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第三陣営

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 次の日

「お嬢様、こちらの車椅子をお使いください」

「車椅子……!」

「これは魔力で動く魔道具ですので、魔力操作の練習にはうってつけです」

 ミサリーに体を持ち上げられ、ストンと椅子の上に落とされた。私、ものすごく軽いらしい。

 軽々持ち上げられるくせに、ベッドは貫通するんだね……。

「おお」

「魔力を流してみてください」

 座り心地はふわふわしていて、すぐに寝れそうだ。言われた通り扱えるようになった魔力を通してみる。

 すると、地味だった車椅子が少しだけ発光したと思ったら、少しだけ前に動いた。

「できた!」

「魔力を流す方向によって動く向きが変わりますので、気を付けてください」

「はーい!」

 車椅子に座ったまま、ドアを開けてもらい外に出る。

「久しぶりに外の景色を見た気がする!」

 実際は昨日も都の景色も見ているので久しぶりに……ではないのだが、本体で見るのは本当に数週間ぶり。

 そして、何より一番驚いたことがあるといえば、逃げ出していた人が戻ってきて私を温かく出迎えてくれたことだ。

「ベアトリス様だ!英雄様がお通りだぞー!」

「街を守ってくれてありがとうございます!」

「おお!手振ってくれたぞ!俺に向けてだよな!?」

「バカ!お前なわけないだろ!」

 なんか色々と噂が広がっているのだろうか?私が街を救った英雄みたいな扱われをしている。

 違いますから!救ったの私ではありません!

 私はただ死んで寝ていただけなんです!いや、死んでまで戦ったのだから私が一番頑張ったのでは?

 《最も大きな活躍をしたのはミハエル、ミサリー、ライであると思われます》

 知ってますし!?

 でもまあ、みんな笑って過ごせていたのでよかった。そう思いながら私は屋敷の方へと向かっていく。

「すみませーん、通してくださーい」

「か、かしこまりました」

 門番さんも私の顔を覚えてくれたのか、すぐさま門を開けてくれるようになった。顔パスでいいのか門番?

 中に入り、とりあえずライ様を探す。

 ふすまを開けることは私にはできないので捜索範囲は限られてくる。ただ、どこにいるのかはなんとなくわかる気がする。

「蘭丸さんの部屋の前……にずっと立ってるわけないもんね」

 ってことはお兄様の部屋かな?

 と思い、とりあえずお兄様の部屋へ向かってみる。廊下を通っていくと、ドアの前までたどり着いた。

 ふすまだったりドアだったり……どっちにしても私には開けられないんだけど?

「どうしよ……」

 そう思っていた時、

「義妹殿?」

 と、後ろから声をかけられる。私のことを義妹と呼ぶのは一人しかいない。

「ライ様!」

「いらしてたの?というか、その車椅子……」

「ああ、まだ体が動かないから車椅子を使ってきたんだ」

「あら、呼んでくれたら連れて行ってあげましたのに」

 ライ様はいつもと同じような表情をしていたけど、私にはどこか落ち込んでいるように見えた。

「気分はどう?」

「私はいいのですけど……蘭丸がねぇ……」

 やっぱり蘭丸さんは落ち込んでしまっているそうだ。

「来てみたはいいものの、私にできることってあるかな?」

「さあ……どうしましょうか?」

 そう思ったけどやっぱり思いつかない。

「とりあえず、お兄様に挨拶しておこうかな」

 ライ様に開けてもらい、私は中に入る。すると、そこには珍しく寝ているお兄様がいた。

「お兄様?」

「旦那様が寝てるなんて、久しぶりに見たわ」

「なんかずっと仕事しているイメージあるのにね」

 父様もずっと仕事仕事の人だったから、似ているのかな?

「旦那様寝ているようだから、私はいったん戻るわ……ドア開けといたほうがいいかしら?」

「いや、閉めといていいよ。お兄様が起きたら話したいことがあるから」


 ♦


 そして、数時間が経つ。

「おい、起きろ」

「んにゃ?」

 あれ?いつのまにか寝てた?

「なんでここで寝てるんだ?」

「んん……お兄様が寝てたから……それを待ってたの」

「お前……まあいい。今日は何の用で来たんだ?」

 今日ここで来たのは蘭丸さんの様子を見に来たというのもあるけれど、もう一つの理由がある。それが、お兄様にも関係のあることなのだ。

「昨日、都へ行ってみたんだけどね」

「は?」

「行ってみたんだけどさ」

「お前は一体何を言っている?」

 確かに初見の人はそう思うよね。けが人がいきなり遠出してきたんだから。レオ君やユーリは私が転移できることを知っているからもう驚きはしない。

「とにかく聞いて」

「わかったが……」

「幕府へ行ってみたんだけどね、とりあえず幕府に不満を持っている人はそんなにいなさそうだったの」

「そんなことは知っている。困ってるのは我々田舎民だからな」

 確かにそうなんだけど、誰もが全員幕府に不満を持ってないと、どうやっても反乱軍が悪側になってしまうのだ。

 よって、

「反乱軍は今日から敵!」

「は?」

「その代わりに新たに……第三陣営を作るのよ!」

「どういうことだ?」

 反乱軍はもう悪い印象がたくさん残ってしまっている。よって、反乱軍はこのまま悪の組織ということにするのだ。

 そういう印象を残している中、幕府はそれにまじめに対処していないということは都の住人でも疑問に思っている人がいる。

「だから、幕府の代わりに新たに作った陣営……『革命軍』という名前にしましょうか。それを作って革命軍を正義の味方のように住人に見させればいいんですよ」

「なるほど……印象の下がってしまった反乱軍は解体し、革命軍が反乱軍を潰したことにすれば良い印象がつくな」

 そして、ここで一番重要なのがこの後だ。

「反乱軍に所属しているみなさんを悪者にするわけにはいかない……ということで、反乱軍に所属している皆さんを革命軍に引き入れることが必要です」

「そうだな」

「よって、これに最もふさわしい人物はお兄様、あなたです」

「そう……なのか?」

「ええ、ということで!革命軍の将軍をお兄様が務めてください!」
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