生の姿。まず武器が持てても戦場に到達する前に力尽きる未来しか想像できなかった。
「……何か事務仕事でもあればうれしいんだけど」
コネ無し、家無し、お金無しの弥生達にとっては最初の一歩が中々にハードルが高い。
しかし、打開の策は意外な方向に進んでいく。ふと壁の張り紙を目で追っていた真司がつぶやいた。
「統括ギルド書記官募集……応募に際しては受付にて事前登録が必要だって」
ぴん! と犬だったら尻尾でも立てそうな勢いで弥生が真司に向き直る。
エキドナも興味を持ったのか真司と同じ張り紙を見て続きを言葉にした。
「経歴不問、未成年でも応募可能。ただし等級に応じて身元保証が必要となります」
「おおお! 私も応募できる!! 身元保証……だけ何とかなれば」
「そうだねぇ、僕じゃダメ……でもないか。三級書記官なら他ギルド所属などの身元証明で大丈夫だってさ」
「よし! 私受ける!!」
即断即決で弥生が気勢を上げる、きっとこの情報がもたらされたのは何かの運命だったのだ! と弥生が眼光鋭く……とはいえ迫力の欠片も無い顔だが。
「試験明日だよ?」
「へ!?」
「緑の季節17日目……今日が16日目だから、明日」
「神は居なかった」
べしゃりと机に突っ伏する弥生の後頭部に文香の頭がぶつかって鈍い痛みが走る。
「そもそも僕は神様なんて信じてないけど運が悪かったねぇ」
にゃはは、と苦笑いしながらエキドナが慰めようとするが真司だけはそのまま張り紙を凝視しつつ何かを考えている。そんな真司の様子が気になったのか、弥生は首をかしげて弟の様子を見守った。
「行けると思うよ。姉ちゃん学校の成績『だけ』はトップクラスだったよね?」
「だけとはなんだ愚弟」
「体育祭で「すんませんでした!! はいそうです!! 学年1位です!!」」
真司の黒歴史暴露を防ぐため、忸怩たる思いで認める弥生。
心の中では真司を足蹴にしていたけれども。
「ここなんだけどさ、エキドナ姉……どう思う?」
真司が右手の指で『二級書記官以上』と書かれた部分を指さす。
「なになに? 四則演算、読み書きの試験に……統計、確率、割合……図面が読める人? これがどうしたんだい?」
「僕らの父さん……軍用機の設計開発してて姉ちゃん図面読めるんだよ。将来エンジニア志望……一度死亡してるけど」
「笑えない冗談だけど……募集要項見る限りは強度計算や二次モーメントとか専門分野に特化してる。弥生はどれくらいできるのかな?」
設計と言っても様々で基礎設計から量産設計、建築や物の設計を含めると幅が広すぎる分野である。だからこそそれぞれ専門分野を決めて学ぶのが普通だ。
「ほぼ全部です。機械系、電気系」
「…………は?」
「化工系と建築、IT系はあんまりですけど」
「高校は技術系?」
「普通科ですよ?」
「………………ごめん、意味わからない」
「エキドナ姉、姉ちゃんは……趣味でお父さんの仕事の手伝いしてたんだよ。残念仕様だけど工具あれば車とか鼻歌交じりで分解、整備、組み立てまでできる」
「嘘でしょ? じゃあ、真司も文香も?」
「僕と文香は興味がそんなにないから全然できない。姉ちゃんだけ」
とんでもないスキルレベルだった。
あぐあぐと間抜けな感じでエキドナが事実を受け入れようとする反面、弥生は気まずい様子でそわそわと目線が泳いでいる。
実際に弥生達がおんぼろアパートに住み始めた際、ガス給湯器も壊れていたし冷蔵庫も不用品回収に出されていた年代物を再整備でよみがえらせていた。
「意外な才能……さっきの受付嬢さん戻ってきたら聞いてみようか?」
心底感心した様子でエキドナが乗り気になる。
実はエキドナ自分自身が半分機械なのに機械音痴だったりした。
自分の体の不調はいつも父親役に任せっきりだった……きっと弥生と仲良くなれるだろうなぁと記憶に留めて置く。
「身分証明はとりあえず置いておこう」
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