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第3章 自由連合同盟都市国家メルキオール 地方城塞都市カイロス編

第79話 代理管理者権限付与と、ルールミナスが嬉し涙を流してクロエと食べたご飯の件

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『以上が姉様とあの男に関する記録です。

この装置の機能を使えば、目標物への定点観測記録が可能です。目標が登録されたら、この建物の最上階から観測用の魔法生物が目標へ向けて飛び立ちます。
到着と共に観測が開始され、対象が死亡、消失もしくは登録解除がなされない限り、定点観測は継続されます。

欠点は対象の【鑑定LV5】で取得した情報を登録しなければならないことと、姉様の様に亜空間に入られると観測できなくなります。

また、観測対象は最大で3つまで登録が可能ですが、それ以上登録するには登録済みの観測対象から1つ外してから、登録しなければなりません』

ルールミナスが今まで観ていた記録映像について教えてくれた。

記録映像が消えた後のモニターにはこの世界の世界地図と思しきものが表示されている。

非常に便利な装置だ。これでメガネ達を監視できれば少しは安心できる。条件である【鑑定LV5】もルールミナスをスキルが自動【鑑定】した際に満たすことができたから条件は満たせている。

「どうやって【鑑定】情報を登録するんだ?」

俺は早速使いたかったので、使い方をルールミナスに訊いてみた。

『残念ですが、貴方はまだ生体情報登録が完了していないため、代理管理者権限がありません。ですので、この装置は利用できません……貴方は監視すべき対象があるのですか?』

俺の問いかけにルールミナスは答えてくれたが、訝しげな視線をこちらに向けてきた。

「ああ、4人いる。うち3人はまとまって行動しているからその内の1人に魔法生物をつけることができればいいかもしれないが、できれば全員に観測用の魔法生物をつけたい。その3人はオディオ王国の王女と、俺と飛鳥と同様にこの世界に召喚された俺達と敵対する飛鳥の幼馴染達だ。あと1人はヘリオスさんを亡き者にしようとし、暗躍しているヘリオスさんの弟だ」

俺は言いよどむことなく、ルールミナスに対象について伝えた。ルールミナスは俺がヘリオスさんの弟のことに言及すると、ヘリオスさんの方を向いた。

「ユウ君……」

ヘリオスさんが複雑そうな顔を俺に向けてくる。

「身内だから疑いたくないのかもしれませんが、逆に監視を付けて怪しいことがないのであれば、潔白の証明になります。それに、今は直接、俺達が所属している錬金術師ギルドに仕掛けてきていませんが、今後もそれが続く保障はないじゃないですか。薬品ギルドは自業自得で、自滅し始めていますから。正直な話し、ヘリオスさんが彼に対して、なにを遠慮しているのか知りませんし、知るつもりはありませんが、俺達に危害を加えてきたら、手加減するつもりはありませんよ」

既に【隷属テイム】した鼠などの小動物を監視に派遣してはいるものの、隠密性などはここの設備には劣る。

俺にとって最も優先すべきはヘリオスさんではなく、飛鳥達であるので、このことでヘリオスさんに譲るつもりはない。

メルキオールに戻り次第、俺は目標を【鑑定】して登録の条件を整えることに決めた。

『……ヘリオスがなにに拘っているのか、私にはわかりませんが、姉様が認めている貴方の生体情報登録を登録して、代理管理者権限プロキシィアドミニストレーターオーソリティは付与しましょう。なにか質問はありますか?』

そう言って、ルールミナスは俺に問いかけた。

「登録した際のデメリットと、現在ここの管理者に登録されて存命の人物は誰か教えてくれないか」

『デメリットと申しましょうか、なんらかの理由でここの主管理者メインアドミニストレーター、現在は私、が不在になった際、優先順位に従って、主管理者権限メインアドミニストレーターオーソリティが付与されます。常駐の必要はありませんが、この施設にある設備の保守管理をしなければならなくなります』

なるほど、保守管理か……常駐せずともそれをするには数日はここに住み込む必要はありそうだ。

ここは一部を改装すれば住み心地は悪くなさそうなので、拠点としても充分機能しうる。メルキオールの屋敷に次ぐ拠点にしてもいいだろう。

『代理管理者権限では新たな代理管理者権限の付与登録は行えないなど主管理者権限に比べて制限があります。設備の確認はできますが、使用するには主管理者の許可が必要です。また、命に別状はありませんが、主管理者権限が移譲されたときに備えて必要な下地知識を脳内に登録します』

「……」

ルールミナスの最後の言葉を聞いて、ヘリオスさんは顔を顰めた。

『現在登録されているのはヘリオスとミネルヴァです』

「ミネルヴァ?」

淡々と答えるルールミナスの言葉の中に聞き覚えのない人名なので、思わず聞き返してしまった。

「……ミーネが家名と共に捨てた名前だよ」

ヘリオスさんがルールミナスの代わりに答えた。

『返答は以上です。登録処理に移りますか?』

「ああ、やってくれ」

首を傾けて問いかけてくるルールミナスに俺は即答した。ヘリオスさんの反応が少し気になるが、そのデメリットとここの設備を利用できるようになるメリットを天秤にかければ、今後のためにもメリットの方に傾くのは必然だった。

「大丈夫ですか、優さん」

飛鳥が心配してくれて声をかけてきてくれた。

「心配させて申し訳ないが、今後のアリシア王女達の動向を把握するために、ここの設備を使わないのは大きな損失になる。多少のデメリットは仕方ないよ」

そう俺が答えると、飛鳥は渋々納得してくれた。

『こちらを頭部に付けて、ここに手を付けてください。準備ができたら、言ってください。処理を始めますので』

ルールミナスはそう言うと、ヘッドホンの様な機器を俺に渡し、円柱の頭頂部に掌が描かれたパネルを指し示し、自身は円柱の傍にある端末のキーボードを慣れた手つきで操作していた。

「準備完了だ」

『わかりました”新規代理管理者権限付与登録を開始』

〔了解シマシタ。登録処理ヲ開始シマス〕

俺の言葉を受けて、ルールミナスがキーボード入力と音声入力も必要あるのか、作業名を読み上げると、機械音声の反応があった。

「!?」

直後に全身を電流が駆け抜けたと思ったら、俺の意識は闇に包まれた。



「う……」

「あっ、目が覚めましたか、優さん?」

意識が戻って、目が開いたら、俺は飛鳥の上半身を下から仰ぎ見ていた。

頭の下に感じる柔らかい感触と見覚えのあるアングル。飛鳥の一部を顔を隠す彼女の豊かな2つの山。絶景である。

あいたっ。益体のないことを考えていると、飛鳥にコツンと俺は頭を小突かれた。

「私もクロエもベルも、勝手に優さんがここの代理管理者権限登録をしたことを怒っているんですよ」

はて? ルールミナスに訊いた限り、俺の命に関わることはなかったはずだが?
なんで飛鳥はこんなにお怒りなのだろうか?

「優さん、貴方はいろいろと1人で抱えこみ過ぎです。もう少し、私達のことを頼ってください。貴方が私達のことを案じてくれている様に、私達も貴方のことが心配なんですから……」

そう言うと、飛鳥は俺を小突いたところを撫でた。

飛鳥が言う様に、たしかに俺は彼女達に頼らずに自分で物事を進めすぎたのかもしれない。振り返ってみると、否定できる部分がほとんどない。

「分かった。じゃあ、早速で悪いけれども、飛鳥にはルールミナスの件で1つお願いしよう。詳しくは寝る前にでも話すよ。ところで、みんなは?」

「分かりました。みんなは向こうの広間で夕食を摂っていますよ。起きれますか? 私達も行きましょう」

俺は名残惜しいけれども飛鳥の膝枕から起き上がり、彼女の手をとって立たせ、連れ立ってみんなが食事をしている広間へ向かった。



『姉様、美味しいです。次はこちらのを先程と同じく特盛で、トッピングを全部載せたのをください』

『なっ、なぜじゃ……』

広間に入ると、嬉し泣きをしながら、大皿から最後のスプーン一杯を口に運ぶルールミナスとクロエがorzの体勢で落ち込んでいた姿が目に飛び込んできた。一体どういう状況なんだ?

「お疲れ様です。ご主人様、飛鳥。今夜は私とクロエで用意いたしましたビーフ、
オーク、ロックバードのカレーになります。お席に案内したあと、注文を承ります」

そう言って、ベルがテーブルに案内してくれた。ポークではなく、オーク。チキンではなく、ロックバードなのがいかにもこの世界らしい。

ちなみに、カレースパイスに関しては、俺はもとより、飛鳥とクロエ、ベルを加えて、宿木亭の料理長に時々意見を訊きつつ、研究している。最初期に比べると、各々スパイスの配合が完全に分かれて、肉質に合ったものになっている。

辛さに関してはチキン、ロックバードが最も辛く、続いてポーク、オーク。3番目にビーフとなっている。当然、辛さを抑えた配合の研究もしており、甘口の研究もかなり進んでいる。

「なんでクロエは落ち込んでいるんだ?」

事情を知っているだろうベルに聞いてみる。ヴァルカさんとヘファイスさんは既に、2人の世界に没入しているため、当てにならないからだ。

「クロエが以前、宿木亭で味わったをルールミナスにも味あわせようと画策していたのですが……」

ベルはそう言って、クロエに憐れみの目を向ける。

「ああ……」

飛鳥もおそらく俺と同じく、メルキオールに到着した日の夕食で、宿木亭のカレーの辛さに悶絶しているクロエの姿を思い出したのか、納得した声をあげた。

「残念ながら、ルールミナスは辛いものが大好きで、逆効果だったということだよ。ユウ君、ご相伴にあずからせてもらっているよ」

ベルの言葉を大好物のカレーを食べれて、ご機嫌なヘリオスが継いだ。

『ほれ、ルー、ご希望のオークのカレーライスの特盛全トッピングじゃ。ああ、頬に先程のカレーのルーが付いておるではないか。しばし待て……これで綺麗になったのじゃ』

そう言って、クロエは甲斐甲斐しくルールミナスの頬をエプロンドレスのポケットから取り出した紙ナプキンで拭き取った。

『……ありがとうございます。姉様……』

ルールミナスは両目に涙を溜めて、礼を言った。

『……もう泣くでない。しばらくしたら、また一緒にいられるのじゃから。それに、この料理は冷めてしまっても美味しいが、温かい方が味は上だからの。冷ましてしまったら、もったいないのじゃ』

そう言って、クロエは今度はハンカチを出してルールミナスの涙を拭いながらそう告げる。

『はい。ありがとうございます。姉様。姉様も一緒に食べましょう』

ルールミナスは笑顔を浮かべて、再びクロエに礼を述べた。

『そうじゃのう。すぐに用意するのじゃ。しばし、待て』

『はい』

そう言って、自分も特盛全トッピングのオークカレーライスを用意するクロエの言葉に、ルールミナスは満面の笑みを浮かべた。


「クロエとルールミナスさん再会できてよかったですね」

飛鳥が2人のやりとりを見て、言った。

「……そうだな。ベル、俺はビーフカレー大盛でトッピングは全部載せで頼む。飛鳥はどうする?」

「あっ、私もビーフカレーで並盛でお願いします」

「畏まりました」

ルールミナスに触発された訳ではないが、空腹を満たすべく俺はベルにカレーを頼んだ。

俺たちは穏やかな空気の中、クロエとベルが作ったカレーライスを堪能した。



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