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将軍の目的

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 火事場の馬鹿力というかなんというか……今まで試せなかっただけで実際は最初からできていたのだろう。

 力の出し方。もしかして、そもそも私は魔力の放出の仕方からすでに間違っていたのかもしれない。

 《体の中枢に余剰分の魔力が検出されました……が、これは正常な人間と同じです》

 魔力欠乏症というものはみなさんご存知であろう。魔力欠乏症になれば、最悪の場合死ぬ可能性すらある。

 死ぬ可能性というところに疑問を覚える人はもしかしたらいたのかもしれない、残念ながら私は疑いもしなかったが……。

 魔力がなくなれば人は確実に死に至る……なのにも関わらず、生き残る人がいるというのはおかしいじゃないか。その原因であるのが、奥底に溜まっている『力』だろう。

 《私の予想が正しければ、その力は体を動かすために必要なエネルギーだと思われます。それを使い切ったが最後……》

 そりゃあ当然死ぬよね。今まであの不気味な声に体を預けてパワーアップしたように見えていたけど、実際は私の生命を使って強くしてただけだったということだ。

 体を乗っ取った挙句、私の生命を使って騙していたなんて正直腹が立つ。

 《主の魔力総量から考えて余剰魔力も相当な量ですが、それすらも攻撃に回しては早死にします》

 早死にするって言ったって私の寿命千年もあるからね。

 友達が全員いなくなった後に孤独死するくらいだったら寿命縮めて戦った方がマシだよ。

 そんなことを考えていると、将軍の大鎌での攻撃がくる。速度はさっきと同じ……だけど、今回はちゃんと視界に全てを捉えることができた。

 魔力に覆われた目が将軍の指、関節の一つ一つの動きを捉える。やっぱり将軍の戦闘センスは半端じゃないようだ。

 単純な上段攻撃かと思わせておいて、小指に若干力が加わっている。これは、上段で振り下ろすとみせかけて大鎌を回転させ、足元を狙うつもりのようだ。

 私の読みは正しく、小指で弾かれた大鎌が180度回転し私の足元を狙ってきた。それをマナブレード止め、もう一本を召喚する。

「くっ……」

 横凪に振るい、将軍がバックステップで避けたことを確認してから手を離す。そして瞬時に逆手に持ち替えて胸を狙い打った。

 それは将軍の腕によるガードで阻まれたが、流石に無傷では今度は済まなかったようだ。

「あなた……この場で燃え尽きる気ですか?」

「ふん、だったら何?その前に将軍、あんたを倒すよ!」

「いけませんね……」

 将軍が歯をギリっと鳴らす。何が不満なのだろうか?将軍の攻撃は通じにくくなったものの、将軍は防御に徹して時間を稼げば勝ちなのだ。

 なのにも関わらずどうしてこうも積極的に攻撃を仕掛けてくるのだ?どうして先ほどと同じように短期決戦で決めようとしてくる?

 《将軍が無策で突っ込むのは有り得ません。何かしらの目的があるのは明白です》

 そして、目を魔力で強化する余裕が生まれて初めてわかった。将軍は隙だらけなのだ。

 一体どういうことなのか……完璧な動きのように見えて将軍の体にはところどころ隙がある。多分、本人はかなり隙を出しているつもりのようだが、普通の人にとってはほぼ完璧な動きなのが腹たつが。

 《わざと隙を晒しているあたり、カウンター目的でしょうか?》

 おそらくそう言ったスキルなのだろう。

 試しにそれに乗ってやろうじゃないか。

 大鎌とマナブレードで撃ち合う最中、ところどころに見える一瞬の隙……私はそれを魔法で射抜いてみた。もちろん軽くだ。

 これで倍返しがきたらたまったもんじゃないからね。

 だが、それは杞憂に終わったようだ。

「あなた、舐めているのですか?」

「え……」

「こんな攻撃効きもしません。もっとまともに!もっと攻撃的になれないのですか?」

「な、何よ……別にわざと手を抜いただけなんだけど?」

 将軍の雰囲気が少し変わった。淡々とした将軍が初めて怒ったような声を上げた。

 それも、まるで私に指導しているかのように……。

(カウンター目的ではない?それなのに、攻撃を受けたがっている?なんで?攻撃を喰らうことで将軍の何かが達成されるの?)

 だが、そんなことに構う暇はない。

 今度は大鎌を大きく弾き返す。

「見事」

「何よそれ!」

 私はそこで一歩踏み出すのをやめた。将軍は大鎌をゆっくりと下ろしながら聞いてきた。

「なぜそこでやめたんですか?」

「なぜ?なぜって何よ!その諦めたみたいな表情はなんなの!」

 将軍が「見事」と言った直後、目を閉じていた。明らかに手を抜いているのに……明らかに手加減されているのにも関わらず私に勝ちを譲ろうとしているのが丸わかりである。

 一体どういうことなんだ。

「お願いです、

「はあ?」

 将軍の表情にはどこか焦りが見えた。冷徹な彼女はそこにはいなく、何か待っていたチャンスを後ちょっとで掴めるといった表情をしている。

「そんなに死にたいの?」

「……私が何百年この大地に閉じこもっていると?」

「普通大地に閉じこもるっていうパワーワードは使わないんだけどね……」

「とにかく、

 聞きたいことが山ほどあったが、なぜだか私はここで彼女を刺しても彼女は死なない気がした。

 よくわからないが、直感がそう言っていた。

 しばらくの間、打ち合っていると将軍がまた隙を晒す。今度はそれを手加減することなく撃ち抜いた。

 初めて天使の体を貫いた。中身が空っぽのように、貫いたという感覚は全く伝わらなかった。

 血もない。何も入っていない空っぽな空虚な体がゆっくりと倒れた。

「ほんと、何がしたかったのかな?」

 若干の虚しさの中、私は立ち尽くしていた。その時だ。

 瓦礫が持ち上がり、何かが出てきた。

「は?」

 それは先ほど自殺したはずの大臣だった。
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