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第1章 王都までの道中~これまでの振り返り
第4話 シンシアという許婚の少女(前編)
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「むにゃむにゃ……アルのハンバーグおいしいよう……」
自重なし特製馬車は2階構成。その2階部分に備え付けのベッドで横になっている
俺、アルス・アクエリアスの右横で、俺の右腕をがっしりと両手両足でホールドし
ながら、幸せそうな寝言を呟いて、夢の世界の住人になっている綺麗な金髪橙眼の
お嬢さんの名はシンシア・レグルス。俺の許婚の1人だ。
彼女の特徴の1つは頭についている狼の耳と尻尾。種族としてシンシアは金狼種
の獣人の混血児だ。
金狼種の獣人は狼種獣人の希少上位種で[エレファンティネ王国]の西に広がっている[ムト大森林]でいくつかの部族に分かれて集落を作っている獣人の1種族だ。
シンシアの父親のガウが金狼種の獣人。彼は俺の父のレオンハルトとパーティー
を組んでいた1流の冒険者だった。なぜだったという過去形かというと、レオンが
騎士爵になったときにパーティーメンバーはみんなプタハ村に定住することを満場
一致で決め、以後、プタハ村の狩人兼守護騎士直下の自衛団として活躍している。
彼の本名はガウ・レグルス。レグルスという姓は金狼種獣人族の長の一族が代々
もつものだそうだ。彼は次期部族長の最有力候補だったらしい。獅子種ではなくて
金狼種なのに獅子座とはこれ如何に……。
もっとも、豪放磊落なガウにとっては部族の集落は堅苦しくて、狭い社会だっ
たため、あまり居心地のいい場所ではなかったらしく、後に妻となるエリシアさんと出会ってから、次席候補だった弟さんに次期部族長の座を押し付……渡して、出奔したと俺に教えてくれた。
プタハ村に定住することを決める切っ掛けになったことの1つは、エリシアさん
との間にシンシアができたことだ。流石に流浪の身での子育ては難しいと考えて、
既知の輩と一緒なら安心できるとのことでプタハ村に定住すること
を決めたらしい。
ちなみに俺とシンシアは同い年。俺の方がシンシアよりも1日早く生まれている。
俺とシンシアの家は実は隣接している。シンシアは全く覚えていないようだが、
まだ赤ん坊のときに一度だけ顔を合わせていた。狼耳というよりも犬耳寄りのそれ
が愛くるしい赤ん坊であったのを俺は覚えている。
そして、俺とシンシアの再会は俺が魔術を使い始めて、【魔術創造】のスキル
を覚え、新しい無属性魔術を生み出そうとしていた4歳のときだった。
◇◇◇
「え? 今日から父さんは泊りがけで狩りに行ったの?」
「ええ、最近、獲物が村の近くにいなくなってしまったから、村の腕利き狩人達を
集めて泊まりの遠出をしてくることに決まったのよ」
その日、俺は前日の母クリスの魔術訓練で魔力枯渇を初体験したため起床がいつも
よりも遅れた。遅い朝食後のクリスから俺は父レオンがここしばらくの村の肉不足
の食糧事情を改善するため、村の狩人達と朝早く遠出をしたのを教えられた。
「そうそう、それからお隣のエリィも狩りに同行して出かけているから、アルとは
同い年のシアちゃんを預かっているのよ。お客様用のお部屋にいるから仲良くして
あげてね」
エリィというのはシンシアの母親であるエリシアさんの愛称だ。シアちゃんという
のはシンシアの愛称である。既に親しい親達の間では既に子供の愛称呼びは決まっ
ているようだ。いつの間にか俺は村の大人達からアルと呼ばれるようになっていた。
我が家のメイドであるエヴァンジェリン、エヴァは洗濯のために既に家から出て
いて、クリスもこれから自衛団の詰め所の番の仕事のため、昼までに行かなければ
ならないらしい。
クリスが出かけるのを見送った俺は犬耳(性格には狼耳だが)幼女のシンシアと
の親睦を深め、存分に耳と尻尾をモフらせてもらうために客室に向かった。
客室の扉をノックをするも……返事がない……あれ? 再度ノックをして、返事
を待つも返事がない。
「そろぉりぃ、お邪魔しますよ」
扉には鍵がかかっていなかったので、俺はゆっくりと扉を開けて中に入った。
すると、白いワンピースを着た腰まで金髪を伸ばしている犬耳幼女が眼を閉じて
部屋の床の上にうつ伏せで倒れていた。
密室殺人……だと!? 想定外の事態に軽く混乱した俺は素数を数えて、気分を
落ち着かせようとして、何度か数え間違え、少しだけ落ち着くことに成功した。
落ち着いたところで、俺は身動きができない赤子時代に必死にレベルを上げた
【鑑定】スキルで倒れているシンシアの状態を確認した。
=====================================
シンシア・レグルス
状態:瀕死(飢餓)
=====================================
他にもシンシアが持っている称号やらスキルが眼に入ったのだが、とりあえず俺の
目の前で倒れている犬耳幼女は死にそうな程に腹が減って倒れているのを理解した。
だが、我が家の食糧庫は固く施錠されており、開けるための鍵はエヴァとクリス
が持っている。また、肝心のその2人は仕事で不在。そうなると、俺が食糧庫から
食べ物を調達するのは困難だ。後々厄介で面倒なことになる手段はあるので、でき
ないとは言わない。今回はその方法を選択する必要はない。あくまで最終手段だ。
なぜなら、俺が先日覚えた【時空魔術】の【空間収納】内には実験のために入れ
ていた紅茶が入っている『水筒』と非常時用の『干し肉』が数個。他にも、昨日の
おやつとしてエヴァが作ってくれた『クッキー』が5枚入れてある。
俺はとりあえず【空間収納】から『クッキー』5枚と『水筒(紅茶入り)』、
『皿』、『コップ』を2つ、それらを置くミニテーブルを取り出し、水筒から紅茶
を飲めるように2つのコップそれぞれに淹れた。
そして、俺は1枚のクッキーを倒れているシンシアの口元に近づけた。
シンシアは俺が『クッキー』を取り出すと、鼻をひくつかせた。次にクッキーを
口元に俺が近づけたら、シンシアはクッキーだけにかじりついた。
両眼をつむっていてよく俺の指を噛まなかったなと俺は思った。それから、2~
3回咀嚼した後にシンシアはクッキーを飲み込んで、閉じていた目を開いた。
自重なし特製馬車は2階構成。その2階部分に備え付けのベッドで横になっている
俺、アルス・アクエリアスの右横で、俺の右腕をがっしりと両手両足でホールドし
ながら、幸せそうな寝言を呟いて、夢の世界の住人になっている綺麗な金髪橙眼の
お嬢さんの名はシンシア・レグルス。俺の許婚の1人だ。
彼女の特徴の1つは頭についている狼の耳と尻尾。種族としてシンシアは金狼種
の獣人の混血児だ。
金狼種の獣人は狼種獣人の希少上位種で[エレファンティネ王国]の西に広がっている[ムト大森林]でいくつかの部族に分かれて集落を作っている獣人の1種族だ。
シンシアの父親のガウが金狼種の獣人。彼は俺の父のレオンハルトとパーティー
を組んでいた1流の冒険者だった。なぜだったという過去形かというと、レオンが
騎士爵になったときにパーティーメンバーはみんなプタハ村に定住することを満場
一致で決め、以後、プタハ村の狩人兼守護騎士直下の自衛団として活躍している。
彼の本名はガウ・レグルス。レグルスという姓は金狼種獣人族の長の一族が代々
もつものだそうだ。彼は次期部族長の最有力候補だったらしい。獅子種ではなくて
金狼種なのに獅子座とはこれ如何に……。
もっとも、豪放磊落なガウにとっては部族の集落は堅苦しくて、狭い社会だっ
たため、あまり居心地のいい場所ではなかったらしく、後に妻となるエリシアさんと出会ってから、次席候補だった弟さんに次期部族長の座を押し付……渡して、出奔したと俺に教えてくれた。
プタハ村に定住することを決める切っ掛けになったことの1つは、エリシアさん
との間にシンシアができたことだ。流石に流浪の身での子育ては難しいと考えて、
既知の輩と一緒なら安心できるとのことでプタハ村に定住すること
を決めたらしい。
ちなみに俺とシンシアは同い年。俺の方がシンシアよりも1日早く生まれている。
俺とシンシアの家は実は隣接している。シンシアは全く覚えていないようだが、
まだ赤ん坊のときに一度だけ顔を合わせていた。狼耳というよりも犬耳寄りのそれ
が愛くるしい赤ん坊であったのを俺は覚えている。
そして、俺とシンシアの再会は俺が魔術を使い始めて、【魔術創造】のスキル
を覚え、新しい無属性魔術を生み出そうとしていた4歳のときだった。
◇◇◇
「え? 今日から父さんは泊りがけで狩りに行ったの?」
「ええ、最近、獲物が村の近くにいなくなってしまったから、村の腕利き狩人達を
集めて泊まりの遠出をしてくることに決まったのよ」
その日、俺は前日の母クリスの魔術訓練で魔力枯渇を初体験したため起床がいつも
よりも遅れた。遅い朝食後のクリスから俺は父レオンがここしばらくの村の肉不足
の食糧事情を改善するため、村の狩人達と朝早く遠出をしたのを教えられた。
「そうそう、それからお隣のエリィも狩りに同行して出かけているから、アルとは
同い年のシアちゃんを預かっているのよ。お客様用のお部屋にいるから仲良くして
あげてね」
エリィというのはシンシアの母親であるエリシアさんの愛称だ。シアちゃんという
のはシンシアの愛称である。既に親しい親達の間では既に子供の愛称呼びは決まっ
ているようだ。いつの間にか俺は村の大人達からアルと呼ばれるようになっていた。
我が家のメイドであるエヴァンジェリン、エヴァは洗濯のために既に家から出て
いて、クリスもこれから自衛団の詰め所の番の仕事のため、昼までに行かなければ
ならないらしい。
クリスが出かけるのを見送った俺は犬耳(性格には狼耳だが)幼女のシンシアと
の親睦を深め、存分に耳と尻尾をモフらせてもらうために客室に向かった。
客室の扉をノックをするも……返事がない……あれ? 再度ノックをして、返事
を待つも返事がない。
「そろぉりぃ、お邪魔しますよ」
扉には鍵がかかっていなかったので、俺はゆっくりと扉を開けて中に入った。
すると、白いワンピースを着た腰まで金髪を伸ばしている犬耳幼女が眼を閉じて
部屋の床の上にうつ伏せで倒れていた。
密室殺人……だと!? 想定外の事態に軽く混乱した俺は素数を数えて、気分を
落ち着かせようとして、何度か数え間違え、少しだけ落ち着くことに成功した。
落ち着いたところで、俺は身動きができない赤子時代に必死にレベルを上げた
【鑑定】スキルで倒れているシンシアの状態を確認した。
=====================================
シンシア・レグルス
状態:瀕死(飢餓)
=====================================
他にもシンシアが持っている称号やらスキルが眼に入ったのだが、とりあえず俺の
目の前で倒れている犬耳幼女は死にそうな程に腹が減って倒れているのを理解した。
だが、我が家の食糧庫は固く施錠されており、開けるための鍵はエヴァとクリス
が持っている。また、肝心のその2人は仕事で不在。そうなると、俺が食糧庫から
食べ物を調達するのは困難だ。後々厄介で面倒なことになる手段はあるので、でき
ないとは言わない。今回はその方法を選択する必要はない。あくまで最終手段だ。
なぜなら、俺が先日覚えた【時空魔術】の【空間収納】内には実験のために入れ
ていた紅茶が入っている『水筒』と非常時用の『干し肉』が数個。他にも、昨日の
おやつとしてエヴァが作ってくれた『クッキー』が5枚入れてある。
俺はとりあえず【空間収納】から『クッキー』5枚と『水筒(紅茶入り)』、
『皿』、『コップ』を2つ、それらを置くミニテーブルを取り出し、水筒から紅茶
を飲めるように2つのコップそれぞれに淹れた。
そして、俺は1枚のクッキーを倒れているシンシアの口元に近づけた。
シンシアは俺が『クッキー』を取り出すと、鼻をひくつかせた。次にクッキーを
口元に俺が近づけたら、シンシアはクッキーだけにかじりついた。
両眼をつむっていてよく俺の指を噛まなかったなと俺は思った。それから、2~
3回咀嚼した後にシンシアはクッキーを飲み込んで、閉じていた目を開いた。
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