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スピーチ

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 全員が集合した広場もとい体育館の中。魔術学校における新入生全員を一気に収めることができる場所が体育館しかなく、新入生たちはその中に押し込められた。無論レインたちも体育館に着いた時点で自身の受験番号通りの順番で用意されていた椅子に腰を下ろすよう指示をされた。

 隣にはリシルがいた。

「あ、リシル」

「こんにちはレイン君。私と会えなくて寂しかった?」

「うーん、ちょっとだけ?」

「……くぅ」

「?」

 同室のギルはどこか違う席へと向かっていった。どこの席かまでは見ていなかったものの、目に見える範囲には見つからなかった。

「そういえば、リシルの同室の子はどんな人だった?」

「ん?大変に興味深い人だったわ」

「興味深い?」

 魔術師としてそれなりに優秀だとレインが判断したリシルガそういうのなら、きっと本当に興味深いのだろう。

「一体どんな人だったの?」

「なんというか、その……自分の中に自分自身の世界を持っている感じの子だったわ」

 よくわからなかったが、会ってみればわかることだろう。どうせ新入生が取るであろう必修の授業には出席するだろうから。レインはどんな授業を選択するべきか今から悩み始めていた。

 他の生徒たちが入学式というものに浮かれているのに対し、レインはこれからの生活をどう学びに活かせるか考えていた。レインのレベルを一言で表せと言われれば周囲はきっと「道理を超えた者」というだろう。

 人間が到達しうる限界点に並んだ存在、魔術界における知識の最前線だ。

 だがしかし、レインはそれにはまだ並んでいなかった。一部の突出した才能がレインを特級魔術師という位にまで持ち上げているからだ。レインはまだ学びが足りない、しかし基礎含め、魔術師が十年以上をかけて学ぶべき内容をレインは一年以内に学び終えていたのだ。

 このままの速度で知識を吸収し続ければレインはいずれ最前線に並ぶことができる。そうすれば、今なお進歩し続けているであろう『師匠』の傍らに立つことが許されるのだ。グレンはここで学べというが、ここでの選択肢でレインの進行速度は大きく左右されるだろう。

「……君、レイン君!」

「わっ!?」

 周りの生徒が驚きに声を上げたレインの声に反応して迷惑そうに一瞥する。小声でレインに声をかけていたリシルは少し慌てた様子を見せた。

「ちょっと!入学式始まっちゃってるよ!」

「あ、え?もう?」

 レインが熟考している間に入学式はとうにスタートしており、現在は学校長による歓迎の言葉がなされていた。

「学校長……元特級魔術師のロゼルさんか」

 〈光芒の魔女〉ロゼル。光属性の使い手であり、元特級魔術師。高齢ということもあり魔術界の戦線を退いてから久しい魔術師である。髪はもともと違う色であったのだろうが、高齢のせいで白髪に変わっており、ボサボサとしてはいたものの、清潔感の無さは感じさせず厳格に溢れていた。

 とはいえ、魔術に関してのありがたい話なんかをしているわけではなく、ただの入学祝いの言葉を生徒たちに投げかけているだけであった。残念だ。

「えーそれで、次。主席合格者による言葉」

 視界と思われる教師がそういうと、主席合格者の名前をあげた。

「今年度主席合格者、レイン。壇上へ上がりなさい」

「へ?」

 その時、レインは素っ頓狂な声を上げていた。それと同時に隣に座るリシルから……そして、別のどこかからかギルの声が聞こえた気がする。驚く声だ。

「何をしているのです、レイン。すぐに壇上へ上がりなさい」

「あ、わ、はい!」

 レインが徐に立ち上がると、列から抜け出して壇上へ上がっていく。用意された場所には魔術で拡声機能がついたマイクが置かれていた。

「では、新入生へ向けてどうぞ」

「は、え……」

 この時、レインは後悔していた。主席としてのスピーチを一切考えていなかったことを……スピーチの仕方すらも誰にも聞かなかったことを。

「えっと……」

 レイン的にスピーチなどさほど重要なことでもない。だが、こんなに大勢の前で言葉を発するのには経験が足りなすぎていた。

 ええい、やけくそだ。

「えー、みなさんと同じ学年として入学できたこと、誠に嬉しく思います」

 声は体育館全体によく響く。あーくそ、最悪だ。なんでこんなことをしなくちゃいけないんだ……。

「みなさんとは是非とも魔術の進歩について語り合いたいと思っています。僕は平民の出ですが、どうかみなさん仲良くしていただけたら大変嬉しく思います」

 その言葉で新入生の全員が動揺した。

 帝都魔術学校は貴族のためのとも言える学校だ。通う生徒の九割以上が貴族であり、貴族至上主義な面がある。十分な学習環境を与えられて育てられた貴族の生徒たちを差し置いて庶民が主席の座を掻っ攫っていたことは、貴族の生徒たち全員へに向けた挑発行為ととっても等しいものだ。

「なんで、あんな奴が……」

 そんな誰かの声を皮切りに色々な方面から野次が飛び出した。

「庶民が主席なんて、烏滸がましい」

「あんな奴より、第三王子殿下の方が相応しいわ」

 そんな声が飛び交う。

 あー、やってしまったのかこれは?レインは良くもわからずその言葉を口にしたため、大変に困惑していた。そんな中、壇上横から一人の教師が上がってきた。

 学校長である。

「静まりなさい」

 拡声器なしでも体育館中に響き渡る声。全員がその一声で野次を飛ばすことを辞めた。

「この中の一人でも、この少年が今もなお展開している魔術に気がついた者はいるの?」

 体育館中に疑問の嵐が流れた。学校長は今何のことを言っているのだろうかと……。

 一瞬、学校長がポカンとしているレインの方へと目を向けるとニヤリと笑って見せた。厳かな雰囲気のある学校長のクール然とした笑みにレインは顔を引きつらせた。

 レインは、展開している魔術という部分に冷や汗が流れた。展開している魔術はたったひとつ、水の魔術で人間の肉体を形作る魔術のみであった。

 元とはいえ特級魔術師だ。一目で特級魔術師のグレンにバレたのに、学校長にバレない道理はなかったのだ。

「学校長が認めます。この子は近年稀に見る天才ですよ。あなたたちが彼を認めるかじゃない、彼があなたたちを認めるかなのです、私が言いたかったのは以上」

 それだけいって、学校長は壇上から降りた。

 ……………いや、なんてことを宣言してくれたんですか学校長!?
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