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本編
第四話 海漬け
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カポッカポッ・・・・
夕方の道路に、馬の蹄の音が響く。それも複数のものだ。
わたしたち野馬追部が、公道を馬で走っているのだ。
(いっけない。前方との距離が開いちゃった。)
ボーっとしてたわたしは、気を取り直すと、天照の腹を軽く蹴った。
先頭を行く池月に、スピードを合わせる。
池月に乗っている狼森先輩が左手を高く上げて、横に倒した。これは、左に曲がる合図だ。
曲がり角で、左側の脇をちょっと開いた。天照は、すんなりと左に曲がる。
「こっから海岸はいるぞー」
狼森先輩の声が聞こえた。
「はーい。わかりましたー」
砂浜に入ったところで、先輩が池月を止めた。
光太、わたし、結那の順で、先輩のとなりにならぶように馬を止める。
「よし!ここらで、海漬けをしよう」
海漬けについては、ここまでの道中にきいていた。
馬の脚を海に入れて冷やすことだ。
狼森先輩によると、鹿児島には、競走馬のための海漬け施設があるくらい、馬にはいいんだって。
「じゃあ、それぞれ自由に海漬けをして、終わった人から厩舎に帰っていいよ」
『はーい』
先輩と結那は、早々とどっかに行ってしまった。
どうしたらいいのかわからず、わたしはその場から動けない。
後ろから蹄の音が近づいてきた。
誰かがわたしのとなりに馬を並べる。
全身真っ黒の馬、摺墨だ。その上に乗ってるのは、担当者の光太。
「いっしょにやろう。ついてきな」
「へ?」
そういえば、光太の声を聞いたのって、ひさしぶりな気がする。
「いいから」
光太は、何のためらいもなく摺墨を波打ち際に進めた。そのまま摺墨を海に入れる。
「ちょ、ちょっと待って」
わたしもあわてて後を追う。
ザブン
なれてるからか、何のためらいもなく海に入る天照。
わたしの心は、さっきからずっと、ドキドキしてる。
だって、こんなこと、前にいた東京の乗馬クラブでは、なかったんだもん。
光太のとなりに、馬を並べて歩く。
「光太、光太はどうして野馬追部に入ったの?」
前から気になってたんだ。結那はおもしろそうだから、先輩は家の都合で。ということはわかってたけど、光太は普段から無口だから、よくわかんなかったんだ。
「うちは、源義経の直系の子孫なんだ。だから、昔の甲冑とかに興味があるんだ。で、野馬追(ここ)部に入った」
え・・・でも・・・・・
「源義経って、最後は家族もろとも自殺するんじゃなかったっけ?」
「子どもだけは、生き残ったってうちでは伝えられてる。で、その子孫がうちだって」
へぇ~。
海から上がって、馬を降りた。
天照と摺墨を近くの木につないで、二人で地面に腰を下ろす。
結那と先輩は、先に帰ったみたいで、姿は見えない。
「ところでさ・・・」
わたしは、光太を見ながら口を開いた。
「わたしは、昔から乗馬をしてきた。それこそ、東京の馬事公苑でわたしに並ぶ総合馬術の選手はいなかったと思う」
「・・・」
光太は何も言わず、海を見ていた。
「でも、これまでわたしが習ってきたのは、馬術であって野馬追用の乗り方じゃない」
後ろを見ると、天照と摺墨がのんびりと草を食んでいる。
「だからさ・・・」
わたしは光太にむかって右手を差し出す。
「これから、野馬追のことたくさん教えて頂戴」
光太は少しの間、わたしの右手を見つめると、それをしっかりと握り返してきた。
「じゃ、そろそろかえりますか」
時計を見ると、もう午後五時近くだ。
わたしたちは、それぞれの馬にまたがると、その腹を軽く蹴る。
そして、砂浜を後にした。
二人で馬を並べて、町を歩いてた時だった。
ポクッポクッ
後ろから、真っ白な馬に乗った人が近づいてきて、わたしたちの横に並んだ。
「お兄ちゃん、デートですか?いいですねぇ」
馬上の人が声をかけてくる。
「ちょっ、小梅、全然そんなんじゃない!」
光太が言い返す。
誰?この人?
「妹の小梅。今中二」
「よろしくねっ」
小梅ちゃんがあいさつする。
小梅ちゃんは、なぜか髪の毛が白い。肌も、不健康なほど白い。
「これ、染めてるんじゃないです。アルビノなんですよ」
小梅ちゃんは、その瞳が青い目を細めて、笑った。
「変に思いますよね」
「そんなことないよ!白い髪の毛って、アニメキャラみたいでかっこいいじゃん。」
「そうですか?」
「そうだよ、でも、わたしは、光太の彼女じゃないからね。」
ここだけはしっかりと言っておく。
「はいはい、わかりましたよー」
小梅ちゃんは、乗ってる馬に拍車をかけて、わたしたちから離れていった。
「あいつも野馬追出たいんだ。でも、出れない」
遠ざかってく背中を見ながら、光太が言った。
「なんで?」
「あいつアルビノだろ?うまれつきメラニンが少ないから、紫外線に弱いんだ。だから、夏にある野馬追には出れないんだ。それに、あの髪じゃ、騎馬会には入れない」
騎馬会は、野馬追武者が所属する組織だ。
「そうなんだ」
「おれが野馬追やるのは、アイツの代わりってとこもあるな。」
光太はそう言うと、摺墨の腹を蹴った。
夕方の道路に、馬の蹄の音が響く。それも複数のものだ。
わたしたち野馬追部が、公道を馬で走っているのだ。
(いっけない。前方との距離が開いちゃった。)
ボーっとしてたわたしは、気を取り直すと、天照の腹を軽く蹴った。
先頭を行く池月に、スピードを合わせる。
池月に乗っている狼森先輩が左手を高く上げて、横に倒した。これは、左に曲がる合図だ。
曲がり角で、左側の脇をちょっと開いた。天照は、すんなりと左に曲がる。
「こっから海岸はいるぞー」
狼森先輩の声が聞こえた。
「はーい。わかりましたー」
砂浜に入ったところで、先輩が池月を止めた。
光太、わたし、結那の順で、先輩のとなりにならぶように馬を止める。
「よし!ここらで、海漬けをしよう」
海漬けについては、ここまでの道中にきいていた。
馬の脚を海に入れて冷やすことだ。
狼森先輩によると、鹿児島には、競走馬のための海漬け施設があるくらい、馬にはいいんだって。
「じゃあ、それぞれ自由に海漬けをして、終わった人から厩舎に帰っていいよ」
『はーい』
先輩と結那は、早々とどっかに行ってしまった。
どうしたらいいのかわからず、わたしはその場から動けない。
後ろから蹄の音が近づいてきた。
誰かがわたしのとなりに馬を並べる。
全身真っ黒の馬、摺墨だ。その上に乗ってるのは、担当者の光太。
「いっしょにやろう。ついてきな」
「へ?」
そういえば、光太の声を聞いたのって、ひさしぶりな気がする。
「いいから」
光太は、何のためらいもなく摺墨を波打ち際に進めた。そのまま摺墨を海に入れる。
「ちょ、ちょっと待って」
わたしもあわてて後を追う。
ザブン
なれてるからか、何のためらいもなく海に入る天照。
わたしの心は、さっきからずっと、ドキドキしてる。
だって、こんなこと、前にいた東京の乗馬クラブでは、なかったんだもん。
光太のとなりに、馬を並べて歩く。
「光太、光太はどうして野馬追部に入ったの?」
前から気になってたんだ。結那はおもしろそうだから、先輩は家の都合で。ということはわかってたけど、光太は普段から無口だから、よくわかんなかったんだ。
「うちは、源義経の直系の子孫なんだ。だから、昔の甲冑とかに興味があるんだ。で、野馬追(ここ)部に入った」
え・・・でも・・・・・
「源義経って、最後は家族もろとも自殺するんじゃなかったっけ?」
「子どもだけは、生き残ったってうちでは伝えられてる。で、その子孫がうちだって」
へぇ~。
海から上がって、馬を降りた。
天照と摺墨を近くの木につないで、二人で地面に腰を下ろす。
結那と先輩は、先に帰ったみたいで、姿は見えない。
「ところでさ・・・」
わたしは、光太を見ながら口を開いた。
「わたしは、昔から乗馬をしてきた。それこそ、東京の馬事公苑でわたしに並ぶ総合馬術の選手はいなかったと思う」
「・・・」
光太は何も言わず、海を見ていた。
「でも、これまでわたしが習ってきたのは、馬術であって野馬追用の乗り方じゃない」
後ろを見ると、天照と摺墨がのんびりと草を食んでいる。
「だからさ・・・」
わたしは光太にむかって右手を差し出す。
「これから、野馬追のことたくさん教えて頂戴」
光太は少しの間、わたしの右手を見つめると、それをしっかりと握り返してきた。
「じゃ、そろそろかえりますか」
時計を見ると、もう午後五時近くだ。
わたしたちは、それぞれの馬にまたがると、その腹を軽く蹴る。
そして、砂浜を後にした。
二人で馬を並べて、町を歩いてた時だった。
ポクッポクッ
後ろから、真っ白な馬に乗った人が近づいてきて、わたしたちの横に並んだ。
「お兄ちゃん、デートですか?いいですねぇ」
馬上の人が声をかけてくる。
「ちょっ、小梅、全然そんなんじゃない!」
光太が言い返す。
誰?この人?
「妹の小梅。今中二」
「よろしくねっ」
小梅ちゃんがあいさつする。
小梅ちゃんは、なぜか髪の毛が白い。肌も、不健康なほど白い。
「これ、染めてるんじゃないです。アルビノなんですよ」
小梅ちゃんは、その瞳が青い目を細めて、笑った。
「変に思いますよね」
「そんなことないよ!白い髪の毛って、アニメキャラみたいでかっこいいじゃん。」
「そうですか?」
「そうだよ、でも、わたしは、光太の彼女じゃないからね。」
ここだけはしっかりと言っておく。
「はいはい、わかりましたよー」
小梅ちゃんは、乗ってる馬に拍車をかけて、わたしたちから離れていった。
「あいつも野馬追出たいんだ。でも、出れない」
遠ざかってく背中を見ながら、光太が言った。
「なんで?」
「あいつアルビノだろ?うまれつきメラニンが少ないから、紫外線に弱いんだ。だから、夏にある野馬追には出れないんだ。それに、あの髪じゃ、騎馬会には入れない」
騎馬会は、野馬追武者が所属する組織だ。
「そうなんだ」
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光太はそう言うと、摺墨の腹を蹴った。
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