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白い結婚上等よ!今夜は仁義なき舌戦いたします!
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幼馴染のスコットとの結婚初夜。
ちなみにこれでも政略結婚ではない。
夫婦の寝室だというのに新婚とは思えないほど冷めた空気が漂っている。
喧嘩ばかりではいけないと思いつつも、昔からの言い合いも止められず、ついに結婚式が終わっても関係は変わらず。
私はとても怒っていた。
結婚式に向けて準備だって大変だったし、ウエディングドレスを綺麗に着こなすためにお肌や髪の毛だって手入れを充分に続けた。
朝からドレスアップして、式をこなして、友人や親族、関係者を招いての披露パーティでだって、精一杯笑顔で臨んでいたっていうのに。
そんな私になんだって言うのよ、この新郎は!
そもそもの発端はスコットの友人が、よりにもよって披露パーティ中にたいそう下品な話をスコットにしてきたのを偶然聞いてしまったことによる。
私が席を外していると思っていたのだとしても、ありえない!
可愛くないのは重々承知よ!
でも、今日結婚した相手に、わざわざそれ言うかね?
神経を疑ってしまう。そんな人と友人だということも。
白い結婚? 喧嘩なら買うわよ、上等よ!
許せん! これから舌戦だ!!
「俺はあいつに色気は感じない、でしたか?」
「······」
「このまま結婚したら白い結婚コース確定、とか?」
「······」
「じゃあそういうことでいいですわよね?」
「あれは悪友が昔のことをわざと持ち出して、その」
「その頃からそう思ってたってことですね?」
「確かにそう言ったけど、もう学生時代のことだから」
「ずっとそう思ってたんなら、そっちから婚約解消すればよかったのに!」
「それはできないだろ! 俺たちの家族だってあんなに喜んでたのに」
「こんなふうに不幸になる結婚なら、家族も解消で納得したわよ!」
「お前いま不幸だって思ってるのか!」
「それはそっちでしょう! とにかく白い結婚にしたいのは私も同感よ! だからそうしましょう」
スコットはため息をつくと、ナイフで指を切ってシーツに血を落とす。
真っ白なシーツにポタリポタリと赤い染みが出来る。
スコットのため息に対抗するように、私だって盛大にため息をついてやる。
「これでいいだろ? もう休もうぜ」
「だめよ! 血だけじゃ偽装できない! 出しなさいよ」
「え? 何を······ってもしかして?」
「······唾液でいいわよ! なんかドロッとした液体を混ぜればバレないでしょ」
「······いやだ」
「は?」
「恥ずかしいからいやだ! それならお前がやってくれ!!」
「何言ってるの! 私だっていやよ!」
スコットは何度目かのため息をつきながらがしがしと髪を乱す。ほんのり水滴が残っている髪の毛。
小さい時は、『まだ濡れてるよ』なんて言ってタオルで拭いてあげていたのに。
いつからか『弟みたいにするな』と怒られるようになって、なんだか喧嘩することが増えた。
そんな関係のままでいたある日のこと。
お互いの家格も釣り合うし、親同士も親しいし、ということで私達は婚約することになったのだ。
婚約者となっても、微妙な関係は変わらなかった。
スコットと私は同じ王立学院に進学したが、私は淑女科、スコットは騎士科と別れ、また校舎も別なので早々会うこともない。
スコットが選ばれた剣術大会の応援に行った時にも、迷惑なような素っ気なさで対応された。
――私と関わりたくないんだな。
そう思って、そこからは極力学校で近寄るのはやめた。
たまに二人で出かけても、刺繍のハンカチを贈っても、ひょんなことからすぐ言い合いになってしまう。
屈託なく話せていたことなんてもう随分昔のことのように思える。
なのに私は、昔スコットにもらった白百合の髪飾りを今も大事に使っているのだ。
憎らしいことに。
「ちょっと一回気持ちを切り替えて、お酒でも飲んで話さないか?」
「······うん」
ソファに座り、用意されていたワインとフルーツを前にグラスを傾ける。
しばらくお互い黙ったまま、私は手持ち無沙汰にフルーツをつまみ、スコットは二杯目を注いでいる。
時計の音が響くわね。
静かすぎるせいかしら。
でも、さっきまでのギスギスした空気は、時計の音で消えてしまったみたいに、柔らかくなる。
私もフルーツの甘みで気持ちが落ち着いてきた。
「もう少し飲むか?」
「いえ、もう大丈夫」
「お酒強くないもんな」
「あなただってそうでしょ?」
「でも······、もう少し飲まないと······」
一気にグラスをあおるスコット。
目尻がだいぶ赤くなっている。
「大丈夫なの?」
私はスコットを覗き込む。
スコットの顔が真っ赤に染まり、ふいと顔を背ける。
「何よ! 心配したのに」
「······、あの、サリー」
目を合わせると、ランプの光を瞳に映したスコットが、意を決したように口を開く。
「ごめん。あの、本当に違うんだ。お前の、サリーとのこと冷やかされるのが恥ずかしくて、サリーのこと変に想像されるのもいやで、だからおかしなこと言ってしまったんだ。学生時代に。馬鹿でごめん」
言葉が頭に入ってきたら、急に体がカッと熱くなった。
え、照れただけ?
ってことは、そういうこと?
そう理解すると、私までものすごく恥ずかしい。
いつもの軽口。いつもの喧嘩。それが取り払われたらもうただの可愛い人だ。
「サリー、サリー、好きなんだ。喧嘩で言いくるめられて、得意そうにしてる顔も可愛いと思うくらいに」
私の手の上に、スコットの武骨なあたたかい手が重ねられる。
体温が繋がって、気持ちがいい。
これって、やっぱりスコットが愛しいからだ。
「結婚する前に言おうと思ってたのに、遅くなってごめん」
落ち着いてよく見ると、この寝室には素敵なカサブランカがたくさん飾ってある。
「スコット、もしかしてこれって······」
「サリーは白百合が好きだから、薔薇じゃなくてカサブランカを用意したんだ」
「覚えてたのね、だからブーケも?」
スコットはにっこり笑って頷いた。
さっきまで震えて見えたまつげはもう揺らがずに、私に向かっている。
「サリー、好きだよ。結婚したらゆっくりと愛してると言おうと思ってたんだ」
「私も大好きよ、スコット。この気持ちが愛に変わるんだなと感じるわ。時々言い負かしちゃうかもしれないけど」
スコットは重ねていた私の手をぎゅっと掴み、軽く笑い声を立てる。
「俺、サリーと言い合いするも好きなんだ。だから白い結婚はなしで」
「でも、」
私は部屋を見回して、花の匂いを吸い込みながら、満面の笑みを浮かべる。
少し不安そうな瞳がかわいそうで愛おしいから、頬にキスを贈ってあげる。
「こんな素敵な白い結婚なら大歓迎ね」
ちなみにこれでも政略結婚ではない。
夫婦の寝室だというのに新婚とは思えないほど冷めた空気が漂っている。
喧嘩ばかりではいけないと思いつつも、昔からの言い合いも止められず、ついに結婚式が終わっても関係は変わらず。
私はとても怒っていた。
結婚式に向けて準備だって大変だったし、ウエディングドレスを綺麗に着こなすためにお肌や髪の毛だって手入れを充分に続けた。
朝からドレスアップして、式をこなして、友人や親族、関係者を招いての披露パーティでだって、精一杯笑顔で臨んでいたっていうのに。
そんな私になんだって言うのよ、この新郎は!
そもそもの発端はスコットの友人が、よりにもよって披露パーティ中にたいそう下品な話をスコットにしてきたのを偶然聞いてしまったことによる。
私が席を外していると思っていたのだとしても、ありえない!
可愛くないのは重々承知よ!
でも、今日結婚した相手に、わざわざそれ言うかね?
神経を疑ってしまう。そんな人と友人だということも。
白い結婚? 喧嘩なら買うわよ、上等よ!
許せん! これから舌戦だ!!
「俺はあいつに色気は感じない、でしたか?」
「······」
「このまま結婚したら白い結婚コース確定、とか?」
「······」
「じゃあそういうことでいいですわよね?」
「あれは悪友が昔のことをわざと持ち出して、その」
「その頃からそう思ってたってことですね?」
「確かにそう言ったけど、もう学生時代のことだから」
「ずっとそう思ってたんなら、そっちから婚約解消すればよかったのに!」
「それはできないだろ! 俺たちの家族だってあんなに喜んでたのに」
「こんなふうに不幸になる結婚なら、家族も解消で納得したわよ!」
「お前いま不幸だって思ってるのか!」
「それはそっちでしょう! とにかく白い結婚にしたいのは私も同感よ! だからそうしましょう」
スコットはため息をつくと、ナイフで指を切ってシーツに血を落とす。
真っ白なシーツにポタリポタリと赤い染みが出来る。
スコットのため息に対抗するように、私だって盛大にため息をついてやる。
「これでいいだろ? もう休もうぜ」
「だめよ! 血だけじゃ偽装できない! 出しなさいよ」
「え? 何を······ってもしかして?」
「······唾液でいいわよ! なんかドロッとした液体を混ぜればバレないでしょ」
「······いやだ」
「は?」
「恥ずかしいからいやだ! それならお前がやってくれ!!」
「何言ってるの! 私だっていやよ!」
スコットは何度目かのため息をつきながらがしがしと髪を乱す。ほんのり水滴が残っている髪の毛。
小さい時は、『まだ濡れてるよ』なんて言ってタオルで拭いてあげていたのに。
いつからか『弟みたいにするな』と怒られるようになって、なんだか喧嘩することが増えた。
そんな関係のままでいたある日のこと。
お互いの家格も釣り合うし、親同士も親しいし、ということで私達は婚約することになったのだ。
婚約者となっても、微妙な関係は変わらなかった。
スコットと私は同じ王立学院に進学したが、私は淑女科、スコットは騎士科と別れ、また校舎も別なので早々会うこともない。
スコットが選ばれた剣術大会の応援に行った時にも、迷惑なような素っ気なさで対応された。
――私と関わりたくないんだな。
そう思って、そこからは極力学校で近寄るのはやめた。
たまに二人で出かけても、刺繍のハンカチを贈っても、ひょんなことからすぐ言い合いになってしまう。
屈託なく話せていたことなんてもう随分昔のことのように思える。
なのに私は、昔スコットにもらった白百合の髪飾りを今も大事に使っているのだ。
憎らしいことに。
「ちょっと一回気持ちを切り替えて、お酒でも飲んで話さないか?」
「······うん」
ソファに座り、用意されていたワインとフルーツを前にグラスを傾ける。
しばらくお互い黙ったまま、私は手持ち無沙汰にフルーツをつまみ、スコットは二杯目を注いでいる。
時計の音が響くわね。
静かすぎるせいかしら。
でも、さっきまでのギスギスした空気は、時計の音で消えてしまったみたいに、柔らかくなる。
私もフルーツの甘みで気持ちが落ち着いてきた。
「もう少し飲むか?」
「いえ、もう大丈夫」
「お酒強くないもんな」
「あなただってそうでしょ?」
「でも······、もう少し飲まないと······」
一気にグラスをあおるスコット。
目尻がだいぶ赤くなっている。
「大丈夫なの?」
私はスコットを覗き込む。
スコットの顔が真っ赤に染まり、ふいと顔を背ける。
「何よ! 心配したのに」
「······、あの、サリー」
目を合わせると、ランプの光を瞳に映したスコットが、意を決したように口を開く。
「ごめん。あの、本当に違うんだ。お前の、サリーとのこと冷やかされるのが恥ずかしくて、サリーのこと変に想像されるのもいやで、だからおかしなこと言ってしまったんだ。学生時代に。馬鹿でごめん」
言葉が頭に入ってきたら、急に体がカッと熱くなった。
え、照れただけ?
ってことは、そういうこと?
そう理解すると、私までものすごく恥ずかしい。
いつもの軽口。いつもの喧嘩。それが取り払われたらもうただの可愛い人だ。
「サリー、サリー、好きなんだ。喧嘩で言いくるめられて、得意そうにしてる顔も可愛いと思うくらいに」
私の手の上に、スコットの武骨なあたたかい手が重ねられる。
体温が繋がって、気持ちがいい。
これって、やっぱりスコットが愛しいからだ。
「結婚する前に言おうと思ってたのに、遅くなってごめん」
落ち着いてよく見ると、この寝室には素敵なカサブランカがたくさん飾ってある。
「スコット、もしかしてこれって······」
「サリーは白百合が好きだから、薔薇じゃなくてカサブランカを用意したんだ」
「覚えてたのね、だからブーケも?」
スコットはにっこり笑って頷いた。
さっきまで震えて見えたまつげはもう揺らがずに、私に向かっている。
「サリー、好きだよ。結婚したらゆっくりと愛してると言おうと思ってたんだ」
「私も大好きよ、スコット。この気持ちが愛に変わるんだなと感じるわ。時々言い負かしちゃうかもしれないけど」
スコットは重ねていた私の手をぎゅっと掴み、軽く笑い声を立てる。
「俺、サリーと言い合いするも好きなんだ。だから白い結婚はなしで」
「でも、」
私は部屋を見回して、花の匂いを吸い込みながら、満面の笑みを浮かべる。
少し不安そうな瞳がかわいそうで愛おしいから、頬にキスを贈ってあげる。
「こんな素敵な白い結婚なら大歓迎ね」
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