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難敵

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 獣王国へ足を運んでから一週間が経過した。

 ライ様はある程度の手配を済ませて、ミサリーも駆けずり回って働いてくれ、レオ君も力の調整ができるようになり、痕跡を作るのに勤しんでいるというのに、いまだに私の仕事はない。

 強いていうなら、ユーリを猫じゃらしを使って操縦するのが今の私の仕事である。

「にゃ!」

「あんたキツネでしょう……」

 そしてあなた魔王でしょう?元だったとしても魔王がそんなこと言っていると思ったらシュールすぎるんだよ。

 ちなみにお兄様はもうすでに帰ってきた。

 え?一ヶ月くらいかかるんじゃって?

 一ヶ月かけてきた方が自然かなって思ってやらなかったけど、実は集団転移で一瞬で帰って来れるのだよ。

 私が一度お兄様の元まで向かって追っ手がいないことを確認し、すぐさま全員転移させた。ツムちゃんの提案である。

 誇らしげな顔が目に浮かぶ……と言っても、ツムちゃんに顔があるのかは疑問が残るけど。

 お兄様にはちゃんと政務というものがあるので、しっかり働いているが、護衛役のユーリと仕事がない私は常に暇を持て余している。

 私だけ楽をしていいのか!?という焦燥感から持っているコップと猫じゃらしが震えてくる。

「そろそろ革命軍対反乱軍の構図を考えないとな」

 まず大前提に革命軍と反乱軍は名称を変えただけの同じ集団であり、お互い戦っているところを見せるのは不可能。そして、次に問題なのが、反乱軍の中でメンタルボロボロでもう戦いたくないっていう人が一定数いるのだ。

 人数調達もしないといけないな。

 ライ様の人伝を借りるか……いや、流石にそこまでの大人数を動かすとライ様繋がりでバレそうだ将軍に。

 将軍は確かに脅威ではあるが、そこまで警戒する必要はない。なぜならこっちにはユーリがいるから。

 私と二人がかりなら圧勝でしょ。

 それよりも民衆の心を掴めるかが一番不安だ。

「うーん、どうしよう?」

 と考えていると、

「それは、私の部屋で考えるべきことか?」

 と、政務中のお兄様が話しかけてきた。実はここ、お兄様の執務室である。

 執務室の中でユーリと遊んでいるのだ。

「ユーリが暇だーって嘆いているのが、聞こえた気がして」

「聞こえるわけないだろう?何も言ってなかったぞ?」

「いいや、絶対に聞こえたの!」

 と、そんな会話をしていると、扉がノックされ蘭丸さんが入ってきた。

「どうした……えっと」

「もういいでござる!そのボケはいらないでござる!わざと名前間違えようとしなくていいでござる!」

 蘭丸さんは照れくさそうにそういった。

 この間の都に向かう途中で、部下の名前全員覚えていることがバレたお兄様。蘭丸さんをからかっていつもわざと名前を間違えようとしていたらしい。

「蘭丸、どうした?」

「いえ、そろそろが来るはずなので、一応報告にと思ったでござる」

「お兄様、あの時期とは?」

「ああ、年に一度、都にいるとある幕僚が領を視察にくるんだ。視察と言う名の監視だがな。反乱の予兆がないかチェックしたいだけだろう」

 なるほど?幕府の偉い人が監視にくる季節というわけか。

「それがそろそろなんですね」

「いつも偉そうな態度で鼻につくと思うが、間違っても殴りかからないでくれ」

「私のことなんだと思ってるんですか?」

 レディーに向かってなんてことを!失礼しちゃうわ。

「って、それよりも大丈夫なんですか?」

「何がだ?」

 と、お兄様に言われて思い出す。お兄様が反乱軍のリーダーであるのを知っているのは私だけなのだ。

 この場には蘭丸さんとユーリがいる。教えても外部に漏れることはないが、約束だから私も言葉を濁してはぐらかす。

「いえ、お兄様の方こそ殴りかからないか心配で」

「ふっ、私のことをなんだと思っている?」

 反乱軍の将軍。

「全く、『政治のトップ』がわざわざ足を運んでくるなんて……面倒だよ毎年毎年」

 と嘆くお兄様。

「そうですね……って、は?」

「は?とはなんだ」

「政治のトップ!?どういうことですか?」

「そうか、ベアトリスにはまだ話してなかったな。将軍様は政治をしていない、実質的な国の頂点は視察にくる幕僚……大臣だな」

 つまり、一番の難敵じゃあないか!大臣が政治を操ってんなら、田舎差別とかそういうのもこの大臣をどうにかできたらなくなるというわけで……。

「なるほど……いい顔作っとかないと」

「?」

 敵意はないですよアピール大事。私の仕事はどうやら決まったようだ。

 《大臣に取り入るのですか?》

 先に言われたんだけど……まあその通りである。

 お酒でもつげば口も開いてくれるだろう。

「おい、何考えてるんだ?まさか危ないことじゃないだろうな?」

「そんなことするわけないじゃないですかぁー、お兄様は心配しすぎですよぉー」

「少し棒読みじゃないか!?」

 今後の課題もたくさん見つかったことだし、これからは私も忙しくなりそうだな!

 ……なお、ユーリは依然として暇である。
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