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24:トイレの太郎さん 絶望編
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「ぎゃあああ!?」
けたたましい音を立ててトイレから逃げ出す中年男(自称:トイレの太郎さん(年齢不詳))は私を何度も振り返りつつ、必死で距離を取ろうとする。
「どうしたの? 私と結婚したいんじゃなかったの?」
怖がらせない様に、とぉぉおおおおっても優しい声で囁いたのに……トイレの太郎さんは恐ろしい物を見ているかの様で、目を真ん丸にして涙を浮かべて足をバタバタしていた。
「……荷物つっかえてますよ?」
なんで私から遠ざからないかと言えば、答えは単純でトイレの入り口に本人より大きなリュックサックがつっかえているからなんだよね。
外してあげよう、そうしよう。
困ってる人が居たら助けてあげないと、ねえ?
「ち、近寄らないで!」
右手を振って私を遠ざけようとするトイレの太郎さんは、なぜか口の端から泡を吹きながら私を睨んだ。
「太郎さんの大好きな小学生の女子ですよ」
「ぼ、ぼくの好きなのは断じて眼が光って浮いている明らかに触れたら死ぬ系の小学生女子では無いんだな!? 大体こんな夜間に学校にいる時点でまともな子供では無いんだな! ぼ、僕が考察するに不良の定義とは下校時間後に学校を根城にしてぼ、僕らみたいな善良な推し活動者を狩ることを生きがいにしているようなそう! 君みたいな子なんだな!! そもそもそんな可愛い顔をしてそれは何なんだな!? なんかズルでもしてないとこっちが息ができないくらいの圧なんて掛けられないんだな!! アニメのキャラクターでもあるまいし、背中から何かを出して!! こ、こっちは大人なんだぞ! やるかこの!! ふん! ふん!! ど、どうだボクシングゲームで1日頑張って鍛えた右ストレートが唸るんだな!! あ、謝るなら許してあげても良いんだな!! こ、こうしたから覗き込むようなアングルで写真撮らせてくれたら!!」
すっごい早口……息継ぎ何処でしてるんだろう。
最初は泣きそうになりながら、途中からどや顔、最後には好戦的に目を吊り上げて……忙しい人だなぁ。
まあ、それ以前に。
「ごめんなさい、私は心に決めている人が居ますので」
これ一択なんだよね。
誰かって? もちろんユウキですが何か?
「ひぃぃぃ!! うそだ、うそだぁぁ!! ぼ、僕なんか42年も彼女出来たことないのに!! 生まれてきて10年やそこらでか、彼氏だなんてありえないありえない!! 手をつないだ事すら無いのに!! す、少しお話しようとして声を掛けただけなのに悲鳴を上げて逃げ出すなんてさ、差別なんだな!! 子供が好きそうな二次嫁Tシャツと今の流行、活動的な短パンにゲームの話題作りにデータをお金で買ってランキング1位にまでなったのに!! のにぃぃ!! チャットでは『尊敬してます』『俺つぇぇぇ!! かっこいい!!』とか『さす壁』『自動経験値量産乙』って寝る間もない位頼って来たくせにぃぃぃ!!」
「……ええと、ちょっといいですか?」
「な、何なんだよ! お、おとなしそうな顔して僕を叩こうってつもりなの……かな? かな?」
「いえいえ、ちょっとこれを見てくれないかなと」
私は自分のスマホを取り出して、今まで撮った写真を見れるギャラリーモードにする。
そこには私の思い出の一幕である画像がずらりと並んでいるんだけど……一番右下に、何の題名も書いていないフォルダが一つあるんだよね。
「な、なにを……するつもりなの、かな?」
いやまあ、現実を知ってもらおうかと。
いろいろと我慢して私は太郎さんの隣にしゃがみこんで……フォルダを開く。
そこにはパスワードを入力してくださいと表示され、私は迷わず……指紋認証でロックを外す。
万が一、誰かが開こうとしたとき……パスワードだと思わせるためにこうしてあった。
「見てもらえばわかります」
「見る? し、少女のプライベートなんだな!? そうなんだな!!」
「まあ、ある意味」
全画面で映し出された画像には、一人の少年が映っている……この学校の校庭で走る一人の少年が……カメラの倍率、画角、構図共に私の中では自慢の一品である。
少し吊り上がった目つきに、Tシャツ、黒のハーフパンツにスポーツ用の靴下とスニーカー。
私がほぼ毎日顔を突き合わせている幼馴染、小森勇樹だった。
「お、男に興味は……無いんだな」
困惑した様子の太郎さんに、私は画面にゆっくりと指を滑らせて次の画像を表示する。
今度はユウキが自宅の扇風機の前でタオルケット1枚でお腹を掻きながら昼寝をしている姿だ。
個人的なこだわりはこう、無防備さの中にある安心感? この距離まで近づくとカメラのシャッター音で目を覚ましてしまう恐れがあるので、セロハンテープでスマホのスピーカーを塞いで慎重に撮影に臨んだのである。
「……私に兄弟は居ないんです」
ひとつづつ、開示される私の個人情報。
だけど今は良い……。
「!?」
そして……勘のいいおじさんは嫌いじゃないですよ?
わなわなと震えて、私の言いたいことを徐々に理解していくおじさんは……視線を私に向けようとして……諦めた。
「さあ、ゆっくり教えてあげます」
「い、いやなんだな。し、知りたくないんだな!!」
「だめ」
私はゆっくりと『祝5周年 ユウキ画廊 ~カコ傑作選~』の写真をまた1枚スライドさせる。
私がユウキの腕を掴んで一緒にアイスクリームを食べている、貴重な2ショット……撮影はユウキのお母さん……あの時ばかりは足を舐めてでも欲しいとおばさんをドン引きさせるくらい拝みこんだのだ。
「リア充……僅か10歳かそこらで……リア充……だ、と!?」
「まだまだありますよ? ふふ、ふふふ……うふふふふふふふ……」
絶望を、知りなさい。
けたたましい音を立ててトイレから逃げ出す中年男(自称:トイレの太郎さん(年齢不詳))は私を何度も振り返りつつ、必死で距離を取ろうとする。
「どうしたの? 私と結婚したいんじゃなかったの?」
怖がらせない様に、とぉぉおおおおっても優しい声で囁いたのに……トイレの太郎さんは恐ろしい物を見ているかの様で、目を真ん丸にして涙を浮かべて足をバタバタしていた。
「……荷物つっかえてますよ?」
なんで私から遠ざからないかと言えば、答えは単純でトイレの入り口に本人より大きなリュックサックがつっかえているからなんだよね。
外してあげよう、そうしよう。
困ってる人が居たら助けてあげないと、ねえ?
「ち、近寄らないで!」
右手を振って私を遠ざけようとするトイレの太郎さんは、なぜか口の端から泡を吹きながら私を睨んだ。
「太郎さんの大好きな小学生の女子ですよ」
「ぼ、ぼくの好きなのは断じて眼が光って浮いている明らかに触れたら死ぬ系の小学生女子では無いんだな!? 大体こんな夜間に学校にいる時点でまともな子供では無いんだな! ぼ、僕が考察するに不良の定義とは下校時間後に学校を根城にしてぼ、僕らみたいな善良な推し活動者を狩ることを生きがいにしているようなそう! 君みたいな子なんだな!! そもそもそんな可愛い顔をしてそれは何なんだな!? なんかズルでもしてないとこっちが息ができないくらいの圧なんて掛けられないんだな!! アニメのキャラクターでもあるまいし、背中から何かを出して!! こ、こっちは大人なんだぞ! やるかこの!! ふん! ふん!! ど、どうだボクシングゲームで1日頑張って鍛えた右ストレートが唸るんだな!! あ、謝るなら許してあげても良いんだな!! こ、こうしたから覗き込むようなアングルで写真撮らせてくれたら!!」
すっごい早口……息継ぎ何処でしてるんだろう。
最初は泣きそうになりながら、途中からどや顔、最後には好戦的に目を吊り上げて……忙しい人だなぁ。
まあ、それ以前に。
「ごめんなさい、私は心に決めている人が居ますので」
これ一択なんだよね。
誰かって? もちろんユウキですが何か?
「ひぃぃぃ!! うそだ、うそだぁぁ!! ぼ、僕なんか42年も彼女出来たことないのに!! 生まれてきて10年やそこらでか、彼氏だなんてありえないありえない!! 手をつないだ事すら無いのに!! す、少しお話しようとして声を掛けただけなのに悲鳴を上げて逃げ出すなんてさ、差別なんだな!! 子供が好きそうな二次嫁Tシャツと今の流行、活動的な短パンにゲームの話題作りにデータをお金で買ってランキング1位にまでなったのに!! のにぃぃ!! チャットでは『尊敬してます』『俺つぇぇぇ!! かっこいい!!』とか『さす壁』『自動経験値量産乙』って寝る間もない位頼って来たくせにぃぃぃ!!」
「……ええと、ちょっといいですか?」
「な、何なんだよ! お、おとなしそうな顔して僕を叩こうってつもりなの……かな? かな?」
「いえいえ、ちょっとこれを見てくれないかなと」
私は自分のスマホを取り出して、今まで撮った写真を見れるギャラリーモードにする。
そこには私の思い出の一幕である画像がずらりと並んでいるんだけど……一番右下に、何の題名も書いていないフォルダが一つあるんだよね。
「な、なにを……するつもりなの、かな?」
いやまあ、現実を知ってもらおうかと。
いろいろと我慢して私は太郎さんの隣にしゃがみこんで……フォルダを開く。
そこにはパスワードを入力してくださいと表示され、私は迷わず……指紋認証でロックを外す。
万が一、誰かが開こうとしたとき……パスワードだと思わせるためにこうしてあった。
「見てもらえばわかります」
「見る? し、少女のプライベートなんだな!? そうなんだな!!」
「まあ、ある意味」
全画面で映し出された画像には、一人の少年が映っている……この学校の校庭で走る一人の少年が……カメラの倍率、画角、構図共に私の中では自慢の一品である。
少し吊り上がった目つきに、Tシャツ、黒のハーフパンツにスポーツ用の靴下とスニーカー。
私がほぼ毎日顔を突き合わせている幼馴染、小森勇樹だった。
「お、男に興味は……無いんだな」
困惑した様子の太郎さんに、私は画面にゆっくりと指を滑らせて次の画像を表示する。
今度はユウキが自宅の扇風機の前でタオルケット1枚でお腹を掻きながら昼寝をしている姿だ。
個人的なこだわりはこう、無防備さの中にある安心感? この距離まで近づくとカメラのシャッター音で目を覚ましてしまう恐れがあるので、セロハンテープでスマホのスピーカーを塞いで慎重に撮影に臨んだのである。
「……私に兄弟は居ないんです」
ひとつづつ、開示される私の個人情報。
だけど今は良い……。
「!?」
そして……勘のいいおじさんは嫌いじゃないですよ?
わなわなと震えて、私の言いたいことを徐々に理解していくおじさんは……視線を私に向けようとして……諦めた。
「さあ、ゆっくり教えてあげます」
「い、いやなんだな。し、知りたくないんだな!!」
「だめ」
私はゆっくりと『祝5周年 ユウキ画廊 ~カコ傑作選~』の写真をまた1枚スライドさせる。
私がユウキの腕を掴んで一緒にアイスクリームを食べている、貴重な2ショット……撮影はユウキのお母さん……あの時ばかりは足を舐めてでも欲しいとおばさんをドン引きさせるくらい拝みこんだのだ。
「リア充……僅か10歳かそこらで……リア充……だ、と!?」
「まだまだありますよ? ふふ、ふふふ……うふふふふふふふ……」
絶望を、知りなさい。
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